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ノラゴンスレイヤーズ  〜二十二世紀 竜を狩る〜  作者: 蝌蚪蛙


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黒い影

新キャラ登場です!


「頼み事ってただのお使いかよ……。気合い入れて損したぜ」


 肩を落とす須佐野。

 その手には大量の荷物を持っている。


「お使いじゃなくて物資補給任務ですよ、先輩」


 ニコニコしながら櫛田がそれをたしなめる。

 その背には少しくたびれたいつものリュック。

 絆創膏を模した補修痕からは彼女のこだわりが見て取れる。

 空いている両手をぶらぶらさせながらその足取りは軽やかだった。


「……物は言いようだな。買うものは食料品にトイレットペーパーとかの日用品。挙句の果てに『余った資金で好きなもんでも買ってこい』と来たもんだ。これをお使いと言わずにいられるか」

「いいじゃないですか。私はリフレッシュできて楽しいですよ。昨日までずっとベッドの上だったので」


 櫛田の朗らかな声。

 対して、表情が曇る須佐野。

 頭に包帯が巻かれた彼女の姿はどこか痛々しかった。


「……怪我は本当に大丈夫なのか?」

「はい! 意外と浅かったみたいです。CTでも異常は見られなかったようですし。竜訳機も問題なしです」


 怪我を感じさせない快活さ。

 そんな彼女を見て須佐野の肩から力が抜ける。

 荷物が重くなった気がした。

 それでも不思議と嫌な気分はしない。


「じゃあ、少し荷物を持ってもらえるか?」

「あいたたた……今になって傷が……」

「……ずいぶん都合のいい怪我だな」


 呆れながらも彼は笑う。

 あんなことがあったというのに彼女の調子のよさは変わっていなかったから。

 とはいえ怪我が治りきっていないのは事実だ。

 今日くらいは楽をさせてやろう。


「まだ金は余ってるんだよな?」

「そうですね。十分な額を貰いましたからまだ残ってます」


 手元の端末で残高を確認しながら櫛田が告げる。

 封竜域内の経済は電子マネーが基本だ。


「それじゃあ、上からの命令に従って使い倒そうぜ。お前はどこか行きたいところとか食べたいものはあるか?」

「そう言われても……この街は見てるだけで楽しいですよ!」


 少女が青い目を輝かせる。

 物珍しそうにきょろきょろする姿は初めて遊園地を訪れた子供のようだ。

 彼らがいるのはC隊拠点の一角。

 竜災以降使われることのなくなった線路の上には多くの仮設店舗がひしめいており、さながら祭りのような活気があった。


「定食屋にラーメン屋! こっちには竜串や竜卵カステラ! 何だか縁日みたですね」

「どこも飯屋ばかりだな。拠点に食堂もあるとはいえ毎日だと飽きるのはそうなんだが」


 昼時だからか、どこの店もそれなりに繁盛している。

 もちろん往来を歩いているのはほとんどが竜狩人だ。

 一方、店を開いている者の中には遺才を持たない一般人もいる。

 封竜域は原則一般人は進入禁止だが、手続きさえ踏めば狩場ではない拠点の中までなら許容されている。

 荒廃した廃墟群を砂漠とするなら、このような拠点は様々な人間が集まるまさにオアシスだ。


 とはいえ、その成立と発展は少々ややこしい。

 まず、竜災により残された無人の街。当然、経年劣化や竜の影響ですっかり荒れており、倒壊しているものすらある。

 しかし、そうであっても勝手に取り壊したり、無事な建物を無断で使用したりはできない。封竜域内の建造物もそれが建つ土地も、そのほとんどが誰かの所有物だからだ。

 竜を駆逐するだけならば、砲撃やミサイルの雨あられで封竜域を焼け野原にしてしまうのが最も効率的で手っ取り早い。それをしなかったのは、自国を攻撃することの体面の問題もあるし、何より竜災の原因究明が困難になる恐れもある。それに加えて、このような不動産の問題もあった。


 竜災以降、東京の地価は軒並み急降下。手放したところで二束三文。そもそも住めない建物や土地を誰も買おうとは思わない。そうなると、不動産の所有者は封竜域が一日でも早く解放され地価が回復するのに賭けるしかなかった。

 政府としても、竜を駆除するために首都もろとも消滅させてしまってはメンツに関わる。何より、復興にかかる時間もコストもバカにならない。一手に買い上げてもよかったがそんな財源などなく、国民感情もそれを許さなかった。


 例外は鉄道関連施設だ。

 利用者を失い、経営が傾きかけた鉄道各社に政府は働きかけ、借用する形で土地や施設を借り受けるとそれらをそのままGUILDへ解放。結果として、竜狩人の各アジトは駅や公的機関の施設に置かれた。

 そして、城下町よろしく人が集まる施設の周囲に街が発展するのは歴史が証明している。

 利用できる建物は限りがあるため、竜狩人相手の商売はもっぱら道路や線路で行われた。特に線路は道路と異なり往来する車両が全く存在しない。そのため、多くの店が軒を連ね徐々に発展。こうして、封竜域の拠点内には廃墟の合間を縫って奇妙な街が成立することになった。

 町も土地もなるべく損なわず、竜だけを駆除したい。

 竜狩人の誕生にはそんな事情もあったのだ。


「移動拠点だから忘れがちだが、普通の竜狩人は栄えた街で暮らしている。羨ましいかぎりだよな」

「ドローンが飛び交っているのも普通なんですか? 私が知っている街はこんなにいなかったんですけど」


 いつの間にか買った竜串にかぶりつきながら少女が空を指差す。

 彼女の言うとおり、上空には無数のドローンが行き来していた。そればかりか、通りの中にも縦横無尽にドローンが飛んでいる。


「何をいまさら……。ここはD隊の管轄だぞ。各拠点が掲げる文字はその拠点の特色も表しているのは常識だろ。D隊の〝D〟は〝無人航空機(Drone)〟のことだ」

「へぇー。そうなんですね。そういえば、前までいた拠点の町ではみんな武器を背負ってましたね。鍛冶屋もたくさんあって、まるでファンタジーみたいでしたよ」

「……そこは俺の古巣だな。というか――」


 声を一際大きくして須佐野が告げる。


「前から気になってたんだが、お前はどこの地区出身だ? ルーツは?」

「あれ? 言ってませんでしたっけ? 私は――」


 直後。

 飛来する黒い影。


「きゃっ!」

「なんだ?」 


 二人の間に飛び込んできたのは、カラスサイズの黒い小型竜。

 そして、もう一つ。


『はっはっはっ! 残念だったな、小さき邪竜よ。わが守りは鉄壁だぞ』


 黒い機体のドローンだった。

 それが威勢のいい男の声で喋っている。

 よく見れば機体から伸びる二本のアーム。そのうち一方の先には食べかけの竜串があった。


「あれ!? 私の竜串! いつの間に」

『お嬢さん、油断は禁物さ。拠点の中とはいえこうやって人の物を狙うノラゴンはいるのだから』

「GYARURUUUU……」

 横取りに失敗し、竜がドローンを威嚇する。

「ちょうどよかった」


 そこに須佐野も割り込む。


「俺も竜串が欲しかったんだ」


 荷物をほっぽり出し、左腕を突き出す。

 すっかり元通りになった裂爪。

 その輝きが竜を捉えた。


「食いごたえがありそうだな」

「GYAAA! GYAAA!」


 身の危険を感じたのか黒い竜は恨み言のように小さく鳴くと、素早くその場を飛び去っていった。


「こんな人混みにも飛び込んでくるとは。節操がない竜だな」

『どうぞ、お嬢さん』


 ドローンが器用にアームを動かし、救助した竜串を少女に差し出す。

 状況に未だ困惑しながらも櫛田はそれを受け取った。


「あっ、ありがとうございます。すっかり気が抜けてました」

『拠点周辺は侵入防止システムを備えた壁に囲まれている。それでも、さすがに鳥みたいな大きさで飛ぶ小型竜の侵入は防げないものさ』

「なるほど。ところで、あなたは……」

 困惑した青い瞳がドローンを見つめる。

 ドローンはアームを使いながら器用にお辞儀の真似事をした。

『やあやあ。申し遅れたね。我は』

「別にいいぞ。声と口調で丸わかりだ」

『……相変わらずつれないな、武也は』

「へっ? お知合いなんですか、先輩?」

「腐れ縁だよ。とはいえ助かった。それにしても反応が早いな」


 須佐野が指摘する。

 それに対して、二本のアームで腕組みしながらドローンは誇るように語った。


『見知った顔が女の子を連れていたのでね。隙あらば冷やかそうと観察していたら、手癖の悪そうな竜を見つけたのだ。なので、人知れず警戒させてもらった』

「……相変わらずお前は都合の悪いことも全部話すな。少しははぐらかせよ」

『それは我の美学に反する』


 ドローンのアームが存在しない前髪をかき上げる。


「すごいですね。そんなに自由に動かせるなんて」

『はっはっはっ! そうだろそうだろ。他にもいろんなことができるぞ』

「もっと見たいですね」

「ちょうどいいのがあるぞ」


 須佐野は放り出した荷物を拾うと、前に掲げる。


「これを停泊しているX隊の移動拠点まで運んでくれ」

『……おいおい。我がまさかそんなお使いみたいなことを』

「いろいろできるんだろ? それとも聖騎士さんは物資補給任務もまともにこなせないのか?」

『……我を愚弄するか。いいだろう。確実に成し遂げようではないか。任せてくれたまえ!』


 急発進したドローンが須佐野から荷物をかっぱらう。

 やや重そうにふらふらしながらあっという間に飛んで行ってしまった。


「あー、行っちゃったー」

「今は適当にあしらっとけ。どうせ明日も会う」

「えっ! じゃあ、もしかして」

「あいつも今回の合同任務に参加する。自己紹介はその時にしよう。その方が顔も見えるしな」

「楽しみだなー」


 少女はのんきな声を上げながら、似つかわしくない大口を開けて竜串を平らげる。

 失った血を取り戻す勢いのあるいい食べっぷりだった。

 須佐野はその姿勢に思わず感心しそうになるが……。

 すぐに頭を振り、思い直す。

 店の前で次の獲物を物色し始めた櫛田の背に声をかけた。


「……さっきの質問だけどよ」

「さっきの質問? えーっと出身の話でしたっけ? 私は」

「いや、いい。当ててやるよ」


 声のトーンを落とす。

 太陽を雲が遮り、あたりに影が落ちた。

 彼は静かに答えを告げる。


「お前、〝外〟から来ただろ?」

「……やっぱり先輩は鋭いですね」


 少女は頭を掻きながら舌を出しておどける。 

 まるでいたずらがバレた子供のように。


「ちょうどいい機会だ。金もあるんだし親睦会といこうぜ」

「いいですね。先輩からの誘いとあれば断るわけにはいきません」


 影に覆われた大通りの中。

 櫛田はにっこりと笑みを浮かべる。

 さっき食べた竜串。

 それとは別の物を腹の内に抱えながら。

本日もあと2回更新します(12時/21時)。

お楽しみください。

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