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高校デビューした俺。学校一の美少女を狙うはずが、クラスでは犬猿なのに家では甘々な義妹が邪魔してきて気持ちが揺れてます  作者: 久遠遼


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37/40

37見回りという名の歓迎祭デート

 あっという間に二週間がすぎ、新入生歓迎祭の日がやってきた。

 美羽のお母さんのお墓参りをしたあの日から、美羽とは本当に“ふつうの家族”として接している。

 あんなに過剰に触れてきたり近づいたりすることもなくなった。険悪でもない。ただ、普通の兄妹の距離感。

 以前の俺が望んでいた家族の形がそこにある――そのはずなのに、どうしようもなく不安で、心がひどく心細かった。


「特に問題はなさそうだね」


 ぼんやり考え事をしながら廊下を歩いていると、隣を歩く柳瀬さんが顔を覗き込んできた。


「若松くん、今日ずっと難しい顔してるよ? 何か悩みごと?」


「……いや、別に。ちょっと考え事してただけだよ」


 本当は自分でも整理できていない美羽のことを話せるわけもなく、曖昧に返す。

 柳瀬さんは一瞬だけ目を伏せ、それからふっと笑った。


「もしかして“委員だと歓迎祭楽しめないな〜”って思ってる?」


「まあ……そんなところかな」


 的外れなはずなのに、その明るさに少し救われた気がした。


「……ね、せっかく二人で見回りなんだからさ。

 今日は、その……楽しまない?」


「た、楽しむって……今見回り中だけど?」


「仕事はちゃんとするよ? でもせっかくだし、ただ委員の仕事してるだけなんてもったいないでしょ?」


 彼女は何かを察しているようだった。

 でも、無理に聞き出そうとしない。ただ沈みそうな気持ちをそっと軽くしてくれる。

 その寄り添い方が、本当にすごいと思うし、やっぱり好きだと感じてしまう。


「ほら、あそこ見て。なんか盛り上がってるよ」


 指差す先では、人が列になって必死に何かを狙っている。歓声が廊下まで響いていた。


「見回りって名目で覗いてみない? “治安チェック”ってことで」


「治安チェックって……完全に楽しむ気だよね?」


「ふふ、バレた?」


 その無邪気な笑顔に、思わず苦笑がこぼれる。

 気づけば、胸の重さがまた少し薄れていた。


「……まあ、トラブルさえなければ、少し見てもいいかも」


「やった! じゃあ行こっ」


 彼女は小走りで先へ進み、俺も追いかける。

 窓から差し込む春の光が、柳瀬さんの後ろ髪をやわらかく照らす。

 妙に鮮やかな光景で、胸の奥に小さな波紋が広がった。


「ん? あれ見て若松くん!」


 柳瀬さんが袖を引く。

 指先の先には、ピンポン玉をカップに入れる簡易ゲーム。


「“ピンポンカップイン”だって。景品は……チョコ詰め合わせ!」


「しかもかなり大量だな……」


「こういうの地味に燃えるんだよね。若松くんもやろ!」


 完全に遊ぶモードの柳瀬さんに、俺は苦笑しながら列に並んだ。


 カップは距離によって難易度が変わる三段階方式らしい。


「ね、勝負しよ? どっちが先に入れられるか。負けたほうは……えっと……」


 うつむいて少し考え――


「簡単なお願い事をひとつ聞く、ってのはどう?」


「お願い事?」


「うん。無理難題じゃなくて、軽いやつね?」


 そう言うわりに、その表情には何かを決意したような真剣味があった。


「……わかった。その勝負乗った」


「よし! さすが若松くん!」


 ぱっと明るくなる笑顔。

 何を願われるんだろうと考えているうちに、俺たちの順番がきた。


 俺はピンポン玉を握る。横で柳瀬さんが身を乗り出して応援する。


「が、頑張れ……いや頑張らないで?」


「いや、どっち?」


 苦笑しながら投げた玉は――カップの縁に当たり、惜しくも外れた。


「く……惜しい」


「次、私ね」


 柳瀬さんは玉を指先で弾ませ、軽く前傾になる。肩までの髪がさらりと揺れた。

 その横顔が、驚くほど綺麗だった。


「えいっ」


 放たれた玉は、迷いなくカップの中心へ吸い込まれた。


「……入った!」


「すご……投げた瞬間入るのがわかったよ」


「じゃあ、お願い事ひとつ、聞いてもらおうかな?」


「約束したしね。それで、どんなお願い?」


「うーん、それはまた後で! 今はせっかくだし、もう少し見て回ろ?」


 無理に気持ちを探ろうとせず、ただ一緒に時間を楽しんでくれる。

 救われているのは、間違いなく俺の方だった。


 そうして歩き出した矢先、校内放送が響いた。


『え、えーと! 後夜祭ステージでトラブルが……っ! 実行委員の人、至急来てくださーい!』


 柳瀬さんと同時に顔を見合わせる。


「さすがに行くしかないかな?」


「みたいだね、見回りはおしまいだね」


 彼女は少しだけ残念そうに眉を下げ、それでも柔らかく笑った。


「早く済ませて、また“見回り”するか」


「……! うん、そうだね。早く片付けよう!」


 俺のほうを嬉しそうに見上げ、柳瀬さんは頷く。

 そしてふたりで、トラブル発生会場へ小走りに向かった。

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