表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花と散るならこの場所で〜王都に散った花は、再び咲く〜  作者: ヒトガタナリ
第一章 幼児期
6/29

第五話 家族という名の他人

――今日も、セラフィマとして生きる。


胸の奥でそう呟いてから、俺はメイド長リリアの後を歩いた。


扉が閉まるガチャリという音と俺とリリアの足音が屋敷の中を響く。

小鳥の囀りが耳に刺さるほど澄んでいた。


廊下の窓から差し込む光が、真っ直ぐ俺だけを追ってくる。


温かいはずなのに、逃げ場がない。


壁にも、絨毯にも、天井の梁にも、太陽の紋章。

どこを見ても、同じ形。

見られている気がする。


「本日もご機嫌うるわしく存じます、第三王女殿下」


食堂前には侍女たちが整列していた。

一糸乱れぬ角度で、深く、深く頭を下げる。


俺の元勤務先みたいなことすんなよ。思い出すだろ。

ほんとこれだけは慣れない。



俺の――私の名前が呼ばれる。


「ソルヴァティア帝国第三王女、セラフィマ・ヴァン・ソルヴァティア殿下」


その響きは、未だに自分のものに思えない。

まるで舞台の上で与えられた役名だ。


一歳の式典で初めてその名を聞いた時も、そうだったっけ?

周囲は「神の子」だの「天罰の執行人」だのと俺を祭り上げ、膝をついて平伏した。

俺だけが、ただ静かに立っていた。


納得したわけではない。

理解しただけだ。


この紋章も、この光も、全部俺に向いているのだと。


「ごきげんうるわしゅう? きょうもみなさまおそろいで!」


舌足らずな声を出す。


頬をゆるめ、目を細める。

三歳児らしく、何も知らぬ顔を作る。


一瞬だけ。


列の端の侍女が、ほんのわずかに顔を上げた。

視線が合う。


すぐに伏せられる。

……震えている?


「第三王女殿下、本日は朝食会でございます。ご家族様との団欒を楽しんでくださいませ」

疲弊しきって目の下にクマのある、前世の俺のような侍女が俺に連絡する。

なにが家族の団欒だ。

まるで役員との会食に行くような気持ちでダイニングへと向かう。


―――


テーブルには既に実母、兄の母、兄二人が座っていた。

だが、上座には近づいてはいけないような禍々しいオーラが漂っている

足が一瞬止まる。何故だかはわからない。


母が目が死につつニコニコとこっちを見てくる。

実に不快だ。


下の兄のジークが俺に話しかける。

「フィーマ!元気してた?この頃会えてなかったから心配してたんだ!」


「にいさま!わたしもあいたかったのです!」

舌足らずで頭も足りていないような話し方で俺は兄とと会話という動作をする。

こういうのが一番ウケがいいんだよ。

兄二人も俺にキュンキュンだろう?


しかし、上の兄のユリウスが私たちへ注意をする。

「ジーク、フィーマ。父様が来るまでは話しておいて結構だが父様が到着次第静かに頼む」


「――わかりました。兄様……」

堅物。

真面目。

この国の教科書からそのまま出てきたみたいな男。

まさに忠犬ハチ公だ。

いや、軍用犬と言った方が正解か。


やはりこの家族の中で唯一体温を感じられるのはジークなんだよな。

何にも染まっていない。彼は、まだ。だからこそ――。


それに比べユリウスは、染まりきってはいないもののどこか父に似たものがある。

あの競売人のような目だ。常に俺たちを監視している。

だがときどき、聖女のような優しい目をしている。

この二面性が逆に怖く感じる。


あれ?家族ってなんだっけ。お母さん。


―――


兄たちと母が急に立ち上がった。

その瞬間。


キィィー。

という音と共にこの国の国王。"私"の父の登場である。


「おはようございます。アルベルト」

母が挨拶をするが父は全く反応も興味も示さない。

それよりも俺とユーリの方を見る。


「セラフィマ、ユリウス最近は何を学んだ?」

尋問のような、面接のような質問が俺を突いた。

声は低い。だがわずかに掠れている。

……緊張してる?


あれ?なんでジークには聞かないんだ?



ユリウスが緊張の糸をピンと張りながら答える。


「父様、最近は地政学と魔法基礎学を学んでおります。ぜひ私の魔法を――」

父が聞きたかった答えではないのか俺の方へ目線が移った。


父が聞きたい『答え』とはなんなんだろうか?

兄は、政治と実技両方共に語った。それでも父は聞きたかった答えではない。

父が欲しがっている答えとは“成果”じゃない。


“確信”だ。

俺はそう思う。


「わたしはまほうをめいどちょうリリアにおしえてもらいました!それで、それで…あっ、しゃべりすぎました!ごめんなさい!」


嬉々として"私"は語る。

何も知らずに生きる3歳のように親に知って欲しい。褒めて欲しい。そんな年相応な態度で答えた。

これがクライアントの聞きたかった答えであって欲しい。


「よい。続けろセラフィマ」


「はい!おとうしゃま、それでピカってするやつとみずがててくるやつとえーと、それとそれとあっ、そうだ!たいようさんとおいかけっこできるまほうをおぼえました!」

父に、自己PRのようにできることを伝えて可愛がってもらおうとする娘を演じた。

これでどうか。


父の目が、見開いた。


そして笑った。


……初めて見た。


その笑顔は嬉しそう、というより。

安心した顔だった。


「セラフィマ、よくやった。お前は偉いな」

あの父が俺を――いや、私を褒めた。

恐らく本心ではないだろう。だが、褒められること自体は嫌いな人は少ないだろう。それも嫌いではない。

むしろ嬉しい。


本心と、演技のハーフアンドハーフの笑顔をした。

それと裏腹にユリウスの視線は冷めきっていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ