20兄の胸に芽生えたそれは恋?
「ねぇ、お兄ちゃん……」
「ん? なんだ?」
夕飯を済ませてソファーでくつろいでいると、美羽がどこか緊張した面持ちで声をかけてきた。
なにかを決意したような、ただならぬ雰囲気に、思わず俺は身構える。
「今度の休み、買い物に付き合ってよ」
けれど、美羽の口から出たのは、予想に反して“買い物に付き合ってほしい”という言葉だった。
「今度の休みって言ったら、ゴールデンウィークか……」
「一緒に行くの……嫌?」
今まで、美羽と一緒に出かけたことなんてほとんどなかった。
今日の放課後、一緒に寄り道したのだって初めてだ。
やっぱり、あの日、互いに気持ちを打ち明け合ってから何かが変わったのだろう。
美羽も、今までできなかった“兄妹の時間”を作ろうとしてくれているのかもしれない。
その気持ちが嬉しくて、俺は自然と笑顔になった。
「いや、そんなことない。一緒に行こう! 美羽と買い物に行くの、初めてだし楽しそうだ」
その瞬間、強ばっていた美羽の表情がパッと明るくなり、嬉しそうに頬を染める。
うん、やっぱり美羽にはこの笑顔が一番似合う。
「うん! そうと決まったら予定考えておかなくちゃ!」
「……なにも決めてなかったのに、買い物に行くつもりだったのか?」
「そうだよ? 目的がなかったら買い物に行っちゃダメ?」
「いや、別にダメじゃない。俺は基本的に目的がないと行かないタイプだから、ちょっと不思議でさ」
「よかった! じゃあ荷物持ちよろしくね?」
俺は自分の二の腕を軽く叩き、キリッとした顔で言う。
「陰キャオタクの力、舐めんなよ。そんなに持てないからな?」
「誇らしげに言うところじゃないから!」
美羽がクスクスと笑う。
初めての兄妹二人きりの休日ショッピング。胸の奥に、優しい温かさが広がっていった。
だけど、その時一度変に心臓が跳ねて、息が一瞬しずらくなった。
俺はそれに首を傾げる。
体調が悪いとかじゃない、その感覚は、最近どこかで味わった気がするけれど、思い出せない。
ただ不思議と、美羽から目が離せなかった。
※※※
あーもう、本当に恥ずかしかった……!
自分の部屋で、今日一日のことを思い出しながら、火照った顔を枕に埋める。
お兄ちゃんと怜奈が新入生歓迎祭の委員に立候補した瞬間は、本当に驚いた。
二人が授業中に手紙をやり取りしたり、私に隠れて家でこそこそメッセージを送り合っているのは知っている。
しかも、あんなに息ぴったりに同時に手を上げるなんて……絶対示し合わせたでしょ!
とにかく、お兄ちゃんと怜奈が二人で委員をやるなんてことにだけは、阻止したかったから私も「どうしよう、立候補しようかな」って迷っていた。
その時だった、今まで誰も立候補しなかったのに、男子たちまで次々と手を上げだして、余計に驚いた。
これで上手く、お兄ちゃんと怜奈が委員になるのだけは防げれば、なんて思ってたけど、そんな願いは一瞬で砕かれた。
怜奈の機転で、男子たちはあっさり手玉に取られ、結局二人が委員に決まってしまったのだ。
むむ……怜奈も、お兄ちゃんとの時間を作るためなら手段を選ばなくなってきてる!
だから、私ももう手段を選んでいられなかった。
お兄ちゃんが怜奈とデートした時と同じように、放課後デートで“嬉しさ”を上書きしようと思ったのだ。
家の外でお兄ちゃんと過ごすのは、正直少し不安だった。
学校で関わると恥ずかしくて、つい冷たくしちゃうから。
でも、学校の外なら少しは素直になれる気がした。
不安はあった、だけどそれ以上に“兄妹であること”がバレるかもしれないスリルもあって、ドキドキして楽しかった。
カフェから出た後も、ずっと楽しかった。
初めてのデートは怜奈に先を越されたけど、“制服デート”は私が初めてだよね?
制服姿で並んで帰る家までの道。
思えば、二人で横に並んで歩くなんて、今までなかったかもしれない。
家族になりたての頃、私はお兄ちゃんを拒絶していた。
そのせいで、よく知らないまま“家族”の時間が過ぎてしまったのが、少し寂しい。
でも、今日手を繋いだ瞬間、その寂しさが少しだけ埋まった気がした。
家族として過ごした時間は短い。私が心を開くのが遅かったのもあるけど、すぐに“家族”じゃなくて“一人の男の子”として好きになってしまったのも原因のひとつ。
でも今日、家の外でお兄ちゃんに甘えられたのが本当に嬉しかった。
またこんな風に一緒に出かけたい。
たまたま今日は、家にいる時みたいに素直に甘えられただけかもしれない。
また外に出たら、ツンツンした態度に戻るかもしれない。
けれど、このままじゃダメだ。
お兄ちゃんに“女の子”として見てもらうには、今までの日常を変えないといけない!
だから私は、勇気を振り絞って休日の買い物に誘った。
その時、お兄ちゃんが一瞬だけ目を見開いて固まったから、正直焦った。
怜奈という好きな子がいるのに、他の女の子と出かけるのは嫌だったかな……って。
けれど、お兄ちゃんはふっと笑って「一緒に行こう」って言ってくれた。
デートOK!? しかも「楽しみ」って言ってたよね!?
間違いない! お兄ちゃんの中で、私への気持ちも確実に大きくなってる!
怜奈との距離が縮んでるってことも、しっかり実感できた!
よーし、今度の休みはお兄ちゃんをドキッとさせるために、おしゃれ完璧に決めていかないと!




