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高校デビューした俺。学校一の美少女を狙うはずが、クラスでは犬猿なのに家では甘々な義妹が邪魔してきて気持ちが揺れてます  作者: 久遠遼


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33/40

33ソクラテス

 古代ギリシャの哲学者、ソクラテスはこう言った。

「汝自身を知れ」と。


 人は自分を知ることで初めて欲望に打ち勝てる。

 ある学者の論文では、自己認知が高いほど衝動的行動が減る、ともあった。

 つまり、理性を保ちたければ、まず己の本質を直視する必要がある。


 俺は今、己と向き合っている。


 どれくらい向き合っているかと言えば、

 リビングで正座して、テレビもつけず、呼吸だけを静かに整えるレベルである。


 なぜなら今、好きな女の子二人がお風呂に入っているからだ。


 美羽と遠出し、隣の県から帰ってきたあと、駅で柳瀬さんとばったり出会ってしまったからと思えば、彼女のいきなりの申し出によりトントン拍子で、お泊まりが決定してしまった。


 今から食事の準備するのも遅いし、出前でピザを頼むことにした。

 それを待つ間にお風呂を済ませようということになり現在に至る。


 ずっと想いを寄せた柳瀬さんが、今うちのお風呂に入っているという状況だけでも心臓が破裂しそうなのに、もう一人恋を自覚してしまった相手である美羽もその柳瀬さんと一緒にお風呂に入っているのだ。


 一人だけならともかく、二人も好きな人が入浴しているという、しかもとびきりの美少女がだ。

 俺の心臓の負荷は二倍だ、気をぬくと鼓動が暴走して最後には心臓が破裂して死んでしまうかもしれない。


 俺の命を守るためにもソクラテス、お前の言葉を今ほど必要としている瞬間はない。


「……俺は大丈夫。俺は落ち着いている。落ち着……いて……いる……」


 自分に言い聞かせる。

 言い聞かせれば言い聞かせるほど、落ち着いていない事実が浮き彫りになる。


 脳裏に浮かぶのは、リビングを出た先、浴室の扉の向こう側で二人が並んで髪を洗っている姿。


 違う違う違う、俺は何も見てないし知らない!

 イメージするな! 哲学! 論文! 自制心!


「ええと……たしか、心理学では“快楽の先延ばし能力=人生の成功率と相関がある”って――」


 言いながら、自分でも何を言っているのかよく分からなくなってくる。


 だが必死だ。

 人は追い込まれると、知識で心を飾りたくなるらしい。

 俺の心は今、飾らないと崩壊する。


 それにしても、改めて思う。

 美羽と二人で並んで出掛けたのもはじめてだった。

 そして、今日の外出で美羽に対する自分の恋心に気づいた。

 いや、その前から抱いていたんだと思う。だけど、義理の兄弟という関係から、それに気づかないように無意識にしていただけだったんだと思う。


 一度自覚してしまった以上、もう目を逸らすことはできない。

 だからこそ苦しい。美羽とは義理とはいえ兄妹。禁断の恋、認められないそれと向き合うのは茨の道だ。

 なら、これまで通り柳瀬さんにアプローチすればいいだけの話なのだろうけど、それを考えるとより胸が苦しくなる……そんな単純な答えではダメなのだと理性とは別の何かが訴えてくる。


 高校入学前までリアルで恋をしなかった俺が二人の女の子に恋をするなんて……あれ? 俺ってかなり節操ないのか?


「ふぅーさっぱり!」


「若松くんごめんね、家主より先にお風呂もらっちゃって」


 ドアが開き、柳瀬さんと美羽がリビングへと入ってきた。

 俺は、ようやく自分との戦いに打ち勝つことができたとほっと胸を撫で下ろして、振り替える。


「いや、気にしなくてもいいよ。まだ、ピザは来ていないから俺もお風呂に――」


 そこまで言いかけてから、二人の姿を見て俺は言葉に詰まった。


 お風呂上がり特有の、ほのかに上気した頬。

 濡れた髪先からぽたぽたと落ちる水滴。

 シャンプーの甘い香りがふわっと漂ってきて、脳みその奥まで一瞬でかき混ぜられる。


 柳瀬さんの髪は少し長いぶん、濡れた毛先がぽたぽた揺れて、普段よりずっと大人っぽく見える。

 しかも、笑いながらタオルで髪をふいている姿が妙に家庭的で……なんか、その……ずるい。


 そして、驚きなのは美羽だ。いつも

 整った黒髪は、少し湿って肩に貼りつき、光を受けて宝石みたいにきらめいていた。

 今まで感じたことのない、色っぽさが美羽から感じられ心臓が大きく跳ねる。


(やばいやばいやばい。好きだと自覚しただけで、見慣れたはずの美羽の風呂上がりの姿に対してまでこんな色気を感じるなんて……)


 二人とも、濡れ髪と火照った肌のせいで、普段の何倍も魅力的に見えてしまう。


「若松くん? どうしたの?」


 柳瀬さんが覗き込む。その距離が近い。

 てか、本当に近いって……!


「あ、いや……なんでも、ない……です」


 声が震える。

 いや、声どころか、もう魂まで震えている。


 そんな俺の様子を見て美羽がくすっと笑って言う。


「お兄ちゃん、顔赤いよ? 大丈夫?」


 頬を赤くして無邪気に笑うな!!

 より可愛いく見えるだろうが!!


 くそ……こんなの、落ち着けるわけないだろ。

 ソクラテスぅぅぅぅ!! 今だけ力を貸してくれぇぇぇ!!


 俺は心の中で叫ぶ


 ――“己を知る”とは、なんて残酷なんだろう

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