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花と散るならこの場所で〜王都に散った花は、再び咲く〜  作者: ヒトガタナリ
第一章 幼児期
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第三話 あの子はいいな

――あぁ、しくじった。詰みだ。


俺は、平凡は嫌だがこんな歳から英雄になるのも望んではいない。

信頼できる仲間を作って、冒険をして、たまに悪い奴と相対する。

そんな、かつてテレビやゲームで憧れた『英雄譚』を自分の手で作りたいだけなのだ。


そして、ドロドロの権力の争いの中で生きるのも嫌だ。

そんなのは前世の満員電車と一緒に置いてきたはずだ。なんで二度目の人生、それも赤子の頃から、また派閥争いの道具として生きなきゃならないんだ。



―――



「――○××△○△」

俺の頬に触れ、俺に笑いかけてくる。

だが、目は全くと言っていいほど笑っていない。むしろ家畜を狙う狼のようだ。

俺は、動きたいのに動けない。

くそっ、本能的にか手足が硬直している。


逃げたい。

逃げたい。


そう思いつつ笑うしかなかった。


あぁ、あの新しい剥製の展示会もとい生誕祭の後からというものあのおぞましい男が俺に擦り寄ってくる。

アヒルの子じゃないんだぞ。気持ち悪い。

俺は、乳母さんと遊ぶだけで俺はいいんだ。

生後半年の赤子のために何をしているのか。仮にも貴族ならば領地の管理運営をしっかりしてほしいものだ。



「○××、○××△○――」

あの男の部下らしき者が男を連れて行った。実にありがたい。

それと入れ替わるように俺の

――もとい、この体の乳母さんがきてくれた。


あーもう最高。


このままずっと抱かれていたい。

乳母さんの抱擁は相変わらず最高だが、時折、彼女の手がわずかに震えているのに気づいてしまう。

生誕祭の日、俺が放ったあの『熱』を見てからだ。

彼女にとって、俺はもう()()()()()()()ではなく、いつ爆発するか分からない()()()()に見えているのかもしれない。

彼女の指が、ほんの少しだけ距離を測るように動いた。 


……悲しいな。


まぁ、話せるようになれば説明しよう。

それはそうと今気づいたのだが、扉が少し開いている。そこには俺と同じ綺麗な金髪の少年が覗いていた。


あっ、気づかれた。


てちてちという効果音に相応しい歩き方でこちらへ歩いてくる。

何か乳母さんと話している。

どうせ触ってもいいか?とか抱っこさせて?とかだろう。

俺的には乳母さんの温かみのある胸が一番なのだが、抱かれてやってもこいつなら構わない。

まぁ、害はないだろう。


生誕祭の時はビビってたみたいだが、どうやら恐怖より好奇心が勝ったらしい。


……おいおい、力加減が危なっかしいぞ。

前世で親戚の赤ん坊を抱いた時の俺を思い出す。

だけど、不思議と嫌な気はしなかった。

あの(おおかみ)の冷たい万力のような指に比べれば、この未熟な温かさは、まだ信じられる気がする。



―――



さて俺は、この先どうするかを考えていかなければならないだろうな。

俺は、兄の胸の中で考える。


思いつく案としては三つある。

一つ目は、亡命してその地で何か成し遂げる。魔法でも、剣術でも極めて、何か一つのことを成し遂げる。


二つ目は、この世界を俺が支配する。まぁ一応良いとこの娘さんみたいだし、なれんことはないだろう。


三つ目は、幼少期は静かに過ごして大きくなったらどこかに旅に出る。

うん。三つ目だな。

――静かに、生き延びる。


まずはそれからだ。

第一俺は、命を狙われてもおかしくない。あんだけのことをやってしまったんだしょうがない。


自分で我が身を守れない今、乳母さんに守ってもらうしかない。屋敷という名のオフィスにおいて、人事権は全てあの(おおかみ)が握っている。

つまり、ここにいるメイドも衛兵も、全員がスパイの可能性があるってことだ。


唯一の味方は乳母さんだけ

……と言いたいが、彼女だっていつ『組織の圧力』に屈するか分からない。

父の手の内の者は全員敵だと思おう。


うん。そうしよう。


自分を信じて生き延びよう。


兄の腕は、まだ細い。抱き方もぎこちない。

けれど、落とすまいとする力だけは強い。

俺の耳元で、鼓動が鳴っている。


少し速い。

怖いのか。

それとも――。


兄は、俺の顔を覗き込む。

まるで何かを確かめるように。

その視線は、無垢だ。

ただ、まっすぐで、曇りがない。

だが、兄は同じ匂いを感じる。全く染まっていない真っ白な頭の中のはずなのに。

俺の袖を握る手に力がこもる。

羨望か。

焦りか。

それとも、もっと形にならない何かか。


その目は、まだ澄んでいる。

だからこそ、危うい。

兄は俺を乳母に返して小さい背中を向け、扉へ向かう。

だが、その道中。


「あの子はいいな―――。」


振り向かず、密かにそう言った気がする。


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