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24話

 



「くそっ、見えない……」


 バレルが転落したとおぼしき地点まで辿り着き、崖の下を覗き込みましたが、底知れぬ暗闇に阻まれ、何ひとつ確認することはできませんでした。


 バレルの死体の有無はもちろん、崖の高さすら判別できません。吹きつける風はさらに勢いを増し、獣の遠吠えのような不気味な音を鳴らしています。


 崖の底から、死んだはずのバレルが手招きをしている――そんな錯覚に襲われ、背筋に冷たいものが走りました。


(慌てるな……慎重に)


 圭太は来た道を引き返します。


 いつまでも現場に留まるのは無意味であり、発見されるリスクを高めるだけです。足元には無数の石や木の根が転がっており、少しでも集中力を欠けば、あっという間に転倒しかねません。


 視線を巡らせても、村へ向かって走り去った男の姿はすでに闇に溶け、今どこにいるのかも分かりませんでした。


(大丈夫……こっちから見えないってことは、向こうからも見えないはずだ)


 そのとき、左足のつま先が何かを蹴り飛ばしました。


(ヤバ……!)


 注意していたはずなのに、足元への意識がわずかに逸れていたようです。自分の失敗に苛立ちつつも、圭太は違和感に眉をひそめました。


(今の、なんだ?)


 石でも木の根でもありません。軽くて、中に空洞があるような乾いた音でした。目を凝らして音のした方を探すと、それはすぐに見つかりました。


 象牙でできた、手のひらサイズの小箱。


 表面には、気が遠くなるほど緻密な彫刻が施されており、深い森の中に佇む一頭の鹿が、静かにこちらを見つめている様が彫り出されています。


 その優雅で曲線的な装飾は、かつて美術の教科書で見たロココ様式を彷彿とさせました。


 驚くべきは、その「白さ」です。


 光を拒絶するような真夜中にあって、その箱だけが、ぼんやりと淡い光を帯びているかのように浮かび上がっていました。


(……綺麗だ)


 目を奪われるように指先でなぞると、象牙特有の滑らかさと、彫刻の細かな凹凸が肌に伝わります。


(いや、今はそれどころじゃない)


 圭太は顔を上げ、周囲を警戒します。


 ――しかし、その手に白い箱がしっかりと握られていました。



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