聖騎士の務め
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「さすが武也だ。義手の扱いに磨きがかかっているな」
「ええ……。マジで竜の声が聞こえてるってわけ!? ヒメちゃんパねえ」
賞賛する白井と舌を巻く鬼灯。
二人の目の先には大型ケージに入ったノラゴンたち。
須佐野と櫛田が自分たちの力を披露した成果だ。
「見ましたか。天才ヒメちゃんの偉大さを!」
「調子に乗るな!」
得意げな櫛田を須佐野が軽くはたく。
「ひどい! 私は怪我人ですよ」
「とっくに治ってるって毒マリモから聞いたぞ。また怪我したくなかったらあまり前に出過ぎるな」
「ぐぬぬ……。分かりましたよーだ」
膨れながら櫛田は渋々頷く。
そんな彼女を指差しながら須佐野は白井に進言する。
「頭はともかくこいつの翻訳デバイスの力は俺も保証する。うまく使えばかなり有利に立ち回れるはずだ」
「ふむ、そのようだな。特にごく短時間で全て捕獲できているのが気に入った。例え邪竜でもいたずらに血が流れるのは我が騎士道に反するのでな。同じ考えのようで何よりだ。さてと――」
言葉を切って後ろの鬼灯に目配せする。
「今度は我々の番だな、冥蘭君」
「やっぱりそうなりますよね。楽できると思ったんだけどな」
おもむろにキューブから腰を上げる二人。
ふと白井が空を見上げる。
視線のはるか先の上空。
目を凝らさないと点にしか見えないが一機の白いドローンがあった。
「隊長殿も見ておられる。気を引き締めろ」
「そんな熱くならなくても……。もっとクールに行きましょうよ」
暑苦しそうな白井を鬼灯は適当にあしらう。
その間に、ゆっくりと疑似炎ドローンが空に二列並び始めた。
「そういえば――」
周囲をキョロキョロと青い目が見回す。
「堅造先輩のドローンはどちらですか?」
「ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれた。カモン!」
掛け声と同時に指を鳴らす。
直後、近くの廃墟から銀色に輝くドローンが高速で飛来した。
一般的なドローンより一回り大きい機体が十二機。騒がしいモーター音が馬力の高さを示す。
その下部には四方に配置された長い爪。
ちょうど何かを掴めそうな見た目だ。
「立ち上がれ、我が下僕たち!」
掛け声と同時に手を振り上げる。
先程まで椅子にしていた銀色のキューブ。
突如、それらが高速で浮上した。
よく見れば下にはブースターが付いている。
宙に舞ったキューブを飛来したドローンが曲芸のように次々と爪で掴んでいく。
「すごい! 二種類のドローンのコンビですか!」
「驚くのはまだ早い」
またしても白井が指を鳴らす。
直後、いつの間にか整列していたドローンが次々と掴んでいたキューブを離し始めた。
離脱したキューブは四隅からブースターを展開。軌道を微調整しながら地面に積み重なっていく。
合計十個のキューブにより完成したのは三段のお立ち台。
「おお!」
「だから言っただろう。実力はあるって。なにせあいつは――」
少女が感嘆の声をあげる。
その隣で須佐野が言葉を切った。
二人の視線の先にはお立ち台。
白井は飛び上がるとその頂点に着地する。
そして、腕を広げポーズを決めると高らかに宣言した。
「我こそはD隊の元副長。人呼んで〈銀幕の聖騎士〉!」
それを合図に宙に残っている二機のドローンが動く。
掴んでいるキューブで陽光を反射し即席のスポットライトに。反射した光がお立ち台に注がれ、そこに立つ白井を照らす。その神々しい姿はさながらファンタジーの騎士のようで――。
「安心したまえ。我が狩場では誰の血も流させない」
腕を高く掲げ、天を指差しながらの決め台詞。
その瞬間、確かに聖騎士が降臨した。
「おおー!」
拍手する櫛田。
その隣で須佐野はやれやれと頭を抱えた。
さらにその隣で鬼灯が小さく呟く。
「ヒメちゃんが楽しそうでよかったっすね」
「……全くだ。君も大変だな」
「もう慣れましたよ。残念ながら」
今度は鬼灯が呆れながら両手を広げる。
気を取り直すとお立ち台の聖騎士に声をかけた。
「とりあえずいつもの感じでいいんすかー?」
「それで頼む」
「了解でーす」
冥蘭は目を閉じ、両手を広げ前に出す。
それを合図に二列に並んだ擬似炎ドローンの連隊が空を駆ける。
炎の列はまるで蛇のように這いながら廃墟の向こうへと飛んでいった。
「何が起こるんです?」
「わからん。俺もあのタイプのドローンは初めて見る」
「まあ、見ていたまえ」
白井の言葉に従い静かに見守る。
少しして鬼灯が目を開いた。
「はい、包囲完了でーす。このままこっちに持ってきますね」
「さすがだな。さて、今度は我の出番だ」
満を持してお立ち台から白井が飛び降りる。
腕を組みながら仁王立ちの構えをとった。
後ろには積まれたキューブ。
頭上には爪を備えた十二機のドローンが旋回している。
そのうち二機はキューブを抱えたままだが、残りの十機は手持無沙汰だ。
ふと、遠くの方からざわめきが聞こえてくる。
それは次第に大きくなって――。
「連れてきたっすよ。それも団体さんを」
廃墟の影から現れたのは、地面を走る炎。
よく見ればそれは低空飛行した擬似炎ドローンだった。そんな炎の連隊が波打ちながら渦を巻く。その中ではパニックに陥ったノラゴンたちが騒ぎ続けている。
「なるほど! ドローンで作った炎の渦で群れごと囲んで誘導するんですね」
「でも、逃げようと思えば逃げれそうに見えるぞ」
「それが意外と難しいんすよ」
素朴な疑問に鬼灯が答える。
「野生動物は本能的に火を怖がる。擬似炎の見た目に、ドローンのモーターから発生する熱。彼らにとってはあれは炎ってわけですよ」
「ノラゴンにはピット器官がありますもんね。二重のカモフラージュはかなり効果的だと思います!」
「さすがヒメちゃん。鋭いっすね」
ピット器官。
平たく言えば近くの熱を〝見る〟ための感覚器。一部の蛇が有する特殊な器官で、視覚を補助しているとされる。
様々な遺伝子のキメラであるノラゴン。その中には蛇の遺伝子も含まれていた。それにより、全てのノラゴンはピット器官を有する。ゆえに熱源には敏感だ。
「これがうちの得意技。名付けて〈炎獄〉っす!」
「すっかり聖騎士に毒されてやがる……」
ドヤ顔の鬼灯に須佐野は憐みの眼を向けた。
残念ながら彼女はもう手遅れだ。
「それで、これからどうするんです? 囲んでるだけじゃ捕獲はできませんよ」
「つまり、こういうことさ」
少女の疑問に白井が指を鳴らして答える。
「差し伸べよう、〈救いの手〉!」
口上と同時、頭上を旋回していた手持無沙汰のドローンが次々と急発進をし始める。
そのまま次々と炎の渦の中へ飛び込んでいった。
直後、響き渡るノラゴンたちの悲鳴。
やがて姿を現したのは四本の爪でノラゴンを掴んだドローンたちだった。
もがくノラゴン。
彼らの必死の抵抗などどこ吹く風。がっちりと爪を食い込ませたドローンは危なげなく飛行を続ける。
白井が頃合いを見てケージの上側にある蓋を開ければ、そこに次々とノラゴンが放り込まれていった。
十匹ほどいたノラゴンの群れ。
それがものの数分で捕獲まで完了した。
「弱き者には剣ではなく救いの手を。これが聖騎士の務めだ」
「おおお! なんて鮮やか!」
「相変わらず便利なドローンだな」
ドローンの性能を評価する須佐野。
それに対して、ちっちっちと鬼灯が指を振る。
「その分操るのが難しいんすよ。うちも試させてもらったんすけど全然ダメで……」
「マシンスペックが高ければそれだけ操縦者の技術が要求される。簡単に力はつけられんということだな」
得意げに白井が笑う。
そこに櫛田が疑問を口にした。
「キューブの方は狩りに使わないんですね」
「いい着眼点だ。基本的にはさっきのような足場形成が主な用途なのだよ。廃墟内は崩落していたりするからね」
「じゃあ、探索専用なんですね」
「そういうわけでもない。狩りでも使えるが少々限定的なのだ」
「限定的?」
「そうだね。例えば――」
直後、咆哮が響く。
「ありゃ? 取りこぼしましたかね?」
「聞き取れたか、櫛田?」
須佐野の問いに少女が首を振る。
「うまく拾えませんでした。少なくとも複数いるみたいです」
「なるほど……。各自、応戦準備を!」
白井が警戒を促す。
同時にキューブが浮上しドローンに装填された。
それぞれが臨戦態勢に入る。
やがて、咆哮の主が姿を現した。
「BARURURU!」
「「PIKYAAAA!」」
こちらに迫ってきたのは三匹の中型ノラゴン。
先頭を走る一匹は黒ずんだ紫色の鱗に覆われ、曲がりくねった角が目立つ。
それに追従するのは空を飛ぶ二匹のノラゴン。中型では珍しい飛行タイプでワイバーンのように前脚が翼となっている。
「ほう。典型的な〈翼竜〉のようだな」
「あんなにデカいのもいるんですね」
コンドルより一回り大きい図体を持つ翼竜。
巨大な翼で空を飛ぶそれはこちらに気づくと金切り声を上げた。
体に対して大きく発達した後ろ足には何かを握っており――。
「っ!? マズいぞ!」
須佐野が叫ぶ。
直後、空飛ぶノラゴンが急旋回。
体は失速しながらも足は勢いよく前へ。
そこから慣性により何かが高速で射出される。
放たれたのは大小様々なコンクリート片。
おそらく廃墟の瓦礫だろう。
それらが虚を突かれた一同に迫った。
「きゃあああ!」
櫛田が悲鳴を上げながらとっさに伏せる。
直後、地響きと砂煙。
続けて謎の金属音が響いた。
少女が恐る恐る顔を上げると――。
「これは……キューブ!?」
彼女たちの目の前に現れたのは積み重なった銀色のキューブ。
それらが壁となって立ちはだかり、礫を全て受け止めていた。
「だから言ったであろう」
白井が悠々と告げる。
後方で余裕そうに腕を組みながら。
「我が狩場では誰の血も流させない」
指を鳴らす。
再びキューブが高速で浮上。
空中で爪付きドローンと合流した。
「あれが〝銀幕〟の所以だ」
少女の隣で須佐野が呟く。
鬼灯は藤色の目を輝かせながら笑った。
「あらかじめドローンにキューブを装填。緊急時にはそれを急速離脱。自由落下とブースターにより高速かつ正確に壁を生成する。これがうちの聖騎士の基本技っす!」
「〈聖なる加護〉と呼んでいる」
「おかげで助かりました」
「で、どうするよ、聖騎士?」
須佐野が問う。
目の前には依然としてこちらに向かってくるノラゴンたち。
「愚問だな。人に仇なす邪竜は一匹残らず捕まえる。それが聖騎士の務めなのだから」
白井は前髪をかき上げながら静かに微笑む。
隠れていた右目がちらりと覗く。瞼が閉じられたそれを大きな傷跡が縦断していた。
「さあ、諸君。竜狩りの時間だ」
二つの部隊の共同戦線。
その力が試される。




