22義妹と計画する、特別な休日
美羽と放課後にカフェへ寄ったことで、意識が少しそれてたけど、今日の放課後は新入生歓迎祭の打ち合わせだ。
夜寝る前にそれを思い出して、気持ちが昂りまともに寝れなかった。
そんな気持ちを切り替えようと、早めに起きたのに、顔を洗って鏡を見ると、口角が勝手に上がっていた。
……やばい。完全に浮かれてる。
委員会の活動はきっと大変で忙しい毎日になると思う。それでも、柳瀬さんと過ごせる委員会の活動のことを考えると、心が勝手に弾む。
テーブルの上には、焼きたてのトーストと半分飲みかけのコーヒー。
いつもの朝のはずなのに、どこか空気がいつもより柔らかく感じた。
そんな調子でパンをかじっていたら、向かいに座る郷太さんが、新聞を折りたたんでこちらを見た。
「智也。今朝はえらくご機嫌だな?」
「え? そう見える?」
「ああ……悪いが、見てて気持ち悪いくらいだ」
「いや、それは酷すぎ!」
俺は両頬を両手でぐにぐに揉みながら、無理やり笑顔を整える。
浮かれている自覚はあるけど、他人から見て気持ち悪い顔を柳瀬さんの前でするわけにはいかない。
しっかり気を引き締めて気を付けよう。
ふと、テーブルの向こう側にある椅子が一つ空いていることに気づいた。
「あれ、そういえば母さんはもう仕事?」
「今気づいたのか? どれだけ惚けていたんだ。美香さんなら、来週中に仕事を終わらせるために、早めに出ているぞ」
「来週中に? 何かあるの?」
「うむ。今年のゴールデンウィークは俺と美香さんで旅行に行こうと思っていてな。結婚してから初めての遠出だ」
嬉しそうに真っ白の歯を見せながら笑う。
日焼けしたカカオナッツのような肌にそれは、より際立って輝いていた。
「え、旅行? 聞いてないんだけど!」
「今言ったからな」
「それ報告じゃなくて、ただの宣言だから!」
軽口を叩きながら、郷太さんはコーヒーを啜る。
そのタイミングで、軽い足音と共に声が飛んできた。
「私は聞いてたよー」
制服姿の美羽が現れ、トーストをくわえながら俺の隣に腰を下ろす。
「なら、教えてくれよ」
「忘れてた、てへ?」
ぺろっと舌を出して笑う美羽。
いや、絶対わざとだろこれ。
普通ならいらっとするところだけど、美少女の美羽がすると、かわいさが勝ってしまう。
「すまんな、お前たちに相談もせずに決めて。というより、相談するのを忘れていた」
郷太さんは悪びれもなく、豪快に笑った。
見た目は全然似てないけど、やっぱり血の繋がった親子だこの二人……。
「いいよ。俺たちもう子どもじゃないし。俺も美羽も自分のことくらいできるから」
美羽と家族になってからは、家事をすることが減った。
だけど、郷太さんと母さんが結婚するまでは、仕事で遅くなる母さんの代わりに、家事をしていたから、生活には困らない。
「俺たちのことは気にせず、二人でゆっくり楽しんできなよ」
「そうか、そう言ってもらえると助かる!
お前たちも好きな場所に行っていいぞ? 必要ならお金を出してやるからな」
元々美羽と買い物に行こうと約束をしていたのもあるし、せっかくなら少し遠出するのもいいかもしれない。そう思っていると。
「お兄ちゃん! じゃあ、せっかくだし新幹線乗って“ザ・アウトレット“に行こうよ!」
ぱっと顔を輝かせる美羽。どうやら同じことを考えていたらしい。
ザ・アウトレットは――隣の県にある、めちゃくちゃ広いショッピングモールだ。
元は遊園地だった場所をそのまま再開発したらしく、敷地の端から端まで歩くだけでも軽く小一時間はかかる。
休日になると、家族連れやカップルで溢れ返る人気スポットだ。
隣の県とはいえ、新幹線に乗ればあっという間。
朝早くに出発すれば、日帰りでも十分に楽しめる距離だ。
“ちょっとした遠出”をするには、これ以上ないくらいちょうどいい。
普段の街から少し離れるだけで、空気の匂いも、風の温度も、少し違って感じる。
それだけで、その日が特別になる気がした。
美羽はスプーンを握ったまま、きらきらと目を輝かせて期待の眼差しで見つめてくる。
「そうだな行ってみるか。今日の夜に詳しい予定を決めるか?」
「うん! 忙しいかもだけど、できるだけ早く帰ってきてね!」
美羽は機嫌よく背筋を伸ばし、ぱくっとトーストを頬張る。
その笑顔に釣られて、俺もつい口元が緩んだ。
思い出してみると、家族とどこか遠くへ出掛けたのはいつ以来だろうか?
そう考えると、今から待ち遠しくなってきた。
今まで忘れていたその感じを、思い出させてくれた美羽が愛おしくて、自然と手が美羽の頭に触れる。
「……お兄ちゃん?」
こちらを見てきょとんと首をかしげる。
「楽しい休みにしような」
微笑みながらそう言葉をかける。
「うん! 今から楽しみだよ!」
その笑顔に、胸の奥がくすぐったくなる。
俺の妹は世界で一番かわいい妹かもしれない。




