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(第十章 同窓会の意外な展開)

期待していた同窓会だったのだが、ほとんど見覚えのない人間ばかりで、共通の話題もなくつまらなかった。

楽しみにしていた小林との再会も、太って昔の面影もない彼女を見ると、近くに行く気にもなれなかった。彼女は結局結婚もしないで、親の資産と事業を受け継ぎ、女社長になったらしい。彼女の周りにはビジネスの匂いがしていて、経営者たちが群がって談笑していた。

普通のサラリーマンだった自分の出番はないと思い、近くにいた女性とありきたりの社交辞令で時間を潰していた。あんなに心躍らせ期待していただけに、その失望で誰とも積極的に話す気にはなれなかった。みんなお腹が出ていたり、頭は禿げていて誰かわからなかった。

しかも、東京生活が長かったせいか、関西弁のイントネーションにも違和感を感じてしまう。言葉が独特の親近感を醸し出すものなのだが、東京弁になっている自分には異空間にいるような違和感しかない。みんな結婚し、子供のこととか孫のことで話が弾む。独身の自分には皆との共通の話題が無かった。仕事もしていない。これと言った欲もない。何に対しても興味がない。久しぶりに、こんなに沢山の人と会って、どうしたら良いのか?どんな話題をしたら良いのか?居場所のない、自分を知る人さえいないこの会場ではやっぱり、事なかれ主義の慎吾には孤独だった。口元には作り笑いをしていたが誰とも話したくなかった。

「松村じゃないか」と言って近づいてくる恰幅のいい男。どこかで見たことがあるような気がしたが、誰なのかわからない。「藤井輝夫だよ」と言われても思い出さない。「同じテニス部だった」と言われて、思い出してビックリした。高校時代の彼は女の子にもモテたし、男前だった。なのに、お相撲さんかと思う位太っていたし、黒縁のメガネをかけていて、あの頃の面影はどこにもなかった。でも、相変わらずの女好きで、周囲の女性たちに愛想を振りまいていた。彼は不動産業をしていて、親の家を持て余している友人からその物件を買い取りマンションにしたり、古民家をリノベーションしていた。後継ぎもいるようで、自慢の孫が可愛くて仕方ないようだった。どの話題にもついていけない。

会話は繋がらないので、席を外した。他のメンバーの中に入ってみても、病気のことや介護のこと、年金や国への不平話などなど。ネガティブな話ばかりで、気が滅入る。

帰ろうかと思って皆の輪から離れたら、「松村君じゃない?」可愛らしい女性がワイングラスを差し出して言った。そのグラスを受け取り「ごめん、誰だか分からない。名前を聞いてもいいかな?」女性は笑って「川口美奈子。覚えてる?」明らかに覚えていないという顔をしていると彼女は笑って言った。

「誰もわからないのよ。あの頃、太っていたから」

「そうなんだ。じゃあ、ヒントくれる?」

「フォーリーブスだった」と言う。

「まさか」と。そう、中学生の時、不細工な女の子にはフォーリーブスと言うあだ名をつけて、男たちは彼女たちを廊下で見つけると大声で「フォーリーブスだ」と騒ぎ逃げる。怒って追いかけて来る女の子もいたし、逃げ出す女の子もいた。学校に来なくなった女子もいた。フォーリーブスと呼んでいたが、本名を覚えていない。

男は残酷な生き物だ。綺麗な女の子の名前は憶えているが、その他の女の子の記憶はあまりない。

「松村君にバレンタインのチョコをあげたことあるけど、覚えてないよね。私のチョコを嫌がらずに笑顔で受け取ってくれたの、うれしかったわ。」

「あぁ」と思い出した。フォーリーブスからチョコをもらったと友人たちに随分ひやかされた覚えがある。あの時、随分太っていたあの子が?目の前にいる華奢な感じの可愛らしい女性とは、どうしても重ならなかった。

「私、エステのサロンを経営しているの。どうやっても痩せることが出来なくて、このままだと40歳までは生きられないとまで言われていたのをリンパエステで救ってもらったのよ。だから、私のように太って馬鹿にされている女性を助けてあげたくてエステの資格を取ったワケ。私も、痩せたおかげで結婚も出来たし、今はナイスボディ。見違えたでしょう?」

「うん。綺麗になったね。ここにいる同窓生みんなわからないでしょ?」

と言うと、嬉しそうに笑って頷いた。洋服もセンスがあって、よく似合っている。色白で目が大きくて可愛い。太っていただけで、ノーマーク。女は化けると言うが60歳になって、この若さ。エステ恐るべし。

高校時代高嶺の花だった小林は太って見る影もないが、名も覚えていない、太って醜かった女の子が素敵な女性になって目の前にいる。何だか不思議な気がした。同時に見た目で踊らされる男の情けない性に苦笑するしかない。

「あの時、チョコ受け取ってくれて、とってもうれしかったの。松村君はいつもからかわれて虐められていた私をかばってくれていたから」

と言って目を細めて昔を懐かしむように笑った。そうだったかな?覚えていないが、誰にせよ虐めたり、身体的な欠点を笑う奴らは許せなかった。変な正義感があって、つい口を出してしまう性分だったような気がする。そういえば、チョコをもらって当分クラスの男子からからかわれ、黒板に相合傘で名前を書かれたことがあったっけ。それが彼女だったかどうかは記憶にない。

「松村君がいなかったら、登校拒否になっていたと思う。会えたらお礼を言いたかったから、今日は勇気を出して声をかけちゃった」

と、顔を赤らめ微笑する。

それから、ずっと彼女と話をしていた。今はシングルマザーで子供が2人いるが、まだ結婚もしないで同居していること。エステの仕事が楽しくて、何しろ綺麗でいなければ仕事にならないので、自分投資をしていること。

自分にかまわず、見た目を気にせず生きていた頃は皆から疎まれ邪険にされていたが、痩せて綺麗になったら周囲が一変したこと。35歳の時には、たくさんの男性から求婚されたこと。その中の一番男前でお金持ちと結婚して、エステサロンの経営に資金を出資してもらい、順風満帆で2人の子供ができたが、所帯じみてきたら浮気されて、慰謝料をいっぱいもらって別れたとか。

子供たちも、お金に困ったら父親を頼っているみたいで、同居していると言ってもあまり家にいない。長男は何をしているのかよくわからないが、外国にいることが多い。長女もキャリアウーマンとかで、東京に月の半分は行っているので、たまに実家に帰って来るだけ。独身でいるようなものだと。でも、男はこりごり。自由に女友達と遊んで、頼まれた時だけエステをする方が気楽でいいとか。

結婚は遅かったけれど、子供がすぐ出来たので皆に追いついた感じだと。子供もいない、結婚もしたことがない慎吾にはわからない退屈な話だったが、彼女が自分に今でも好意を持っていることがわかったので、会話は楽しかった。

2次会を断ってホテルに戻ろうとしたら、川口が追ってきた。

「もう少し近くのバーで話さない?」と。

するとそこへ、小林がやって来て

「松村君でしょ?全然変わらないから、すぐにわかったけど、なかなかみんなに囲まれて話をしたいのに行けなかったから。ちょっと、この後飲みに行かない?」

と言って2人の間に分け入って来た。

「じゃあ、3人で行こうか?」

こういう時のまとめ方に慎吾は昔からソツがない。2人の女性はけん制しながらも、お互いに名刺交換し、小林もエステで川口がこんなに痩せて綺麗になっているのに驚いて、話を聞きたがって、3人で飲みに行くことになった。

両手に花か?話をしているうちに、容姿が気にならなくなって、昔の小林に寄せていた恋心が彷彿と思い出された。

川口は自分に、自分は小林に思いを秘めていた懐かしい高校時代の思い出が3人の距離を縮めて、酔いも手伝って和気あいあい。ただ、小林は何かビジネスの話があったようで、「明日、会社に来て欲しい」と言って名刺を渡され別れた。

川口ともラインや電話番号の交換をせがまれ、「関西に来た時は、また飲みに行こう」と約束した。

六十歳は、今までの生き方が見た目に大きな格差を生んでいるかのようだった。大幅におじさんおばさんになっている人が多かった。髪の毛も真っ白だったり、禿げ上がったり、太って見る影もなかったり。

反面、川口のように若々しく色気さえ感じさせる年齢不詳の女性がいたり。いや、そんな女性は川口だけだったが。昔とあまり変わらない慎吾も、希少ではあった。独身で何も背負わず、気楽にプラプラしているせいかも知れない。

女性も豊かな所に嫁に行った人しか来ていないが、旦那の悪口を言っていても自慢が入っていて、どこか誇らしげで元気がいい。男性も仕事に成功した者しか出席していないので、慎吾は「来るんじゃなかった」と後悔もした。

何も語ることがない。今は特に。改めて、自分は何十年も何をしてきたのだろう?と空虚な気分になる。

住んでいた街も変わってしまって、自分を知る人もいない。当たり前だ。幼い頃にお世話になった方々も、生きていたとしても80歳は越えている。みんな状況も変わり、見知らぬ人々が商店街を歩いている。

この地を棄てたのは自分だ。今までだって、帰ろうとも思ったことがなかった。たとえ自分を知っている老人に会ったとしても話すことなど何もない。東京に帰ったって、自分を待ってくれている人もいない。

たとえ一人孤独死していたとしても、誰も悲しまない。自分が本当に存在しているのかさえ疑わしい。いずれ、病気になって、あるいはどこか不自由になったら、お国の世話になるのだろうか?

未来に対して考えないようにしてきた。目の前にあることを精一杯頑張るしかないと思って生きて来た。無性に人恋しい。何故なら、買いたてのスマートフォンには数人の知り合いの名前しかないし、ラインをやり合う相手もいない。

小林と川口の名前が、届いたラインに誇らしげにスマートフォンに意味を持たせてくれた。まだ慣れないラインで今日の再会を感謝した。


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