007:ヒタチ永代供養墓
*西暦2万2070年8月6日 水星 β世界線 ヒタチ永代供養墓 橘 視点
「着いたぜ。ボス。」
ペネルがヒタチ永代供養墓に着いた事をボスに伝えると、ボスは俺達に指令を出した。
『ペネル。橘。君達2人には、寺院で管理している永代供養墓の“骨壺”を探してきて欲しい。』
「……骨壺?」
俺が怪訝そうに聞くと、ボスが解説する。
『ああ、正確に言うと、骨壺の中に一緒に入っている“故人の神経チップ”を取ってくるのが任務だ。ペネルたちが乗っている車には、神経チップの解析機械が詰んであって、僕が遠隔でそれを操作しながら“映像データ”にする。……橘、君はその映像を見て、今後僕たちと組むのか真剣に考えて欲しい。』
俺は思っていることを素直に口に出した。
「………映像の中身、次第だな。ペネルの言う通り、フランクリン一家の事件が“神経チップに関係している”なら………俺はこれからの動き方を考えなくてはいけない……」
ボスと俺との会話に、ペネルも参加し始めた。
「“フランクリン一家事件“の全貌を知るには、3人の故人の神経チップが要る。重要なのは、母親と父親の神経チップだ。娘の神経チップは”現場の目撃”以上の情報はない、と思われる。」
「……つまり、“母親と父親の神経チップ”の確保が優先で、出来たら、“娘の神経チップ”を手に入れる……という感じか?」
俺が要点を纏めると、ボスが反応した。
『読み込みが早いね、橘。その通り、親2人の神経チップを手に入れるのが最優先だよ。』
ボスがそう話すと、今度はペネルが説明する。
「任務とは言っても、そんな堅苦しいモノじゃない。墓守の僧侶とは、“顔見知り”だ。安心しろ。……何かイレギュラーな事態に陥ったら、俺の名前を“別の名で呼ぶよう“伝えてある。その時は臨機応変にな。」
すると、ペネルは上着を脱ぎ始めた。
「……一応、病院の時とは違う服装で行こうと思う。まあ、隠しポケットやらリュックやらに忍ばせてはいるがな。」
ペネルは黒のパーカーから桃色のアロハシャツに着替えた。その様子を見て、俺も少し考える。
「……そうだな。俺も念のため、スキンを変えておこう。……そうだな、ペネルの親族という体で行くか……」
俺は首元の右側を触る。すると、触ったところが◇の緑に光り、俺の姿を変えた。髪は黒色になり、どことなくペネルの目と鼻と口が似ているが、輪郭は母寄りという設定で丸顔を採用した。そして、服装もオレンジと黒の色のジャージではなく、青のTシャツにジーパンと目立たないモノにした。
『………橘、今“スキン変更”を使った?』
どことなく、変な空気が流れた。俺は何かしくったのだろうか。
「ああ、スキンを変えた。……何か問題でも?」
『スキンの通信情報は、どこの管轄下なのか分かる?』
「……通信……管轄……そうか、すまない……通信履歴の問題か。大丈夫だ、履歴はオペレーターのノアのPCにしか残らないはずだ。上層部の管轄ではない。」
『ふう……そうか。しかし、橘。通信系は気を付けて使ってくれ。使う前に、一度僕に許可を得るとか……』
「……軽率だった。次からは、気を付ける……」
ボスとのやり取りでひやりとしたが、そんな空気とは関係ないとペネルが気ままに喋る。
「よしっ準備できたぞ。中川は留守番を。俺達2人は寺院の僧侶に許可を得て、骨壺を出してもらおう。じゃあ!いくぞ!橘!」
俺とペネルはワゴン車から降りて、寺に向かう。寺に着くとペネルは、寺の入り口のインターホンを鳴らして、大声で言った。
「頼もうーーーーー!!!」
俺はその声にビビリながらペネルに小言で耳打ちする。
「……そんな自ら目立つ必要あるか?フツーに“ピンポーン”って鳴らせばいいだろ。」
ペネルはチッチッチッと口を鳴らしながら、右手の人差し指を左右に振った。
「もう、口裏合わせは始まっている。大声で“頼もうー!!”は、犯罪関係者の納骨室003の骨壺の詮索依頼だ。」
ペネルは小声に切り替えて、俺に耳打ちする。
「………僧侶が出て来て、俺の名前“ペネル”と呼べば、あとは素で良いぞ。」
「……………違う名を言った場合は…?」
「その時は、俺が先導するから橘は俺について来い。」
俺達2人が待っていると、インターホンから返事があった。
『…はいはいはいー、今、主人が行きますねー。』
僧侶の奥さんだろうか、インターホンの声は年配の女性だった。女性の声色からは異変は感じ取れなかった。すると、ドタドタドタドタと寺の中を早足で歩く音が聞こえた。この足音が僧侶だろうか。そんなことを考えていると、寺の入り口がガラガラと開いた。
「おおー!待っておったぞー!」
そう僧侶が言うと、僧侶がペネルに軽く抱擁し、ペネルの背中をバンバンと叩く。
「例の頼まれた物、出来上がったぞ!ほれ、これだ。般若心経写経用紙、お手本も一緒に入っておるから。頑張るんじゃぞ。」
俺は何のやり取りが行われているか見当がつかず、このやりとりを最後まで見届けるしかなかった。
「般若心経の模写、大変だろうが最後までやるんじゃぞ。“オサム”。」
オサム……!…今、ペネルの事を“オサム”と呼んだのを俺は聞き逃さなかった。
「わしもこう見えて、忙しい身じゃ。これにて失礼する。オサム、励めよ。」
「……ああ!お坊さんも元気でな。」
“ほら、行くぞ”と俺の腕を引っ張るペネル。僧侶がペネルを“オサム”呼びしたのは確定で、この寺院では“何かが起きている”らしい。ペネルと俺は、ワゴン車に戻って、話し込んだ。
「……ペネル、今“非常事態”なんだろ?」
「…ああ、残念なことにな。」
「……………」
「まあ、そう肩を落とすな。まだ、出来る事があるかもしれんぞ。ちょっと、待ってな。」
ペネルは僧侶から貰った般若心経写経の手本を開く。すると、そこにはおびただしい漢字の羅列と、寺院を含んだヒタチ永代供養墓の地図が記されていた。
「………ふむふむ、今、“警察の警護隊の連中が来ているみたい“だな。”とある犯罪被害者と加害者の骨壺の神経チップを取りに来た“らしい。そう漢文で書いてある。」
「…“取りに来たって”……フランクリン一家か?もしかして……」
「……そこまで書いてねえが、恐らくそうだろうと想定した方がいいかもな。」
「俺は……娘のアマネ・フランクリンと接触したことがある……そこから、辿られたのかもしれない……」
すると、ペネルは頭の髪を軽く掻きながら、俺に言う。
「……この漢文によると“神経チップの回収は2人で、フランクリン夫妻のみ”と書いてある。………娘のアマネ・フランクリンの神経チップは“回収しない”のではないか?」
「…………賭けに出るという事か?」
「まあな…そういう時もある。んで、どうする。橘、行くか行かないのか。」
「……分かった、行こう。ペネル。………アマネ・フランクリンの骨壺は、“犯罪関係者の納骨室003”にあるのか?」
「ああ、そのはずだ。彼女は“社民党党首『ウォンツ・P・島江』暗殺未遂事件“の被害者と記録されている。アマネの骨壺は納骨室003にあるのはいいが……管理番号がな……」
「……管理番号……アマネさんの骨壺に番号が振り分けられていて、番号が分からないと神経チップが手に入らない……?」
「ああ、その解釈で合っている。……そうだな、Webで番号の管理をしてないだろうか………ボスに聞いてみる。ちょっと待ってろ。」
『……何?ペネル。』
「……ボス、実は………」
ペネルは事情をボスに話し、ボスはしばらく考えた後、応答した。
『なるほどね……管理番号か。しかも、寺院に形跡を残さない方法………そうだな…』
「……できそうか?」
『………ちょっと考えている。回り道して、警察の疑惑を逸らす方法を模索したい…………』
「………………」
『…………そうか!……直接、国が管理している“犯罪者名簿リスト”をハッキングしちゃえばいい。あとは、生死の判明をすれば、自然とアマネ・フランクリンの管理番号と近い値が出る。また、遠回りにしたことで、ヒタチ永代供養墓との関係性は遠くなる。誰も俺達の現場が墓地だなんて思わない。』
「……行けそうか?」
『ああ、やってみよう。』
ボスが5分ほど機械を弄っている音がする。果たして、結果はどう出るだろうか。俺は息をのんだ。
『……できた。おそらく、アマネの骨壺の管理番号は“415690”付近だ。管理番号は骨壺の外側に明記されていて、その下にフルネームが書かれるのが決まっている。…………問題は……』
「……“問題”?」
『納骨室003の中は暗闇なんだ。だから、橘達も警備隊もライトを持たなくてはいけない。………これじゃあ、お互いの位置はバレバレになる。戦闘は避けられない。』
「……暗視ゴーグルか、赤外線ゴーグルはないのか?」
「いや、それより効率が良い方法がある。」
*水星 β世界線 ヒタチ永代供養墓/納骨室003 前 橘 視点
「パパ、パパ。オレ、占い師で食べていけるかな?」
俺は先ほどの“ペネルの息子を想定した姿”で演技をする。設定は、“手相占い師を目指している息子”である。そこに、ペネルも合わせる。
「占い師かぁ…パパとしては、占い師は副業で普段はサラリーマンでいて欲しいな。占い師って鑑定の数がそのまま収入になるだろ?一日に視るの数に限界が無いかな?」
俺たち二人はそんな会話を続けながら、納骨室003の入り口に止めてある“機動隊のトラック”まで来た。俺達の演技はまだ続く。
「か、鑑定の数!? オレだったら、手相見るのそんなに時間かからないもん!!だから大丈夫!!」
トラックの周りにいる機動隊の奴らは、運転手が1人、骨壺探しに1人と、合計で2人しかいなかった。正直、拍子抜けしたが、少しの気のブレが最悪、彼らにバレる事なので、全力で演技をするのをためらわなかった。俺の演技に答えるペネル。
「そうだなぁ……じゃあ、通りすがりの人達を鑑定するのに、平均で何分かかるか、パパが腕時計で測ってやるよ!ねえ、そこのお兄さん、ちょっといいかな?」
ペネルが機動隊のトラックの運転席の窓をコンコンとノックした。運転手は渋々と窓を開けた。
「………何の御用ですか?」
“あらー渾身の俺たちの演技、見られてすらいないのねー”と言いたげな表情を出しそうになったが、ペネルがかくかくしかじかと“息子の手相占いの内容を説明する”……すると、運転手が乗り気になった様子を見せた。
「へぇー、無料で息子さんが手相占いをしてくれる。いいですね、私もボランティアで手相を貸してもいいですよ。」
「ええ!ホントですか、ありがとうございます!ほら、おまえもお礼いいなさい!」
「お兄さん!ありがとう!……では、右の掌を見せてください!手相を見ます!」
そう俺が催促すると、運転手は黒い手袋を外し、窓の外に素の右手を出した。これは絶好のチャンスだが、俺は心を静めながら、演技を続ける。
「……ほほう!この線の先が気になりますね。……虫眼鏡じゃないと見えないかも……ちょっと待っててください。」
俺がジーパンの後ろポケットから“あるスティック型注入器”を出して、運転手の掌に素早く刺して内用液を注射した。
「……お兄さん、これ知ってますか?“アテオス”っていうらしいですよ。」
まあ、このアテオスの中身は“麻酔”だが……すると、運転手の右腕がだらんと落ちた。きっと麻酔が効いたのだろう。すると、ペネルはそそくさとトラックの荷台にある“2つの骨壺”を抱え込んでいた。
「……さっさとずらかるぞ。もう1人の方は納骨室に籠って探し物中だ。今のうちに、俺達のワゴン車に行って、墓地から移動しよう。」
ペネルと俺は骨壺を抱えながら、墓地からずらかった。
2つの骨壺には”アマネ・フランクリン”、”クリム・フランクリン”の2人の名前があった。どうやら、娘と母親の骨壺を持ってきたみたいだ。父と母の神経チップだけと想定していたが、実際は3人全員の神経チップの運送が行う予定で、正直上手く行ったこと自体がギャンブルのような勝ちだったらしい。
次回、「神経チップの映像の内容」です。
推理の事件にいつになったらなるんだろうと、思いつつ書いていきます。
(・・・戦闘シーン書けませんでした・・・むう・・・)




