26姉妹みたいな二人と、胸のざわめき
俺、美羽、柳瀬さん、弘毅の四人は食堂で昼食をとっていた。
俺と美羽は、美羽が作ってくれた弁当。柳瀬さんと弘毅は学食を頼んでいた。
「二人は同じお弁当なんだね……」
柳瀬さんが、俺と美羽の弁当を見て呟く。
「そういえば、智也は去年の秋ぐらいから弁当だったね。
それまでは俺と一緒の学食だったのに」
「その頃くらいから、美羽が毎日弁当を作ってくれるようになったからな」
俺がそう言うと、美羽は頬を少しだけ赤らめて、顔をそらす。
「別に、若松くんのためにわざわざ作ってるんじゃなくて、ついでだよ、ついで」
それを見て柳瀬さんがため息をついた。
「はぁーこんなヒントがありながら今ままで全く気づかないなんて……」
「仕方ないよ。こうやって智也と小野寺さんが揃って弁当を出さないかぎり、同じだなんてわかりようがないからね」
「う、ごめんね。怜奈にまで黙ってて……」
「それはもうわかったから、いいよ。
それで、二人はこれからも兄妹だってのは黙っておくの?」
柳瀬さんの問いかけに、俺は少しだけ考える。
正直、一番知られたくなかった柳瀬さんに知られてしまった今、俺自身としてはそこまで隠したいという気持ちはない。
だけど、美羽のことを考えると、また違ってくる。
俺たちはようやく本当の家族として前に進みだした気がする。
美羽も自分なりに距離を近づけようと努力している大事な時だ。
そんな中で、周りに変に騒がれたくない。俺たち家族をそっとしておいてほしいと思った。
「もうしばらく秘密にしておきたいかな。変に騒がれるのも面倒だしな」
「わかったわ、美羽もそうしたいみたいだし。部外者の私たちが、それになにか言うこともないわ」
「そうだね。俺も智也が秘密にしておきたいなら、そうするよ。
最初から周りに言いふらすつもりもなかったしね」
「二人ともありがとう、まあバレたときはその時だ。
別に後ろめたいことがあるわけでもないからな」
話がまとまったところで、弘毅が話題を変えてきた。
「そういえば、昨日最初の委員会だったよね? どうだったんだい?」
「初日だったからな、ほとんど説明だけだったよ」
「そうだね。今のところはっきり決まっているのは、例年通りゴールデンウィーク明け、五月中旬の週末に開催するってことくらいかな?」
俺と柳瀬さんがそれぞれ答えるが、正直なところ大したことは分かっていない。
昨日は本当に今後のスケジュールと、各クラスで何をやるかを考えてほしいという説明だけだった。
「なんか文化祭と違って、学校内の生徒だけだったけど、すごく楽しかったよね」
「軽音部のライブや、部活動体験みたいなのもあったよね」
「そうそう、あと数はそんなに多くなかったけど屋台もあったよね! 焼き鳥に焼きそばに、ワッフルも!」
「食べ物のことばっかり、美羽は食いしん坊だよね」
「えー、だって祭りの楽しみと言えばそれだよ!」
柳瀬さんと美羽が楽しそうに話している。
こうやって見ると、本当に仲が良い。まるで――
「姉妹みたいだね」
弘毅が俺と同じことを思ったのか、ぽつりとつぶやいた。
二人は同時にこちらを向いてキョトンとしたあと、お互いに見つめ合って笑い合う。
「美羽とは小学校のころからの付き合いだからね」
「ずっと一緒にいる大親友だよ!」
「そんなに付き合い長いんだ。柳瀬さんがお姉さんで、美羽が妹かな?」
俺がそう言うと、美羽は口を尖らせて抗議する。
「ちょっと、なんで私が妹なの?」
弘毅が妙に納得した顔でうなずく。
「確かに、小野寺さんは妹って感じのキャラだね」
「成宮くんまで!」
美羽はぷくっと頬を膨らませる。
柳瀬さんはそんな美羽の頭をなでながら、優しく語りかけた。
「私の方が誕生日早いからね~。よしよし、“お姉ちゃん”って言ってみて」
「もう、なんか納得いかない!」
その必死なしぐさが可愛くて、つい見とれてしまう。
……見とれる? 可愛くて笑うなら分かるけど、見とれるなんて――。
ふと生じた自分の感情に首を傾げていると、柳瀬さんの視線を感じた。
「若松くんって、誕生日いつ?」
「は、えーと6月1日だよ」
「それなら、私より少しだけ早いね。美羽が私の妹なら――若松くんは、お兄ちゃんかな?」
ニコッと微笑んで告げられたその一言は、
いつも聞き慣れている言葉のはずなのに、彼女が言うとまったく違う言葉に聞こえて、思わず顔が熱くなってしまった。
※※※
「それにしても美羽は、学校だと若松くんに対して態度が全然違うんだね」
「ど、どういう意味かな?」
昼食をすませた後、若松くんたちと別れて教室へ戻っている時、美羽に聞いてみた。
「だって、昨日電話越しだと。お兄ちゃんって、すごく明るい声で言ってるのに学校だとそんな感じじゃない?
二人が兄妹ってのを知ってる私たちの前でも、若松くん呼びだし」
「だって……」
美羽は顔を伏せて、もじもじしながら一瞬だけ私を見てきた。
「恥ずかしいんだもん……」
しおらしく健気なその様子に、思わずキュンとなる。
「やだ……美羽かわいい」
私は我慢できずに美羽に抱きつき頭を撫でる。
「むーやめて~はなして」
こんなにもかわいい子と屋根の下で一緒に暮らしていたら、若松くんが美羽のことを好きになってもおかしくないなと思い、胸が痛む。
環が言っていた。
美羽が義理のお兄さん……若松くんのことを好きというのは本当だろうか?
彼への恋心に芽生えてしまった今、それがとても気になる。
「怜奈?」
頭を撫でる手を止めて、考え事をしていた私を不思議そうに美羽が、ハテナマークを浮かべて見つめてくる。
「う、ううん、何でもない」
「変な怜奈。早く戻ろ! 授業はじまるよ!」
美羽が私の前へ出る。
近いうちに美羽の気持ちをきちんと確認しないと……
だけど、もし本当に美羽も若松くんのことが好きだったら、私はどうするんだろう?




