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高校デビューした俺。学校一の美少女を狙うはずが、クラスでは犬猿なのに家では甘々な義妹が邪魔してきて気持ちが揺れてます  作者: 久遠遼


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30/40

30その一言で心臓がバグった

 店内のスピーカーからは、落ち着いた洋楽が流れている。

 俺はそわそわと鏡の前の椅子に腰を下ろし、スマホをいじるふりをして時間をつぶした。

 店内には、カップルの割合が多く、妙に落ち着かない。


 随分長いこと、待ったような気がした後、ようやくカーテンが揺れた。


「お待たせ……どうかな?」


 美羽は少し照れた様子で、顔だけ覗かせるようにこちらを伺い、そのままゆっくりと姿を見せる。


「……おお」


 美羽の姿に、思わず声が漏れた。


 最初の服は、白のブラウスに淡いベージュのロングスカート。

 シフォンの生地がふわりと揺れ、日差しを透かすように柔らかい。

 胸元には小さな青いリボンが、アクセントのように光っている。


 派手さはないが、清楚で落ち着いた雰囲気が美羽によく似合っていた。


「やっぱり地味かな……?」


「いや、すごく似合ってる。上品っていうか……“ちゃんとした人”に見える」


「“ちゃんとした人”てなにそれ!」


 ぷくっと頬を膨らませながらも、美羽の表情には嬉しさが滲んでいるように見えた。


「じゃあ、次いってみようかな!」


 軽く裾を押さえ、彼女は再び試着室へ。

 数分後、もう一度カーテンが開く。


 今度の美羽は、白いカーディガンの下に薄いブルーのワンピース。

 裾が膝の少し上まであり、かわいらしさの中に少しだけ大人の香りを混ぜたような一着だった。

 胸元のリボンが風に揺れ、黒髪が肩の上でふわりと跳ねる。


「……どう? こっちは、デートっぽいでしょ?」


 恥ずかしそうに裾をつまむ仕草。

 頬の赤みがライトに透けていた。


「……ああ、やばいな」


「え?」


 あまりのかわいさに、本音がそのままでてしまい、あわてて取り繕う。


「あ、いや。やばいくらい似合ってるって言いたかったんだ……」


「え、えぇ……そ、そんなに」


 美羽は照れ笑いを浮かべ、小さく呟いた。


「ねぇ、結局どっちが似合ってた?」


「どっちも似合ってたよ」


「もう! せっかく試着したのに結局それ?」


 口では不満を言いながらも、両方似合っていたと言われて美羽は満更でもなさそうだ。


「じゃあね……“彼女に着てほしい”のはどっちの服?」


「え……?」


 “彼女に着てほしい服”――。

 意図を探りたくなる言葉だったけど、「どういう意味だ?」とは聞けなかった。

 いや、あえて聞かないようにしたのが正しいのかもしれない。


 どんなつもりで言ったのかは分からない。

 だけど、今の美羽と隣を歩く姿が鮮やかに浮かび上がってしまう。


「……今着ている服」


「そっか……それならこの服にする。着替えるね」


 試着室に戻っていく美羽の背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。

 美羽の問いかけで、妹ではなく“彼女”として立つ姿が自然と思い浮かんだ。

 それがたまたまなのか、俺の願望なのかは分からない。


  


「さあ! 次はお兄ちゃんの番だよ!」


 着替え終え、購入する服を片手に戻ってきた美羽が、ビシッと俺を指差す。


「やっぱり、俺も買わないとダメか?」


「ダメでーす。私だけ着せ替え人形にされたんだから! 次はお兄ちゃん!」


 自分で選んで着たのでは? と思ったけど、上機嫌な彼女に水を差す気にもなれず、ため息をつきつつ店内を見渡す。

 改めて見ても、どれも普段俺が着る服とは違い、少し……いや、かなり大人びたものばかりだ。


「なにを選べばいいかさっぱりわからん……美羽が選んでくれよ」


「わかった! それじゃあね」


 美羽は店内をきょろきょろと見回し、木の実を探す小動物みたいに目を輝かせた。


「お兄ちゃんにはね……うーん……“ちょっと大人っぽいけど無理してない感じ”がいいと思うんだよね」


「なんだかよく分からない感じだな……」


「大丈夫! 私に任せて!」


 妙に自信満々に胸を張ると、彼女は棚の間を軽快に歩き回る。

 しばらくして「これ!」と何かを持って戻ってきた。


「はいっ! まずこれ試して!」


 差し出されたのは、深いネイビーのシャツに落ち着いたグレーのスラックス。


「……俺こういうの全然着ないんだけど」


「だから着るんだよ! イメチェンって大事。ほら、行った行った!」


 押し込まれるように試着室へと入り、服を着替えるけど、鏡に写し出された自分の姿を見て、思わず苦笑する。

 着慣れない服のせいか、どうしても“着られている”感が強い。


 恥ずかしさを噛みしめつつ、美羽が選んでくれた服だと思い直して息を吐き、カーテンを開く。


「どう……だ……?」


 うつむきがちに声をかけるが、美羽の返答がない。

 やっぱり変だったのか? と不安になって顔をあげると、美羽は顔を真っ赤にして、両手を口に当てた状態で固まっていた。


「美羽、どうしたんだ?」


「わっ……え、えーと」


 ようやく声をだすものの、歯切れが悪い。


「やっぱり俺には似合わないだろ……着替えるよ」


 恥ずかしさに耐えきれずカーテンを閉めようとしたその時、美羽が手を掴んで止めた。


「ち、違うの! 待って、もう少し見させて!」


「え?」


 美羽の必死な様子に、思わず固まる。


「あ、あのね……大人っぽいし、爽やかだし……すごく似合ってる!

 それになんか……えっと……彼氏っぽい、というか……理想的というか」


 最後だけ小さな声で言い、後ろで指をもじもじさせる。


 心臓が一瞬だけ止まった気がした。


「か、彼氏……?」


「えっ!? ち、ちがっ……! その……服装が、ね? 雰囲気が、っていうか!」


 耳まで真っ赤にして慌てふためく美羽。

 その姿が、胸をくすぐるように可愛かった。


「み、美羽がそこまで言うなら……これ買ってみるかな」


「う、うん……それがいいと思う!」


 落ち着かない様子でスカートの裾をつまむ美羽。

 その仕草に心臓が跳ね、視線が勝手に追ってしまう。


「……お兄ちゃん?」


 固まったまま動かない俺を、不思議そうに覗き込んでくる。


「あ、いや……悪い。ちょっと待っててくれ」


「うん、待ってる」


 ようやく我に返り、カーテンを閉めた瞬間、膝から崩れそうになった。

 頬は紅潮し、胸はざわつき、鼓動は落ち着かない。

 鏡に映った俺の顔は、耳まで真っ赤で――

 情けないくらい、にやけていた。

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