28もう兄妹じゃいられない
「じゃあ、その日は朝早く8時台の新幹線で行くことにする?」
「そうだな、そしたら10時にはザ・アウトレットに着くと思う」
夕食後にお風呂も済ませて、俺の部屋で美羽とゴールデンウィークの予定を相談していた。
その美羽は当然のように、俺の足の間に挟まってスマホを操作している。
髪先からふわりと漂うシャンプーの香り。
お風呂上がりでほんのりと火照った肌から伝わる体温。
そして、男のそれとはまるで違う、柔らかくてしなやかな身体の感触――いや、別に男と密着したことなんてないけど。
こうやって過ごすのは、柳瀬さんと一緒に映画に行った時以来だけど、その時は胸の奥で鼓動が暴れて、息が詰まりそうになっていた。
だけど、今は違う。もちろん「美羽は女の子なんだ」ていうのは同じように意識してしまっている。
ただ今は、胸がドキドキしつつも落ち着く。前は恥ずかしさと息苦しさで逃げ出したかったのに、ずっとこうしていたいとさえ思っている。
放課後、柳瀬さんからかっこいいと言われただけで心臓が爆発するかのような、感情の嵐が吹き荒れていたけど、なんでこんなにも感じ方が違うんだ?
やっぱり俺の女の子との距離感もバグっていっているのか?
「お兄ちゃん聞いてる?」
美羽が振り向き不満げに俺を見上げてくる。
「わ、わるい。なんだっけ?」
「もう、だからお昼は何処で食べるのって聞いてるじゃん!」
ぷくっと膨れる美羽。
学校ではあんなにツンツンしてドライな反応なのに、家ではこんなにも表情豊かなそのギャップに、胸が火照っていく。
なんでだ、さっきといい今といい、美羽に対してこんな気持ちになるなんて今までなかったのに。
兄として向き合うと決める前に感じていたのと近いようで違う、これに似た気持ちを知っているけど、それに気づいてはいけないと訴えかけてくる。
一度言葉に詰まったのを不思議に思った美羽が、振り向いて俺の顔を見つめてくる。
「ねぇ、どうしたの難しい顔して」
美羽の顔が近くにあり、思わずのけぞる。
「色々考えごとしていただけだよ」
「顔赤いよ? 熱あるとかじゃないよね?」
身体の向きを変えて、熱を確認しようと俺の額に触れようとする。
「ね、熱なんてないから大丈夫だ」
「いいから! ちょっと確認させて」
「いいって」
「大人しくして、すぐ終わるから」
ただでさえ近い距離なのに、ジリジリと近寄る美羽から逃げようと立ち上がろうとした瞬間、美羽が飛び付いてそれを防ぐ。
「ダメ!」
「ちょ、こら危ないだ――」
そのまま、俺は後ろに倒れ美羽が覆い被さってくる。
美羽の顔がとてつもなく近くて、暑い吐息が顔にかかる。
顔をそらしたくなるほどの距離だけど、なぜかそれが出来ない。心臓の脈打つ音がうるさい。俺の胸に手を置いている美羽にも確実に伝わっていると思う。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「な、なんだよ。はやくどいてくれよ」
美羽の顔は紅潮し、お風呂上がりのそれは艶びかな色気を感じさせた。
そして、潤んだ瞳で俺に問いかけてきた。
「怜奈のこと好きだよね?」
その言葉に心臓が大きく跳ねる。
「なんで、そう思う」
「違うとは言わないんだね」
しまった、あまりにも動揺してしまって咄嗟にそんなわけないだろって答えれなかった。
美羽は少し悲しげな笑みを浮かべる。
「見てたら分かるよ。だって私は怜奈の親友で、お兄ちゃんの妹だもん」
俺はもうただ黙っていることしかできなかった。
そんな俺に美羽は、再び問いかけてきた。
「じゃあ、美羽のことはただの妹だと思ってる?」
「それは当たり前だろ、美羽のことは」
――妹だと思ってるに決まっているだろ――
そう答えるつもりだったのに、言葉が詰まった。
自分でもなぜそこで言葉が詰まったのか分からなかった。
そんな俺を美羽は目を見開いて、驚いたあと。顔をより赤くしてとても嬉しそうな笑顔みせる。
「そっか……私はね」
一度言葉を切って、俺の頬に触れる。
「お兄ちゃんのこと、ただのお兄ちゃんとは思ってないよ」
「それって……どういうことだよ」
問い返すけど、美羽はべーと舌を出す。
「ちゃんと答えてくれなかったお兄ちゃんには、私も答えてあげなーい」
「な、なんでだよ。それとこれとは――」
「ダメでーす。今日はこれで店じまいでーす」
そう言うとようやく俺の上からどいて、そのまま部屋のドアを開けて外に出ていく。
そして、顔だけ覗かせて、
「それじゃあおやすみ~」
と言って慌ただしく出ていってしまった。
美羽のやついったいあれはどういう意味なんだ。
それに、俺はなんであそこで答えれなかったんだ。
美羽のことは女の子として見るんじゃなくて、妹として見守っていくんじゃなかったのかよ。
美羽と柳瀬さんの二人から、身体中を暑くさせられた俺は、モンモンとした夜を過ごすこととなった。
ただ、ハッキリ分かったのは。
美羽が紛れもなく美少女であり、ただ妹としてみることがやっぱりできないということだった。




