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高校デビューした俺。学校一の美少女を狙うはずが、クラスでは犬猿なのに家では甘々な義妹が邪魔してきて気持ちが揺れてます  作者: 久遠遼


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23/40

23ダサくて、かっこいい兄。嘘の構えが、本当の恋の始まりになった。

はあ……ほんと最悪な毎日。

 私は鬱々とした気分で町を歩いていた。


 小学生の頃に母を病気で亡くした私は、高校入学前までお父さんと二人で暮らしてきた。


 お父さんはいつも遅くまで仕事で、家に帰るのは夜遅くだった。

 それでも友人に恵まれて、親友の怜奈とはなんでも話せる関係で、寂しいながらも充実した毎日を過ごせていた。


 第一志望の高校にも合格して、怜奈と同じ学校に通えることになり、それなりに楽しい高校生活が送れると思っていた。


 だけど、そんな希望は急に打ち砕かれた。

 なんの前触れもなく、お父さんが「再婚することにした。お前にお兄ちゃんができるぞ! しかも同じ高校の同級生だ!」と満面の笑みで告げてきたのだ。


 いったいこの人は何を言っているのだろうか?

 人生で初めて、お父さんに腹が立って仕方がなかった。


 再婚するのはいい。

 お父さんにパートナーがいれば、娘としても安心だ。

 だけど、思春期の私にとって、急に同世代の男の子と同じ屋根の下で暮らすだけでも抵抗があるのに、それが同じ高校の同級生となると、なおさらだった。


 もう少し、思春期の娘を持つ親としてその辺を考えてほしかった。

 少なくとも、相談もなしに決められたことは本当に腹が立った。


 そんな不満を抱えたまま迎えた初めての顔合わせで、その気持ちはさらに大きくなった。


 再婚相手の女性は若々しくて綺麗な人だった。穏やかな笑みで自然と気遣いができる人で、印象はよかった。


 だけど、問題はその人の息子――私の兄になる人だ。


 肌は荒れていて、猫背で人と目を合わせようとしない。

 髪は一応セットしているようだったけど、慣れていないのが明らかだった。


 お世辞にもかっこいいとは言えず、自信のなさが表に出ていて、申し訳ないけど、印象はよくなかった。


 私だって女の子だ。

 恋人を作って、薔薇色の高校生活を送りたいと夢見たりする。

 そんな思いもあって、この人と兄妹で、同じ屋根の下で暮らしているなんて知られるのは正直嫌だった。


 だから、高校入学前、一緒に住みはじめてすぐに、私はあの人にこう言った。


「学校であまり近寄ったり話しかけないでよ。あんたと家族だって、周りにばれたくないから」


 その時の、あの人の表情を見たとき、さすがに言いすぎたかなと胸が痛んだ。

 だけど、そんな罪悪感を気にする余裕はすぐになくなった。


 一緒に生活していると、些細なことがとても気になってしまう。

 特別なにかあったわけではないけど、例えばお風呂に入っている時に脱衣所の外で気配を感じたりとか、部屋にいる時も隣から物音が聞こえたりとかして、とにかくストレスだった。


 それに加えて不満だったのは、あの人はどんどんかっこよくなっていったことだ。

 荒れていた肌は綺麗になり、自信に満ちた表情と眼差しに変わっていく。背筋は伸びて体格もよく見えるようになり、髪型も背伸びしすぎない爽やかなもので、好印象だった。


 誰もが振り向くほどのイケメン……とまではいかなくても、見る人によっては「かっこいい」と言えるようになっていた。


 正直、私の好みの見た目になっていた。

 人って努力でここまで変わるんだと感心もした。


 なのに、なぜ不満なのかというと、それが私の親友の怜奈によく思われたいからだというのが、まるわかりだったからだ。


 学校ではずっと目で追ってるし、チャンスがあれば話しかけようとする。

 私から心安らぐ家を奪っておきながら、怜奈まで奪おうとするなんて許せなかった。

 だから、とことん邪魔してやった。


 私はため息をつく。

 こんなことを思っているけど、彼がなにも悪くないのは分かっている。

 こんなふうに思う自分が嫌だった。


 そんな理由で、家に帰りたくなくて、あてもなく町を歩いている。

 気づけば辺りはすっかり暗くなっていて、スマホで時間を見ると21時を過ぎていた。


 どれだけ物思いにふけっていたんだろう。

 自分に呆れて、さすがに帰ろうと思ったその時だった。


「ねぇ、君ひとり?」

「晩御飯食べた? よかったら奢るよ?」


 大学生ぐらいだろうか。若い男性二人が話しかけてきた。

 こんな典型的なナンパ、実際にあるんだって思った。


「これから家に帰るんで……」


 そう言って、二人の脇を通り抜けようとしたけど、それを阻むように二人は立ちふさがる。


「そんなこと言わないでさ、少しだけ付き合ってよ」

 

「そうそう、こんな時間に高校生が一人でぶらついてるなんて、帰りたくない理由があるんじゃないの?」


「ほっといてください!」


 彼らにとっては全く意識していなかったのだろうけど、痛いところを突かれて、私は思わず声を荒げた。

 強引に通り抜けようとする。


「あれ、もしかして図星? それならなおさら俺らと少し話そうよ」


 男性の一人が、私の手首を掴む。


 離して――そう言おうとしたのに、言葉が出なかった。

 憔悴しきった心にトドメを刺すような一言。そして掴まれた手の強さから恐怖が身体を支配して、力が抜けていった。


 これからどうなるのか、自分でも分からなかった。完全に思考を放棄していた。


 そんな時だった。


「あのー、すみません。その子、うちの妹なんで。手を離してもらえませんか?」


 聞き覚えのある声の方を向くと、そこにはあの人が作り笑いを浮かべながら立っていた。


「はぁ、妹? 全然似てねーじゃん。邪魔しようと変な嘘つくんじゃねーよ」

 

「カッコつけたいからってしゃしゃり出てくんなや。ガキは家に帰って寝てろ」


 自分たちの思い通りになると思っていたところに、急に邪魔が入って、男たちは不機嫌さを露わにする。


「そのガキに、男二人が盛って恥ずかしくねーのかよ?

 人が穏便に済ませようとしてるんだから、大人しく引き下がれ。

 もう一度だけ言う。妹を離せ」


 彼はさっきまでの作り笑いをやめ、険しい表情とドスの利いた声を発した。

 そして右足をわずかに後ろへ引き、膝を柔らかく沈める。

 右手は腰の高さ、掌は軽く開いて胸の前へ。

 左手は前方にまっすぐ突き出され、肩は下がり、肘は締まっていて――無駄が一切なかった。


 素人目でも、その迫力と緊張感が伝わってきて、思わず息を飲む。


「お、お前……なにかやってるのか?」


 その雰囲気の変わりように気圧され、男の声が震える。


「だったら? いいからさっさと離せよ。俺の大切な家族を」


 大切な家族?

 あんなに冷たい態度をとっていた私を、そう言ったの?


「おい……もう行こうぜ……」


 男の一人がそう言う。

 周りを見ると、少ないながらも、事態を怪訝に思った人たちがこちらを見ていた。


「ちっ……」


 男は舌打ちし、乱暴に私の手を離す。

 それを見て、彼は構えを解き、またさっきの作り笑いを浮かべた。


「ありがとうございます。さぁ、帰ろうぜ」


「う、うん」


 彼と並んでその場を離れる。

 しばらく歩いて男たちの姿が完全に見えなくなる。人が少なくなったところで、私は彼に声をかける。


「あ、あの……ありが――え?」


 その瞬間、彼は膝から崩れ落ちて、その場に座り込んだ。


「す、すまん……腰が抜けた……」


「え、なんで!?」


 意味が分からず、思わずツッコむ。


「なんでって、あんな年上の男二人を前にはったりかまして大立ち回りだぞ? 内心ドキドキだったんだぞ」


「え、でもあの構え……」


「なかなか様になってただろ? 俺の好きなゲーム、メタルギヤリジットの主人公が使うCQCの構えの猿真似だ」


「それで今になって腰が抜けたの?」


 笑顔で答える彼に呆気にとられる。

 だけど、次の瞬間には妙に可笑しくて笑いだしてしまう。


「なにそれ、ダサいのかかっこいいのかどっちかにしてよ」


「うるさい! そもそもお前が一人でこんな遅くぶらつくからだろって……どうした?」


「え? なにが?」


「だって、お前……泣いてるぞ?」


 言われて気づく。私は確かに泣いていた。


 彼はそんな私の様子を気にかけて立ち上がろうとするけど、腰が抜けているせいで、その場でもがいていた。

 それがまた可笑しくて、笑いながら彼の前にしゃがみ込み、胸に顔を埋める。


「ちょ、ひゃっ――」


 なんとも間抜けな声を出していたけど、無視した。

 今は、こうしたかった。


「ありがとう……お兄ちゃん」


 なんかバタバタして落ち着かない様子だったけど、その言葉を聞いた瞬間、ピタリと動きを止めると、お兄ちゃんは私の頭に優しく手を置いた。


「これからは、早く家に帰ってこいよ」


「うん……」


 この出来事から、私はお兄ちゃんと呼ぶようになり、家族になった。

 そして、そう時間が経たないうちに、私はお兄ちゃん――若松智也くんに恋をした。

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