第二話 太陽の生まれ変わり
突然だが俺が生まれてから半年が過ぎ、俺の生誕祭が開かれている。
高い天井。赤い絨毯。
金色の燭台の光がやけに眩しい。
耳が痛くなるような、ファンファーレを吹き鳴らす音楽隊。
それに合わせて踊り狂う踊り子。
それを見て拍手を送る貴族。
広間の奥には家畜のように押し込まれた民衆が詰め込まれている。
玉座らしきものには父らしき男が座り、その横には金髪アラサーでお馴染みの母。反対側には兄らしき男が二人。
そして玉座の真後ろに一段ほど上がってカゴの中に鎮座するのが俺だ。
転生してから初めて母以外の家族を見た。
――いや、母も今日まで見ていなかった。
俺が生まれてから普段の生活に乳母さんとそれ以外のメイド以外人の気配は全くなかった。
前世の常識からするとネグレクトと呼ばれる類のものであるが、この世界いや、貴族社会では普通のことのようだ。
父は俺のことなど目にも入れず、上の兄を値踏みをするように横目で見ている。初めて会ったのだから俺のことも見てほしいものだが…。
一方母は俺に対して微笑むが、目の奥は全くといっていいほど笑ってなどいない。
あの目を俺は知っている。
都合をつけるために笑顔をする。
まさに俺が前世で多用しまくっていた営業スマイルそのものだ。『早く終われ。』『今日のノルマはなんだっけ?』そんな気持ちがこもっているあの目だ。
俺もかつて、理不尽な要求を突きつけるクライアントの前で、あんな風に心を死なせて口角だけを上げていた。
上の兄は、背筋を鉄の棒のように伸ばし、俺を一度も見ない。
――まるで剥製のようだ。人ではないそんな気がするほどに、背筋を伸ばしている。
下の兄は、無邪気に俺に向かって小さく手を振っている。これが今の俺にとっての唯一の救いと言っても良い。
まだ権力争いの毒に当てられていないのか、それとも単にアホなのか。俺に向けられたその小さな手は、この凍りついた広間で唯一の『体温』を感じさせた。
俺が主役の祭りのはずなのに物理的にも、心情からしても一番遠い。
まるで新しい剥製のお披露目会のようだ。
そして、俺だけこの場にはいないみたいだ。
ファンファーレが止まった。
「――〇×△!!」
父が立ち上がり、俺を初めて見ながら何かを叫んだ。
広間にいた全員が、一斉に父を見る。
その視線に込められているのは、祝福ではない。
『この赤ん坊は、我が家に利益をもたらす道具か否か』
そんな、品評会の牛を見るような冷ややかな期待だ。
俺は、笑った。俺の持つ処世術ではこれが正解だ。
赤子は笑っていれば全て正解なのだろう。
俺が笑った瞬間だった。
俺の背後が照らされた。まるで太陽がもう一つそこに生まれたように。
これは決して比喩などではない。
この世界には電気などない。だからスポットライトを使ったという可能性もない。
そして誰かが魔法を使ったというわけでもなさそうだ。
――いや、俺の中の『熱』が外に漏れ出てしまったようだ。
「…ッ!?」
周りの大人が目を見開く。
あの無邪気な下の兄ですら俺を人ではないなにかを見るように見てくる。
ある人は嫌悪という名の武器を持ち俺を見る。
ある人は俺を神の類だと思い、泣きながら称賛している。
だが、俺の家族たちだけは上の二つではない嫉妬と人々が呼ぶ厄介な色を帯びた目で俺を見てくる。
俺はこの空気を知ってる。前世で、良かれと思ってやった仕事の効率化が、上司のメンツを丸潰しにしてしまった時のあの『居たたまれなさ』だ。俺はただ、笑顔で場を和ませようとしただけなのに……。
赤子が操って良いわけがないほどの魔法を使ってしまったようだ。
優しい閃光と形容すべきか、はたまた、おどろおどろしい温かみと形容すべきか。
それが会場を包んでいた。
――静寂。
それを打ち払うように父が立ち上がる。
他の貴族たちが恐怖で後ずさる中、父だけは獲物を見つけた猛獣のような足取りで、一段高い俺のカゴへと近づいてくる。
その目は、娘への愛でも、奇跡への畏怖でもない。
砂漠で油田を掘り当てた強欲な投資家のような、ぎらついた『独占欲』に濡れていた。
父の大きな手が、俺の小さな頬を包み込む。
その手は温かい血が通っているはずなのに、俺には万力のように冷たく、逃げ場のない鉄格子のように感じられた。
俺は震えた。
とにかく生物的に恐怖を感じた。
俺は母を見た。母も俺を見る。
母は『私と同じで利用され、使い捨てられる』とでも言わんばかりの目をしている。
とにかく今の俺は『詰み』のようだ。
父から過剰なまでのタスクを課され利用され、母からは哀れみの目で見られ、兄弟からは、憎悪と嫉妬の目を向けられる。
そんな未来が見えた。




