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花と散るならこの場所で〜王都に散った花は、再び咲く〜  作者: ヒトガタナリ
第一章 幼児期
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第一話 初めまして異世界

――瞑っていたはずの目が開く。

視界は曇っていてよく見えないが、俺に何か話しかけられているらしい。


「○××、△△○×」


あれ、これ死後の世界ってやつ?いやいや日本語で話してくだせぇよ。

天使ならわかる言語で話してほしいものだ。


だが現実は、そんな淡い幻想ではなかった。


目がクリアに見えてきた。周りにはいかにも金持ちそうな西洋風の金髪の少女が一人。

いや、見た目は若いがおそらくアラサーだ。アラサーだった俺にはよーくわかる。あの小皺はアラサーのそれだ。


そんなことはどうでもいい。

それと大勢の助産師のようなあるいはメイドのような女性がいた。 


俺はそう観察していた刹那、無意識に産声を上げていた。


ここが天界ではないとすぐにわかった。

この体には『熱』があった。

元々の病に侵された冷たい体ではなく、内側から爆発しそうなほどの……そう、活力というか元気というかというエネルギーが、産声とともに溢れ出していたからだ。

今はそれよりも、『まだ生きられる』という実感で胸がいっぱいだ。 


またやり直せる。

――何か偉大な、逸脱した平凡ではない、村人Aではない人生を。



―――



生まれてから2日ほど経った。なんか違和感がすごい。

嫌な予感がしてふと下を見る。


……俺のジュニアがついていない。

前世であんなに可愛がっていたジュニアが行方不明だ。

どうやら俺は女の子として生まれてきたらしい。

アラサー的には喜ぶべき展開だが政略結婚とか生理痛とか結構しんどそうだからな。


まぁ、どこの時代も国もそんなもんか。

これは受け入れるしかないな。



―――



「○××△○○」

突然ですが、前世の母さん俺は転生してから一週間ほど経過しました。そちらはどうお過ごしですか?

今、意味のわからない言語で話しかけられています。明らかに日本語ではありません。はたまた、英語でもありません。聞いたことのあるような、でも絶対無いようなそんな言葉が我が身に降り注がれています。

まぁ、話せないし、分からないし、聞き取れないんでなんでもいいんですけど笑。



茶番はさておきどうやら俺は貴族に生まれたらしい。貴族というのは非常に嬉しいことだが、同時に元住んでいた日本では無いことがわかってしまった…。

また大きくなったら旅でもしようか。



それと前に住んでいた時代より、明らかにここは昔だとわかった。

装飾品が異常なほどついた剣や、紋章入りの甲冑。

そして、未だに松明だし、電気なんてここにきてから見たことない。赤子ながらに不便だと思う。  

 

あと、俺は母ではなく、乳母さんが毎日面倒を見てくれている。不満はないしむしろかわいいと思う。

肉付きもよく、スラっと背も高い。

そして何より顔がいい。 俺が知るこの世界の中では一二を争うレベルだ。


それと生みの親は俺を生んでくれた時以来見ていない。まぁ、忙しいんだろう。そのうち来てくれるさ。知らんけど。



―――



俺はこの世界に来てから一、二ヶ月ほど経ったと思う。

変わったことは…そうだ、この世界に来てから初めて鏡を見た。

俺の顔はクマまみれのいつものおっさん顔ではなく、天使のような顔をしていた。

俺はいつのまにか赤子らしからぬ顔でニマニマと笑ってしまっていた。


問題はそこじゃない。

俺の周りだけ空気が歪んでいるように見えた。


『俺って平凡じゃなく、才能あるんじゃないのか?』

そう思いつつも、赤子として乳母さんの乳を吸う毎日である。小さいうちしかこんなことはできないからな。

今のうちだ。


「○××!」

おっと乳母さんが俺を呼んでいる。この乳母はやはり俺専属らしい。

そんなことよりも、いつになったらここの言語を教えてくれるのだろうか?


「○××、△○○×」

乳母さんがそう言った。

いや、そう唱えた瞬間この部屋の明かりが全てついた。


え?本当に魔法ってあったの?


――いや、それしかない。

明らかに電気技術はこの世界にはないだろう。

本来なら、この明かりが灯る原理を考察すべきなんだろう。

ルクスの計算とか、エネルギー保存の法則とか……。


だが、今の俺は思考停止という名の贅沢を貪っている。

38年間、正解ばかりを求めて脳をすり減らしてきたんだ。今はただ、『うわ、光った、すげぇ!』という赤子並みの

……いや、赤子そのものの純粋な驚きに浸っていたい。

ていうか嬉ションかましそうなくらいテンションが上がっている。

まぁ、赤子だからしょうがないよね。



魔法を極めたら、今度こそ平凡のベルトコンベアから降りて、逸脱した何者かになれるのだろうか?


いや、なってやるんだ。今回こそは。


そう思いつつ俺は乳母さんに抱かれていた。

あぁ、幸せだ。幸せな匂いだ。

満員電車の吐きそうな体臭とか人の目を気にするストレスとか今はそんなもの一切ない。


――おっと、泣きそうになってしまった。

今はやめておこう。これ以上乳母さんに迷惑はかけられんからな。

乳母さんが夜通し俺をあやして、疲れ切った顔をしているのを見た。

前世の俺なら、黙って他人の仕事の尻拭いをしたところだが、今の俺は赤ん坊。

せいぜい大人しく寝てあげることくらいしかできない。 

――いや、もしかして魔法でこの人の疲れを癒やせたりするのか?

そう考えた瞬間、体内の『熱』が疼いた気がした。

そう考えている間に俺は眠りこけてしまった。













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