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高校デビューした俺。学校一の美少女を狙うはずが、クラスでは犬猿なのに家では甘々な義妹が邪魔してきて気持ちが揺れてます  作者: 久遠遼


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35/40

35親友の恋を後押しした夜、私は失恋した

 お兄ちゃんが「もう寝る」と言って先に自分の部屋へ行ったあと、リビングには怜奈と私だけが残った。

 最近の怜奈の様子、そして今日いきなり「泊まる」と言い出した理由。それを確かるため私は、さっそく切り出そうとした。


「ねぇ」

「あのね」


 まるで打ち合わせたみたいに声が重なり、怜奈が目を丸くする。たぶん私も同じ顔をしていたと思う。

 ほんの少し間が空いてから、二人で吹き出すように笑ってしまった。


「美羽から話して」


 こういう時、怜奈はいつも私に先を譲ってくれる。促されるまま、私は単刀直入に口を開いた。


「怜奈……若松く――ううん、お兄ちゃんのこと、好きでしょ?」


 その瞬間、怜奈の目が大きく見開かれる。さっきよりも、さらに丸くなった気がした。

 けれど、一度まぶたを閉じ、ゆっくり開いたときには、真剣な表情でまっすぐ私を見ていた。


「うん、若松くんのこと好きだよ」


 迷いも飾りもない、まっすぐな言葉。

 その響きだけで、怜奈の気持ちが本物だと分かった。


 なんとなく察していた。でも、確証を得た瞬間、胸が針で刺されたみたいに痛む。

 これで、お兄ちゃんと怜奈は両想い。どちらかが告白すれば恋人同士になれる。


 ……だけど、次の言葉でその痛みが一瞬吹き飛んだ。


「美羽も若松くんのこと好きだよね?」


「え?」


 思いもよらない問いかけに、言葉が詰まる。

 なんとか平静を装って返す。


「なんで、そう思ったの?」


「“違うよ”って言わないんだね。やっぱり好きなんだね」


 怜奈の指摘にギクリとし、危うく顔を逸らしそうになる。

 確証があるわけじゃない。怜奈は確かめようとしているだけと気づいた私は、わざと軽い調子で答えた。


「いやー違う違う。急に怜奈が変なこと言うからビックリしただけだよ」


「ホントに?」


「うん、ほんとほんと」


 怜奈はじーっと私の顔を見つめていたけど、しばらくするとホッとしたように力を抜いた。


「よかったー。環がこの間“美羽、義理のお兄さんに恋してるかも”なんて言うから。

 義理のお兄さんって、若松くんのことでしょ?  家だとすごく仲良さそうだったし、てっきり……」


「環が?  ないない!  学校と違って家では仲いいけど、それは家族として“お兄ちゃん”だからだよ」


「そっか……」


「今日泊まるって言ったのは、その心配のせい?」


「うん……自分でもよく分からないんだけど、たぶんそう。

 美羽が若松くんのこと好きで、その二人が夜、誰もいない家で二人きりって思ったら、どうしても抑えられなくて」


 怜奈は困ったように眉を下げながら呟いた。その気持ちは痛いほど分かる。

 自分が好きな相手が、他の女の子と夜に二人きり――そんなの、考えるだけで胸がざわつく。


「大丈夫だよ……それに、お兄ちゃんは怜奈のこと好きだから」


「えっ……! そ、そうなの?」


 突然の私のカミングアウトに、怜奈は顔を真っ赤にして固まった。

 だけど、その表情には期待がにじんでいるように見えた。


「うん。近くで見てたら丸わかりだよ。だから二人は両想い。好きなら、さっさと告白しないと!」


 怜奈は耳どころか首まで真っ赤にして、あわてふためいた。


「ちょ、ちょっと待って……急にそんなこと言われても……」


 私は言葉を紡ぐたび、胸が痛む。その痛みはじわじわと熱を帯び、胸の奥を焼くように広がっていく。


「でも、好きなんでしょ? 付き合いたいんでしょ?」


「……うん」


 怜奈は伏し目がちで小さな声だけど、ハッキリと答えた。


 私だって、お兄ちゃんが好きで、付き合いたい。

 だから今まで、怜奈とお兄ちゃんが近づかないように、気づかれないように邪魔してきた。

 怜奈がお兄ちゃんを好きにならないように、ずっと画策してきた。


 だけど――怜奈がお兄ちゃんを好きになった“今”は違う。もう、私は失恋したのだ。


 私がどれだけ邪魔しても、それでも怜奈を惹きつけたお兄ちゃんの恋を、今度はちゃんと後押ししてあげないと。

 今までの“お詫び”として。


「新入生歓迎祭! ゴールデンウィーク明けたらすぐあるでしょ?

 そこで二人で見て回って、後夜祭の時に告白しちゃいなよ!

 絶対、雰囲気もシチュエーションもバッチリだから!」


 怜奈はうつむいて黙っていたけど、やがて顔を上げて、決心した表情で呟いた。


「……うん、わかった。私、若松くんに好きって伝える」


 燃えるような痛みは、今度はひんやりとした痛みに変わった。

 それでも私は笑って見せる。


「その代わり、告白がうまくいったら、トップシークレットの情報提供料として、駅前の新しいケーキ屋さんの一番人気、よろしくね!」


「ふふ……わかった。背中押してくれてありがとう、美羽」


「うん、よろしく!  本気で喋ったら喉乾いちゃった」


 怜奈の晴れやかな笑顔を見送りながら、私はリビングを離れてキッチンへ向かった。


 あーあ。しばらくは、この胸の痛み、消えないんだろうな。


 怜奈、お兄ちゃんのこと、よろしくね。

……二人とも、ちゃんと私のことも構ってよね。

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