もてなし
新キャラ(今度は顔出し)登場です!
「そろそろ着きますかねー」
仔竜を抱きかかえるようにいつものリュックを膝の上に乗せて座る櫛田。わくわくを隠しきれず上機嫌に足をバタバタさせている。
「わざわざ別々で現地集合とは……面倒な奴だな」
一方、須佐野は苛立ちを募らせる。
二人は自動運転の回収車に揺られている。
荒廃した狩場において、竜狩人たちの貴重な移動手段だ。
「確かにそうですよね。どうせなら拠点で顔合わせすればいいのに……」
「あいつのことだ。きっと〝演出〟したいんだろうよ」
「演出?」
「自分をかっこよく見せたいんだよ。キザな野郎なんだ。〝聖騎士〟と自称するくらいにはな」
「それは……その……面白い方ですね」
櫛田が何とも言えない表情で応じる。
「悪い奴じゃないんだ。実力もある。黙ってさえいればマシなんだが……」
須佐野も言葉を濁す。
それ以上はフォローのしようがなかった。
二人して窓の向こうで流れる景色をどこか遠い目で眺めていると、やがて目的地周辺に到着する。
回収車を降りて、二人は廃墟の合間をしばらく歩くと目当ての合流地点はすぐにわかった。
というより目立っていた。
「あれは……燃えてる?」
元は駐車場と思しき場所。
その広い範囲一帯に一つの輪になって灯るのは無数の炎だった。
訝しみながら近づく。
よく見れば円形の低い台座の上で炎が揺らめいていた。
しかし、不思議と熱は感じられない。
「なんだ、作り物じゃねえか」
彼の指摘するようにそれは擬似炎だった。
そして、そんな炎の輪に囲まれていたのは――。
「今度は銀色の……キューブ?」
少女が青色の目を細める。
見える物の異質さに思わず首をかしげた。
彼女が言うように、炎の輪の中には銀色に輝くキューブ状の物体。
大きさは七十センチメートル四方といったところだ。
それが十二個、等間隔でまた輪になって並んでいた。
「……演出に磨きがかかってやがる。どこのセーブポイントだよ」
須佐野が顔をしかめる。
よく見ればキューブのうち二つの上には人影。須佐野たちとは異なり、戦闘服の上着の色はD隊の証であるオレンジ色だ。
「やあやあ。よく来てくれた、X隊の諸君。旧知の武也はもちろん、雷竜捕獲の功労者である姫奈君のことも存じているよ」
目の前にはキューブに座って足を組む青年がいた。
男性にしては珍しい銀灰色の長髪。垂れ下がった前髪のせいでオリーブ色の瞳は左目しか確認できない。
「ずいぶん凝ったもてなしだな」
「そうだろう? 楽しんでもらえたかな?」
「えーっと……面白い趣向ですね」
明らかな苦笑い。
長髪の青年はそれを意に介さない。
「気に入ってもらえたようでなにより。立ち話もなんだ。まあ座り給え」
D隊の青年が右手でキューブを示し着席を勧めてくる。
椅子としてはやや大きめの手近なキューブに二人はひとまず腰を下ろした。
「申し遅れたね。我は白井堅造だ。須佐野の同期さ。以後お見知りおきを」
「昨日のドローンの方ですよね? これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
満足そうに頷く白井。
そして、右手で隣に着座したもう一人の少女を示した。
「紹介しよう。彼女は我が後輩の……」
「ども。鬼灯冥蘭でーす。十八だからヒメちゃんよりは先輩かな。まあ、面倒だしタメでいいっすよ。よろしくー」
座ったまま軽く会釈する少女。
カールがかったシアン色のショートヘアが揺れる。顔を上げると、気だるげな藤色の瞳で二人を凝視した。
「……そっちのお兄さんの方がうちの先輩よりもイケてそうっすね」
「冥蘭君? それはどういう……」
「そうなんですよ。タケヤ先輩は頼もしいんです!」
「なんでお前が得意げなんだよ!」
即座に須佐野が突っ込む。
そして、その目をD隊の二人へ向けた。
「さて、さっきからずっと気になっているんだが――」
言葉を切り、おもむろに彼らの頭上を指差した。
「どうしてお前らは猫耳なんて着けてんだ?」
彼の指摘通りD隊二人の頭にはオレンジ色の猫耳が揺れていた。
鬼灯はまだしも白井までが何食わぬ顔で猫耳がついたカチューシャを被っている。
当然、ファッションは個人の自由だが、須佐野の知る限り彼にそんな趣味はないはずだ。
「……必要なのだから仕方あるまい。まだ割り切れてはいないがな」
「えー、かわいいじゃないですか!」
苦笑いする白井に、鬼灯が抗議の声をあげる。
何かを察したのか櫛田が問う。
「もしかして、D隊の装備品ですか?」
「当ったりー! これはドローンの操縦デバイスでーす!」
猫耳を指差しながら鬼灯が答える。
「操縦って……コントローラーじゃないんですね」
「今は脳波で操縦する時代。任務中にいちいち手元に目を移せないっしょ? それにコントローラーじゃ捌ききれないし。何たってうちらD隊は」
「一度に十台以上のドローンを操るのだよ!」
ドヤ顔で白井が割って入ると、そのまま後輩の言葉を奪う。
大人げない先輩を鬼灯は恨めしそうに睨んだ。
「そんなに操れるんですか!」
「実際に見せた方がよかろう。冥蘭君」
白井が指を鳴らす。
「せっかく綺麗に並べたのに……。はいはい、仰せのままに」
渋々といった様子で鬼灯が応じる。念じるように手を合わせ目を閉じた。
すると――。
「わっ! 炎が」
輪になっていた炎、正確には擬似炎が台座ごとふわりと宙に浮く。
その数、総勢十六。
耳を澄ませばかすかにモーター音が聞こえる。
「ドローンだったのかよ!」
擬似炎を纏ったドローン。炎が宙を舞う様子はまさに人魂のようだ。周囲が廃墟なのもあって夜中であれば怪奇現象にしか見えない。
「こうやって一度に操る感じー。といってもうちは不器用なんでー」
鬼灯が広げた両手を前に突きだす。
直後、空を飛ぶドローンの群れは二列に分かれる。
それぞれの列は蛇のように一体となって動き始めた。
「こんな風に連隊で動かすのがやっとっすね」
「十分すごいように見えますけど……」
残念そうな鬼灯の様子に櫛田が戸惑う。
そこに白井が得意げに付け加えた。
「普通は全てをバラバラに動かせるものなのだよ。例えば、一部は周辺警戒に、残りを建物内の捜索に充てる。建物内のドローンもフロアごとにさらに細分化可能だ。各フロアでもそれぞれがどの部屋を捜索するか全て操作して配分する。それができるようになって初めて一人前なのだ」
「……何度も聞いているがやはり俺には理解できない」
「頭がパンクしちゃうんじゃ……」
白井の解説に顔をしかめる二人。
鬼灯が言葉を継ぐ。
「まあ、うちらには共通の遺才があるんで」
「そんな便利な遺才があるんですか!」
「その名も〈過重処理〉。おかげで高度な情報処理が可能ってわけよ」
とはいえ、と鬼灯は続ける。
「デバイスに補助機能もあるんで、十機くらいまでならヒメちゃんでも動かせますよ。何年か訓練を積めばね。それに遺才があっても何機のドローンを動かせるかは本人の鍛錬次第だし」
だからうちも頑張らないと、と頭を掻いた。
「……世の中には天才もいるがな」
須佐野が小さく呟く。
「はっはっはっ。……全くその通りさ」
「……あの人は特異点っしょ。例外っすよ、例外」
それに同調するD隊の二人。
「特異点?」
周囲の反応に少女が首を傾げる。
苦々しい顔をしながら白井が補足した。
「我らがD隊を率いる隊長殿のことだよ。彼が操れるドローンの数は規格外なのだ」
「そんなにすごいんですか?」
「そもそもD隊の序列は同時に操れるドローン数に依存する感じで……。例えば、自分は十六機。先輩は二十四機。副長だと九十九機って感じ」
「九十九! それはすごいですね」
「……二百だ」
「へっ?」
「隊長殿は同時に二百機のドローンを操れる」
「……はい?」
理解に苦しむ言葉。
困惑する少女に須佐野が追い討ちをかける。
「それも常時操ってるよな」
「うむ」
「……はあ!?」
衝撃的な宣告に櫛田が間抜けな声をあげる。
そんな反応には慣れているのか白井は説明を続けた。
「二百機のドローンにより隊長殿は多くの業務をこなしている。任務中の隊員を見守りつつ危なそうであればフォロー。拠点周囲の哨戒。封竜域の深部進行。これらを同時並行かつ単独で二十四時間行っているのだ」
「えーっと……本当に人間ですか?」
「心優しい方だよ。危ういくらい真っすぐで純真さ」
「おまけに顔は超カッコいいんすよ!」
鬼灯がはしゃぐ。
二人の語り口から隊長の人望の高さがうかがえた。
そこに須佐野が咳払い。
「話を猫耳に戻すぞ」
再び白井の頭上を指差した。
「操縦デバイスくらい俺も知っている。でも前はサイバーパンクな髪留めって感じのデザインだっただろ。いつの間に猫耳になったんだよ?」
「武也も知っているだろう。D隊はその性質上、女性が多いことを」
D隊は腕っぷしの影響を受けにくい珍しい部隊だ。任務内容も索敵や哨戒が多く危険性が低い。さらに、その特徴から他の部隊との合同任務もよく組まれる。非力でも問題なし、比較的安全な任務、他部隊の竜狩人との出会いもある。女性受けする要素ばかり。結果としてD隊の構成要員のうち7割は女性だ。
「最近操縦デバイスのデザインを見直す機運が大きくなってな。そこで幾つかのデザイン案が出され内部で希望を調査したのだ」
「それで猫耳が人気だったんですか?」
「いや、以前のデザインを洗練したものと猫耳とで人気は拮抗していた。そこで、最終決定は隊長殿に一任されたのだが……」
ここでまたしても白井が苦い顔を浮かべる。
ある程度事情を知っている須佐野は要領を得ない。
「それだったら猫耳は選ばれないだろ。あいつの趣味じゃないはずだ」
「それなんすけど……。隊長は決定権を隊長補佐に委ねたんすよ」
「補佐ですか。大きな部隊だとそんな役職もあるんですね」
驚く櫛田。
しかし、それは彼女に限ったものではなかった。
「おい待て! 代理じゃなくて補佐だと? そんなのはないはずだ。初耳だぞ」
「ええっ!? そうなんですか!」
「無理もない。今年度になってD隊に新設されたばかりなのだから」
腕を組みながら白井が告げる。
納得いかない須佐野はさらに追及した。
「副長とどう違うんだよ?」
「文字通りあくまで補佐だ。隊長の卓越したドローン展開力はGUILD本部も認めている。彼の力をフル活用するため、書類仕事などの雑務を肩代わりする役職。それが隊長補佐だ」
「なるほど。つまり特別待遇ですか。隊長さんは本当にすごい方なんですね」
櫛田が納得の声を上げる。
対して、須佐野は事態を察した。
「……読めてきたぞ。まさかその補佐っていうのは」
「女性っすね。しかも超美人!」
彼が言い切る前に鬼灯が答えを明かす。隊長の時といい、ビジュアルの良さは彼女にとって重要な要素のようだ。
「まあ、つまりだな。結果として、補佐の一声で猫耳になってしまったのだ……」
自身の無力さを悔いるように白井が唇を噛み締める。
しばしの沈黙。
パンッと手を叩くと、何とか空気を切り替えた。
「さあ、過ぎた話はもう終わりだ。これからの話をしようじゃないか」
幾分か尊大さを取り戻した声で後ろを指差し、告げる。
「ここから数ブロック先にある大きな廃墟が今回の現場だ。とはいえ策もなく突撃するのは愚行の極み。よって、本日は実戦を通して相互理解でもしようではないか」
直後。
「GUAATH!」
五匹のノラゴンが姿を現す。
一般的な非飛行型の小型種だ。
「先輩。お客さんみたいですよ」
「うむ。ちょうどいい。X隊の諸君、もてなしを頼めるかな?」
白井の提案を合図に二人がキューブから飛び出し肩を回す。
「さてと……今回も期待してるぞ、新人」
「任せてください! 竜訳機の力を見せてあげますよ!」
少女が息巻く。
須佐野は頷きながら、笑った。
「さあ、竜狩りの時間だ!」
合同任務、開始。
本日の更新はこれで終わりです。
明日以降は毎日0時に1話更新していきます。
引き続きお楽しみいただければ。




