12、少年と黒豹の出会い
orz 今回も筆が進まず、使いまわしで時間稼ぎの手抜き…やる気待ち~
◆少年と黒豹の出会い
── 小屋で暮らすセレンは、円満離婚の為に、帝国の地理や言語を勉強するために教師を依頼した ──
記憶は自然と、あの運命的な出会いに戻っていった。
十年前。
黒髪で紅瞳の少年の見た目6歳?、焦茶髪で橙目の兄らしき少年が十歳、シルバーが14歳の春の時期だ。
子供の頃のシルバーは、病弱なのを理由に、皇弟である大公に言い包められた父親の皇帝から引き離され、国境近くの大公領で虐待されて育った。
おまけに本当に病弱なのか、良く熱を出しては寝込み、食べ物も碌な料理を提供されてこなかった。いや、もしかしたら毒でも盛られていたのかもしれない。おかげで、成長も普通の少年たちよりも遅く、もう14歳になると言うのに、未だ声変わりもせず12歳くらいにしか見えない成長度合いなのだから。
その日。
シルバーは久々に体調もよく、大公が不在になったのをいい機会だとばかりに、平民の少年の格好で国境の街へ遊びに出かけた。しかしそこで、大公の手先かそれともライバルの貴族か帝国内に入り込んだ間者なのか、とにかく数人の暗殺者に狙われた。
暗殺者たちの目をごまかすために逃れようと駆け回る内に、国境近くの森へなんとか逃げ込む。
当然、森に住む動物たちが異常に騒ぎ始めた。鳥たちが警告の声を上げ、小動物が一斉に逃げ出す。
小鳥や野ウサギ、リスたちの鳴き声が緊迫して聞こえる。
シルバーは森の奥まで逃げ込んだが、武装した暗殺者たちに追い立てられた。髪が汗で濡れ、眼には必死の色が浮かぶ。シルバーは途中で足に矢を受けたために傷を負い、走る足もおぼつかず、足を引きずるしかなかった。
『── あの子を助ける!』
黒髪の6歳くらい?の少年は馬上から弓を取り、矢を放ってきた。正確ではないが、威嚇には十分だったようだ。
『承知!』
焦茶髪の兄らしき少年も馬上から短剣を投げつけ、先頭の刺客の足を止めてくれた。
黒髪は馬を巧みに操り、シルバーのそばに駆け寄ると、手を差し伸べてきた。
『手を!』
シルバーは隣国の言葉だろうが、多分見ず知らずの子供なのに、助けてくれようとしているのがわかった。しかし、そんなに簡単に人を信じていいのかと、一瞬驚いた碧眼を大きく見開いて躊躇ったことと、言葉が判らないことで首を振った。
「いいから手を!」
すると、今度は黒髪は帝国語で話しかけてきた。彼らが暗殺者を足止めしてくれたのは確かだし、いつ追いつかれるか気が気でないため、結局、迷わずその手を握った。黒髪は彼を馬上に引き上げ、全速力で走り出す。
黒髪は馬を駆り、焦茶髪と連携して、森に仕掛けた食料用の動物の罠に誘導したり、弓や暗器を投げて追手を撃退してくれた。培った馬術が結びついたかのような瞬間に見えた。
安全な場所に逃げ込んだ後、黒髪はシルバーの傷を調べてくれた。
「この薬草を塗って。熱にはこの煎じ薬が効くんだよ」
黒髪が自然に教えてくれた。シルバーはどうしてこんなに親切に優しくしてくれるのか不思議で、黒髪を見つめた。
「君は……....誰?」
まだ声変わりもしていない女の子と間違えられても仕方ないあどけない声だが、シルバーは尋ねてみた。
「ただの通りすがりだよ」
黒髪は長い前髪で顔を隠したつもりでいるようだが、燃えるような紅玉の様に輝く紅い瞳が見え隠れしていているのに気付かず、答えてくれた。
「でも、君を放っておけなかったんだよ。話は後、後。まずは傷の手当てだよ」
黒髪は即座に薬草を摘むと、傷口に塗布してきた。熱や毒に効く飲み薬なども与えてくれた。
放っておけなかったって理由だけで、見ず知らずの、しかも妖しい連中に追われた人間を助けてくれたのか? 一歩間違えれば、悪人は自分の方で、盗みとか悪さしたから追われていたと考えても、おかしくない状況なのに?
「ありがとう……」
シルバーが絞り出すように言ったその時、悲鳴のような動物の鳴き声が聞こえた。
茂みの中には、黒豹の子供が傷ついて倒れている。刺客たちの攻撃に巻きこまれたのか。金色の瞳が、痛みに潤んでいる。
「可哀想に……」
3人は黒豹の子供を看病した。黒髪は手当てをしながら、豹に話しかけているかのように見えた。
《……キュッ……キュウ……》
黒髪は水筒を差し出すと、黒豹の口元にそっと当ててあげた。
3人はその黒豹の子を保護し、背が小さくて身体の小さい焦茶髪の子供程度が何とか入れるような、傍目には入口が見つかりにくい洞窟に運んだ。
黒髪は薬草の知識を使って傷の手当てをし、シルバーは洞窟に染み出る水を汲み、焦茶髪は見つからない位置に隠れて見張りをしてくれた。
数日間、3人は黒豹の子の看病を続けた。
その間、黒髪はシルバーにどの薬草が傷に効くか、どの組み合わせが熱を下げるかなどを教えてくれた。
この時教えてもらった薬草のおかげで、王都の皇帝である父や兄達の下に帰るまでに、大公から度々与えられているだろう毒を、緩和できるようになったのだったな。
数日後。
黒豹の子が回復するにつれ、問題が生じた ── 彼は黒髪とシルバーに深く懐き、離れようとしなかったからだ。
黒豹の子供は回復したが、親豹は見つからない。
「自然の中に還してあげないと」
黒髪は困ったように言ってきた。
「でも、親が見つからないし、僕たちのそばを離れようとしないじゃないか」
シルバーは、この黒豹を今ここで手放してしまったら、折角つないだ縁が無くなってしまうと危惧し、反論した。
確かに自然に還すのが一番いいはずだが、黒豹の親が見つからないと、このままでは生きていけないだろう。
「困ったな。連れて帰っても、兄や姉妹たちに見つけられたら、虐められるだろうし……」
ふうん。兄姉妹がいるのか。でも虐めるような酷い仲なのかな……僕の父と叔父みたいに……
黒髪はため息をつき、黒豹の子供が兄姉妹たちに虐められるだろうと悩み困っているらしい。そんなに困っているのなら、大公の目を誤魔化すくらいならできるはずだ。シルバーは思い切って申し出た。
「僕が連れて行って。飼おう」
シルバーは真剣に主張した。
「でも、どうして?」
「将来、再会した時にお互いがわかるように」
とシルバー。
黒髪は思わず笑ってきた。
……えっ?……男? のはずだよな。でもなんか、か……可愛い……
「それなら……将来、再会した時にわかるように名前をつけてあげないとだね」
黒髪が提案すると、シルバーはうなずいていた。
「マーキュリー。この子の名前はマーキュリーなんてどうかな」
《キュッ、キュウン》
黒豹の子、マーキュリーは前足をぺろぺろ舐めると、シルバーの足に頭をこすりつけてきた。
「あはは。彼もその名前は気に入ったみたいだね」
黒髪は、またもや黒豹と話しているように思えた。
一瞬の沈黙の後、黒豹の子はゆっくりと首を縦に振った。納得したようだ。
《キュウキュウ。クウ、キュウン。キュッ。クウン?》
黒豹の子は、きゅんきゅん甘えるように黒髪の手に頭を擦りつけると、シルバーの傍に寄ってきた。
黒髪は思わず微笑んだ。
「彼は君について行くことを選んだみたいだね」
シルバーは少年じゃなく、女の子みたいな微笑にどきりとしてしまったことと、本当に動物の言葉がわかるのかと、驚いた表情を浮かべた。
「君、今……」
もしかして女の子だったんじゃあ?……
「さあ、早くここを離れないと」
黒髪は話題をそらしてきた。
「追手が戻ってきて、この洞窟を探し出されるかもしれないし」
別れ際、シルバーは真剣な眼差しで黒髪を見つめた。
「また会おう。必ず。その時まで、この黒豹の子を大切にする」
「では、また会える日まで」
別れ際、シルバーは黒髪に深く一礼した。
「必ず恩は返す!」
その言葉が、十年後の運命を暗示しているとは、誰も知らなかった。
黒髪は軽く手を振り、焦茶髪の兄らしき少年と共に森の奥へ消えていった。
こうしてマーキュリーはシルバーと共に去って行った。
しかし、3人はお互いの名前を名乗り合うのをすっかり忘れていた。緊迫した状況の中、それは些細なことのように思えた。
その時に出会っていたはずのセレンが、生贄であり人質にも等しい帝国の名ばかりだろう皇妃として、迎え入れられることになったというわけなのだが……
シルバーはどうしてきちんと彼らの名前を聞くか、確認しておかなかったのかと、後に悔やむことになる……
*****
それから十年。
シルバーは、あの日の少年を探し続けている。
皇帝に即位してからも、国境付近に密かな探索者を送り、黒髪赤眼の少年 ── いや、今ではそれが少女であったかもしれないと気づき始めていた ── を探させていた。
「マーキュリー」
皇帝は書斎で、今では立派な成獣となった黒豹の頭を撫でながら呟く。
「あの子はどこにいるのだろうか」
宰相のリード公爵が書類を持って入ってきた。
「陛下、ダームスタチュム王国からの花嫁が到着いたしました」
「ああ、お飾りになる皇妃か」
シルバーの声には冷たさが宿る。
「必ず伝えておけ。私は彼女を愛するつもりも、子を作るつもりもないと」
「既に伝えてございます」
リードは眼鏡の奥で目を細めた。
「しかし陛下、なぜそこまで……」
「私が心を許せるのは、あの日の少年だけだ」
シルバーは窓の外を見つめた。
「動物と話せる力を持つ、伝説の聖人 ── 銀龍の神子だけを」
帝国の伝承では、動物と会話できる者、【伝承の聖人】は、別名【銀龍の神子】ともいわれ、創成女神の加護と恩恵を受けた希少な存在で、国に繁栄や豊穣をもたらすと信じられていた。
シルバー皇帝は、動物と会話をしていたらしい特殊な力の持ち主の【伝承の聖人】を手に入れようと、黒い髪と赤い瞳の少年を国境付近で密かに何年も前から探し続けているのは、そういう理由からでもあるのだ。
リードは静かにため息をついた。
「その『聖人』が、もしかしたら今回の皇妃殿下かもしれませんよ? ダームスタチュム王国には、かつて滅ぼされて併合された黒髪赤眼の者が混ざり込んでいると聞きます。皇妃殿下は醜い顔の為だと仰って、ベールを被っていましたので、髪色と瞳を確認できませんでしたが……」
「彼女はあの少年ではない」
シルバーはきっぱりと吐き捨てた。
「あの少年は……あの眼差しは……違う。彼女は単なる政治的な道具に過ぎないのだから」
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