↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノラゴンスレイヤーズ  〜二十二世紀 竜を狩る〜  作者: 蝌蚪蛙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/15

未知なるX


「以上が新人である櫛田の初陣の詳細になります」


 須佐野が昨日の成果を報告する。

 それを一人の男が静かに聞いていた。


「ご苦労だったな」


 椅子に座り労いの言葉をかけるのは須佐野の上官であり隊長の高真(たかま)阿波羅(あはら)。四十代の色黒の偉丈夫で、大きな傷跡が目立つスキンヘッドが特徴。常にサングラスをつけており、その目元は誰も見たことがない。

 ここは隊長室。

 今は高真と須佐野の二人だけだ。


「初日から雷竜に出くわすとは。櫛田は運がいいな」

「運が悪いの間違いでしょう? 何たって過去に報告のない生態を持つ個体ですよ」

「遠隔での雷撃とは確かに厄介だ。攻略も一筋縄ではいかなかったようだしな。それでも最終的には捕獲できた。幸運というほかない」

「まあ、それはそうですけど……」


 落ち着き払った上官の言葉に須佐野も首肯せざるを得ない。

 その後の崩落事故も含めて今もこうやって生きているのはかなりの幸運だ。


「捕獲した雷竜については現在調査を進めているところだ。そちらは少し時間がかかるだろう。それはそうとして――」


 高真は言葉を切り、須佐野に水を向ける。


「お前はどう思った? 彼女の働きぶり、あるいは〝力〟について。率直な意見を聞きたい」

「そうですね……」


 少し考え込む須佐野。

 やがて、その口が動く。


「彼女の潜入能力には目を見張るものがあります。単身で巣に忍び込めるなんて常軌を逸している。お手製の竜訳機もかなり有用。少なくともちゃんと竜の言葉を翻訳できているように見えました。問題があるとすれば、解釈するこちら側がまだ不慣れということですかね」


 忌憚のない意見を述べる。実際、彼女や竜訳機の存在はこれまでのやり方を根本から変える可能性すらあった。


「少々生意気なのが玉に瑕ですが」

「じゃあ、生意気同士、お前とは気が合いそうだな」

「……それは昔のことですよ」


 上機嫌に笑う高真に須佐野が苦笑いで応じる。


「新人が優秀であることはよく分かった。今後のさらなる活躍に期待だな。……では、次の仕事の話だ」


 手を叩いて高真が話題を変える。

 笑みは浮かべたままいくらか真剣な声色で。


「ちょうど彼女の潜入能力が活かせそうな案件があってな。巨大な廃墟に巣食うノラゴンの群れの掃討だ」

「それだけなら先日のと大差ないでしょう。それに他所でも十分対応できそうですが?」

「その深部に何故か施錠されている場所が見つかった。それも電子ロックだ」

「何だって!」


 当然、ノラゴンが施錠するはずなどない。そもそも廃墟に電気が通じていること自体おかしな話だった。


「それは……キナ臭いですね。ただ、だとしてもわざわざ俺たちが出張る必要は……いや。まさかD隊の管轄ですか?」

「察しがいいな。そこの隊長からの申し出だ」


 撃竜組織GUILDによる竜狩人たちを投入した東京奪還計画。現在、封竜域は東京二十三区の外周に位置する九区に相当するエリアが奪還されている。各地区にはGUILDが防衛拠点を設置済み。そこには大隊規模の竜狩人がそれぞれ配置され、拠点防衛と深部進攻を同時にこなしている。各拠点には識別記号として設立順にAからIが割り振られており、そこの部隊はその文字に因んだ専門技能を有している。D隊は四番目に設立された拠点に所属する部隊だ。


「D隊はその特色上、前衛を任せられる荒事担当が少ない。それに今回の案件は何が起こるか不確定要素が多すぎる。だから、そういうのに慣れている我々に力を貸してほしいというわけだ」

「まあ、人手不足については我々の方が問題ですがね……」


 再び苦笑いを浮かべる須佐野。

 その目が横の壁にある電光掲示板に注がれる。

 そこには自分たちの部隊に所属する全メンバーの勤務状態が示されていた。

 須佐野と櫛田は〝在室〟。

 高真と天矢も同じ。

 それ以外のメンバーは全員〝外勤〟となっている。

 そもそも部隊の総員は十名もいなかった。


「それは仕方あるまい」


 肩を竦める高真。


「我々〝X隊〟はまだ設立して一年ほど。それも拠点も専門技能も持たない遊撃部隊だからな」


 X隊。

 須佐野や櫛田が所属し、高真が隊長を務める部隊。

 部隊名の由来は十番目の部隊であること、および拠点識別記号として絶対に使われない二十四番目のアルファベットであること。

 そして――。


「各部隊から人材を引き抜き、今まで交流の少なかった専門技能を〝X(クロス)〟させ、新しい力を生み出すこと。それが、このX隊に期待されている。だが、なかなか共感してくれる者はいない。ゆえに、今は少数精鋭だ」

「言い換えても人不足は人不足ですよ、隊長」

「……耳が痛いな。だからこうやって櫛田を新しく迎えたじゃないか」

「よく見つけてきましたね、あんな個性の強い奴。そもそも彼女は、以前までどこに所属していたんですか?」

「何だ、本人から聞いていないのか?」

「〈養成所(アカデミー)〉に通っていないことは察しましたが……。それ以上は踏み込むのが憚られて……」


 今度は須佐野が肩を竦めた。

 高真は少し考えた後、口元に人差し指を立てる。


「そういうことならこちらからは何も教えん」


 乱暴に言い放ち、指を目の前の青年に向けた。


「お前は彼女の教育係も兼ねているんだ。さっさと打ち解けて自分で聞きだすんだな」

「そんなこと言ったって相手は十六歳の女の子ですよ。何がハラスメントになるか分かったもんじゃない」

「大人ぶるな。今年で十九歳とはいえお前もまだまだガキだ。酒が飲めない者同士、気兼ねなく親交を深めればいい」

「俺はもう立派な大人です! 選挙権だってある」

「それは〝外〟の世界の話だろ? ここでは関係ない」

「それは……そうですけど」


 隊長の語気に圧されて須佐野の勢いが削がれる。

 高真は咳払いをすると静かに諭した。


「お前は単に怖がっているだけだ。他のメンバーと比べて櫛田はまだ未熟。言葉を選ばず言うなら、いつ死ぬかわかったもんじゃない。だからこそ、お前は彼女に踏み込もうとしていないんだ。よく知らない人間なら失っても傷は浅くて済むからな」

「そういうわけじゃ……」

「そうなんだよ。ちょうど亡くなったお前の妹と年も近い。無意識に重ねてしまっているんじゃないか? でも、だからこそ、お前は彼女を知るべきだ。そして、理解するべきだ。彼女は違う人間だと。信頼に足る強さを持つ仲間だと。そうしないと、お前の心はあの日から止まったままだ」

「……そうですね」


 彼は何とか言葉を絞り出す。

 すっかり高真に論破されてしまった。

 当の隊長は一転してにこやかに告げる。


「ちょうどいい。任務は明後日からだが明日にはD隊の拠点に着く。そこで明日、お前と櫛田にはやってもらいたい事がある。共同作業で親睦を深めるんだな」


 高真の後ろにある大きな窓。

 外に広がるのは廃墟群。

 それらはどんどん横に流れていく。

 彼らがいるのはX隊の移動拠点。

 悪路をものともしない無限軌道を備えた自動運転の巨大な装甲車だ。

 二車線分を占拠するほどのスケールは圧巻ではあるが、他の隊の拠点と比べるとその規模はかなり小さい。少数精鋭にならざるを得ない事情はこんなところにもある。


「もちろん任務のことも任せたぞ」

「はあ……承知しました。どちらもお任せください」


 幾分か力を取り戻した声を上げながら、須佐野は軽く礼をする。

 そのまま踵を返すとさっさと部屋から出ていった。

 高真が一息つこうとした矢先、誰かが扉をノックする。


「どうぞ」

「失礼しますよ」


 入ってきたのは天矢だった。

 特に理由もなく、笑みを浮かべている。いつものことだ。


「お互い子守りは大変ですね」

「本当にな。……で、要件は何だ?」

「話が早くて助かります。例の報告書には目を通していただけましたかね?」

「ああ。昨夜の移動中にな」

「おー、さすが隊長殿! では、早速ご意見を聞かせていただければ」

「そうだな。いよいよ我々の仮説が現実味を帯びてきた。そう感じた」

「やはりそう思われますか!」


 興奮を隠そうともしない天矢。自然と声が大きくなる。


「彼らの話を聞く限り、今回捕獲した雷竜は明らかに異常な特性を獲得しています。現物は爆発してしまいましたが、尻尾に生えていたと言われる大量の棘。それに棘一本分とは思えない威力。これらはすなわち……」

「人為的な改良。そう言いたいんだろう?」


 高真の指摘に頷きながら、天矢の口は止まらない。


「ドラゴンは確かに人の手で生み出されました。それが野生化し〝ノラゴン〟と呼ばれるようになって久しい。竜災からまだ七十年ほどしか経過していないとはいえ、ノラゴンは遺伝的に安定した存在です。だからこそ、今回の急激な異常特性の獲得は変異や進化で片付けていい問題ではありません」


 ここで一呼吸。

 それでもせわしなく彼は話を続ける。


「竜災以降、何者かが意図をもって凶悪な改良を施したドラゴンを野に放っている。そうとしか考えられない。なぜそんな事をしているのかはわかりません。はっきりしているのは竜を利用して我々を……いや、社会を脅かそうとしている存在がいるということ。それから導かれる仮説は――」


 その時。

 妖しくサングラスが光った。


「竜災には黒幕がいた。あれは人災。そして、それはまだ封竜域内で隠れて活動している。そういうことだな」

「あー、もう! 僕が言いたかったのに」


 デスクの上で手を組みながら高真が言葉を継ぐ。

 おいしい所を盗られる形になり、天矢は不貞腐れた。


「まあ、隊長のご指摘通りとにかくそう言うことです」

「とはいえ、まだ弱いな。何か強力な証拠が欲しいところだ」

「ええ。次の彼らの働きに期待したいですね」

「そうだな。X隊の力は未知数。だからこそ、未知の黒幕Xに迫れるはずだ」


 椅子を回し、高真は外を眺める。

 視線のずっと先には竜災の爆心地(グラウンド・ゼロ)。

 そこにいるであろう黒幕を睨みつけているようにも見えた。


「そう言えば、例の件はどうだった? 櫛田が医務室に運ばれたんだ。チャンスはいくらでもあっただろ?」


 高真が問い詰める。

 一方、天矢は苦い顔で応じた。


「ダメですね。あの翻訳デバイス、ピアスみたいに耳に穴を開けて固定してます。強引に外すのは不可能。分解すらできません。その上、起動や取り外しには音声入力によるパスワードの入力が必須。今のところ、翻訳のカラクリは調べられそうにありません」

「そうか……」


 悩ましそうに腕を組む。

 サングラスが天井を仰いだ。


「あの若さで独自に翻訳デバイスを開発するほどの技術力。明らかに裏方向きだが何故か現場で前線に出ることを彼女は選んだ。それもその技術を人質にして、だ。竜好きだというが本当にそれだけか? 彼女についてはわからないことばかり。……一体何者なんだ?」


 ぼそりとつぶやく。

 誰に向けたでもない言葉だったが、天矢が応じた。


「わかりません。僕にとっては彼女こそ未知(エックス)ですよ」


 彼が吐いた言葉は誰が受け取るでもなく部屋に漂い、やがて溶けた。

 そんな未知の力を乗せて移動拠点は進んでいく。

 次の目的地が着々と近づいていた。

本日の更新はこれで終わりです。

明日も複数話更新予定です。

お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。