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高校デビューした俺。学校一の美少女を狙うはずが、クラスでは犬猿なのに家では甘々な義妹が邪魔してきて気持ちが揺れてます  作者: 久遠遼


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36初恋にさよならを言った日

 翌日目を覚ますと、時間は12時前。太陽はすでに真上にあった。

昨日が怒涛の一日だったとはいえ、さすがに寝すぎだ。


 なにやら昨日、俺が部屋に戻ったあと、二人はリビングでしばらく話していたらしい。

ただ、その内容までは聞き取れなかった。


簡単に身なりを整えて一階に降りると、リビングには美羽だけがソファにちょこんと座っていた。


「おはよう……あれ、美羽だけか?」


「もう“おはよう”じゃないよ! 怜奈なら帰ったよ」


「え、そうなのか?」

 

「うん。なんか“用事を思い出した”って」


 あれだけの勢いで泊まると言っていたから、てっきりゴールデンウィーク中ずっと居座るのかと思ったが、ずいぶんあっさり帰ったな。


 ……ん? 待てよ、それはそれで美羽と二人きりの状況に戻るわけで――結局まずいことに変わりないじゃないか。


「ねぇ、お兄ちゃん。いまから出かけない?」


 俺が心の中で葛藤していると、美羽が突然そう言いだした。

考えても仕方がない。昨日みたいにすぐ寝れるよう、昼間しっかり遊ぶか。


「あ、ああ。いいぞ。一日だけ遊んで、あとは家でゴロゴロだと身体がなまるしな。せっかくだし、身体を動かせるところに行こうぜ」


 「うーん、それもなんだけど……お兄ちゃんと行きたいところがあるの」


 「そうなのか? わかった。準備するから待っててくれ」


 「朝ごはん――じゃなくて、もうお昼ごはん。キッチンにあるからそれ食べて」


 「わかった」



 


 美羽に勧められ、食事を取った後手早く準備を済ませて、二人で家を出た。

 途中で花屋に寄り、美羽に連れられて来た場所は家からそう遠くない。

どこに向かっているのか察した俺は、ただ黙って美羽の隣を歩いた。


 やがて目的地につき、二人同時に立ち止まる。

“小野寺家”と刻まれた石。そこは美羽の母さん――小野寺渚さんが眠る場所だった。


 俺も美羽も、何も言わずに線香を焚き、花を添え、静かに手を合わせる。

命日でも記念日でもない。だけど、美羽がここへ来る時は決まって美羽の中で何か大きな出来事があった時だ。


 その“何か”を亡くなった母さんに報告している間、

 俺はいつも、美羽が元気でいること、これからも家族として大切にしていくことを心の中で約束してきた。


 俺自身の報告を終えてゆっくり目を開けると、ちょうど美羽も終わったようで目が合った。


「今日はどんな報告をしたんだ?」


 そう尋ねても、美羽は墓石を見つめたまま口を開こうとしない。

 春が終わり、季節が変わろうとしている風が草木を優しく揺らす音だけが響いた。


 どれほど時間が経っただろう。けして短くはない時間。俺はただ、美羽が話し始めるのを待った。

 やがて、美羽はゆっくりとした口調で話し始めた。


「私……最初、お兄ちゃんと美香さんのこと、家族として受け止められてなかった」


 知っている。言葉にされなくても感じていた。


「だけど、お兄ちゃんに助けてもらったあの日から、少しずつ家族だって思えるようになったの」


 それも知っている。

 あの時は無我夢中だったが、結果的にあの日の出来事が俺たちを家族にしていった。


「でも……それからしばらくして、心の底から“家族”だと思えていたのは、お父さんと美香さんだけになったの」


「え?」


 予想外の言葉に、思わず美羽を見る。


 美羽は、微笑みながら俺を見つめていた。

 その表情はこれまでのどんな笑顔よりも暖かく、親しみがあるのにどこか、昨日までとは違う“距離”を感じた。


「それも昨日で終わり!  今日からまた、お兄ちゃんのこともちゃんと家族として大切にしていきたい。これからも、よろしくね、お兄ちゃん」


「あ、ああ……。でも、今まで家族だと思ってもらえてなかったのは……複雑だな」


 胸のざわつきと得体の知れない不安に飲まれながらも、なんとか軽口で返す。


「それは……本当にごめん。でも乙女にはいろいろあるの! 詮索はダメでーす」


「なんだよそれ」


 いつもの“ダメでーす”のはずなのに、今日はまるで拒絶のように聞こえた。


「あ、そうだ。私、寄るところがあるから先に帰ってて!」


 そう言い、美羽は俺に背を向けて走り出した。


「まっ――」


 待ってくれ、と言おうとしたけど言葉が出なかった。


 美羽の姿が見えなくなってから、しばらく俺はその場に立ち尽くしていた。

 風が落ち着き、線香の煙が細く揺れて空へ消えていく。


 胸の奥がざわつく。

 美羽の言葉はどれも明るくて、嘘なんてひとつもない。

 それなのに、その明るさの奥に、何か大切なものを隠している気がした。


※ ※ ※


 私は墓地の近くにある神社の裏に隠れていた。目からは涙が溢れて止まらない。


 怜奈の背中を押したときも、お母さんに“初恋が終わったよ”って報告したときも耐えられたのに、お兄ちゃんに向かって言葉を発した瞬間、堰が切れたように涙が溢れた。


 お兄ちゃんには、ただ「家族としてまた仲良くしましょう」って聞こえたと思う。

 けれど、あれは最後に我慢できなかった私の想い。

 家族じゃなくて、異性の男の子としてお兄ちゃんを見ていた。その気持ちの終わりを告げるための言葉。


 私だけが分かる。

 私だけのための、さよならの告白。


――さよなら、私の初恋。

――さよなら、智也くん。


 はじまる前に終わったと思っていた私の恋。

 だけどそれは、怜奈にとっても、お兄ちゃんにとっても、そして私自身にとってすら“はじまり”なのだと、このときの私はまだ知らずに、ただただ泣き続けた。

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