正法眼蔵 四馬
世尊、一日、外道、来詣、仏所、問、仏、
不問、有言。
不問、無言。
世尊、拠坐。
良、久。
外道、礼拝、讃歎、云、
善哉。
世尊。
大慈大悲、開、我迷雲、令、我、得入。
乃、作、礼、而、去。
外道、去、已、阿難、尋、白、仏、言、
外道、以、何所得、而、言、得入、称讃、而、去?
世尊、言、
如、世間良馬、見、鞭影、而、行。
祖師西来よりのち、いまにいたるまで、諸善知識、おおく、この因縁を挙して参学のともがらに、しめすに、あるいは、年載をかさね、あるいは、日月をかさねて、まさに、開明し、仏法に信入するもの、あり。
これを外道問仏の話と称す。
しるべし。
世尊に聖黙、聖説の二種の施設まします。
これによりて得入するもの、みな、如、世間良馬、見、鞭影、而、行なり。
聖黙、聖説にあらざる施設によりて得入するも、また、かくのごとし。
龍樹祖師、曰、
為、人、説、句、如、快馬、見、鞭影、即、入、正路。
あらゆる機縁、あるいは、生、不生の法をきき、三乗、一乗の法をきく、しばしば邪路におもむかんとすれども、鞭影しきりに、みゆるがごときは、すなわち、正路にいるなり。
もし師にしたがい、人にあいぬるがごときは、ところとして説、句にあらざることなし、ときとして鞭影をみずということなきなり。
即座に鞭影をみるもの、三阿僧祇をへて鞭影をみるもの、無量劫を経て鞭影をみ、正路にいることをうるなり。
雑阿含経、曰、
仏、告、比丘、
有、四種馬。
一、者、見、鞭影、即便、驚、悚、随、御者意。
二、者、触、毛、便、驚、悚、随、御者意。
三、者、触、肉、然後、乃、驚。
四、者、徹骨、然後、方、覚。
初馬、如、聞、他集落、無常、即、能、生、厭。
次馬、如、聞、己集落、無常、即、能、生、厭。
三馬、如、聞、己親、無常、即、能、生、厭。
四馬、猶、如、己身、病苦、方、能、生、厭。
これ、阿含の四馬なり。
仏法を参学するとき、かならず、学するところなり。
真善知識として人中、天上に出現し、ほとけのつかいとして祖師なるは、かならず、これを参学しきたりて、学者のために伝授するなり。
しらざるは、人、天の善知識にあらず。
学者もし厚、殖、善根の衆生にして、仏道ちかきものは、かならず、これをきくことをうるなり。
仏道、とおきものは、きかず、しらず。
しかあれば、すなわち、
師匠、いそぎ、とかんことをおもうべし。
弟子、いそぎ、きかん、と、こいねがうべし。
いま、生、厭というは、
仏、以、一音、演説、法、
衆生、随、類、各、得、解。
或、有、恐怖。
或、歓喜。
或、生、厭離。
或、断、疑。
なり。
大経、云、
仏、言、
復、次、
善男子、
如、調馬者、凡、有、四種。
一、者、触、毛。
二、者、触、皮。
三、者、触、肉。
四、者、触、骨。
随、其所触、称、御者意。
如来、亦、爾。
以、四種法、調伏、衆生。
一、者、為、説、生、便、受、仏語。
如、触、其毛、随、御者意。
二、者、説、生、老、便、受、仏語。
如、触、毛、皮、随、御者意。
三、者、説、生、及、以、老、病、便、受、仏語。
如、触、毛、皮、肉、随、御者意。
四、者、説、生、及、以、老、病、死、便、受、仏語。
如、触、毛、皮、肉、骨、随、御者意。
善男子、
御者、調馬、無有、決定。
如来、世尊、調伏、衆生、必定、不虚。
是故、号、仏、調御丈夫。
これを涅槃経の四馬となづく。
学者、ならわざる、なし。
諸仏、ときたまわざる、おわしまさず。
ほとけに、したがいたてまつりて、これをきき、
ほとけをみたてまつり供養したてまつるごとには、かならず、聴聞し、
仏法を伝授するごとには、衆生のために、これをとくこと、
歴劫に、おこたらず。
ついに、仏果にいたりて、はじめ初発心のときのごとく、菩薩、声聞、人、天、大会のために、これをとく。
このゆえに、仏法僧宝種、不断なり。
かくのごとくなるがゆえに、諸仏の所説と、菩薩の所説と、はるかに、ことなり。
しるべし。
調馬師の法に、おおよそ、四種あり。
いわゆる、
触、毛。
触、皮。
触、肉。
触、骨。
なり。
これ、なにものを触、毛せしむる、と、みえざれども、伝法の大士、おもわくは、鞭なるべし、と解す。
しかあれども、かならずしも、調馬の法に鞭をもちいるも、あり、鞭をもちいざるも、あり。
調馬、かならず、鞭のみには、かぎるべからず。
たてる、たけ八尺なる、これを龍馬とす。
このうま、ととのうること、人間に、すくなし。
また、千里馬という、うま、あり。
一日のうちに千里をゆく。
このうま、五百里をゆくあいだ、血汗をながす。
五百里すぎぬれば、清涼にして、はやし。
このうまにのる人、すくなし。
ととのうる法、しれるもの、すくなし。
このうま、神丹国には、なし。
外国に、あり。
このうま、おのおの、しきりに鞭を加す、と、みえず。
しかあれども、古徳、いわく、調馬、かならず、鞭を加す。
鞭にあらざれば、うま、ととのわらず。
これ、調馬の法なり。
いま、触、毛、皮、肉、骨の四法あり。
毛をのぞきて、皮、骨、触すること、あるべからず。
毛、皮をのぞきて、肉、骨に触すること、あるべからず。
かるがゆえに、しりぬ。
これ、鞭を加すべきなり。
いま、ここに、とかざるは、文の不足なり。
諸経、かくのごときのところ、おおし。
如来、世尊、調御丈夫、また、しかなり。
四種の法をもって、一切衆生を調伏して、必定、不虚なり。
いわゆる、
生を為、説するに、すなわち、仏語をうくる、あり。
生老を為、説するに、仏語をうくる、あり。
生老病を為、説するに、仏語をうくる、あり。
生老病死を為、説するに、仏語をうくる、あり。
のちの三をきくもの、いまだ、はじめの一をはなれず。
世間の調馬の、触、毛をはなれて、触、皮、肉、骨、あらざるがごとし。
生老病死を為、説す、というは、如来、世尊の生老病死を為、説しまします、衆生をして、生老病死をはなれしめんがために、あらず。
生老病死、すなわち、道、と、とかず。
生老病死、すなわち、道なり、と解せしめんがために、とくにあらず。
この生老病死を為、説するによりて、一切衆生をして、阿耨多羅三藐三菩提の法をえしめんがためなり。
これ、如来、世尊、調伏、衆生、必定、不虚。是故、号、仏、調御丈夫。なり。
正法眼蔵 四馬
建長七年乙卯、夏安居日、以、御草案、書写、之、畢。 懐弉




