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花と散るならこの場所で〜王都に散った花は、再び咲く〜  作者: ヒトガタナリ
第二章 五歳・スラム編
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第十六話 暴走と逃走

俺は"私"に聞く。

「やりすぎたってなんなんですか?怒っているってなんなんですか!」


彼女は優しく――仏のように答える。

「まぁ、戻ればわかりますよ。大丈夫です。なぜなら貴方は私なのだから」


そして、少しだけ首を傾げる。


「ひとつだけ教えておきましょう」


「人を殺すなら、一気にです。それだけ」

うふふ、と彼女は笑った。


その笑顔は、優しかった。

まるで母親のように。


だが

――どこか狂っていた。


「そろそろ時間ですね」


「また、会う日まで。さようなら」


視界が揺れる。

地面が割れる。

空が崩れる。


あの静かな世界が、音もなく壊れていく。


「……っ!」

次の瞬間。


俺は現実に引き戻された。



―――



床が砕けていた。

バキッ、と音を立てて石畳がひび割れる。

空気が震えている。


「フィーマ様!」

リリアの声だ。

俺はようやく気づいた。


――俺の魔力が、溢れている。


体の奥から、抑えきれない何かが噴き出していた。

鎖が、音もなく溶け落ちる。

床に広がる魔力が、波のように揺れる。

空気が重い。

誰も動けない。

――動けるはずがない。


「な、何なんだこれは」

兵士が一人立ちすくんでいる。


その時。


魔法で点けられた火は、パチンッ、と消えた。

続けて、壁に埋め込まれていた魔道具が次々と弾ける。


「ば、馬鹿な」

魔術師らしき男が恐怖と尊敬の意が籠ったような声で言う。


「魔術式が……消えている……」


床に刻まれていた魔法陣が、音もなく崩れていく。

まるで、最初から存在していなかったかのように。


……え?

いやいやいや。

ちょっと待て。


俺、何もしてないよな?


ただ目を覚ましただけだ。

ちょっと魔力が出ただけだ。

……いや、「ちょっと」じゃないか。


床は割れている。

魔法は消えている。

……いや、普通にやばくないかこれ。

俺、本当に捕まるんじゃないのか?


冷静に考えろ。

俺は5歳で、しかも王族だ。

何かあったら揉み消すだろう。


よし!大丈夫だ。


そうこう考えているうちにリリアが叫ぶ。

「フィーマ様!」


そのままリリアはゆっくりと近づいてくる。


一歩。


また一歩。


空気が弾ける。

バチッ、と音が鳴る。


兵士が叫ぶ。


「近づくな!!」

「魔力暴走だ!!」

「死ぬぞ!!」

兵士たちは後ずさる。

それが正しい判断だと俺もそう思う。


俺も今の自分、ちょっと怖い。

というか普通に怖い。

起きたら急にこんなんだし。


体の奥から何かが溢れている。

止め方が分からない。

蛇口の壊れた水道みたいだ。

いや、むしろダム決壊か?



「フィーマ様」


そして――

俺の手を掴んだ。


バチッ!!!


空気が弾けた。

魔力が暴れる。


だが、リリアは離さない。

ただ静かに言う。


「落ち着いてください」


「フィーマ様」

その声が、妙にはっきり聞こえた。


……あれ?


さっきまで溢れていた魔力が、少しずつ静まっていく。

床に広がっていた魔力が、ゆっくりと消えていく。

風のない水面のように。


静寂に落ちる。

さっきまで震えていた空気が、嘘のように止まっていた。

俺はゆっくり息を吐く。


……止まった?


恐る恐る手を見る。

さっきまで揺れていた魔力は、もう見えない。


「……大丈夫ですか」

リリアが静かに言う。


「あ、はい……多分」

声が少し震えた。


というか普通に怖かった。

いきなり自分が爆弾になった気分だ。


会場の奥で誰かが叫んだ。

「き、騎士団を呼べ!!」


「帝級魔術師の反乱だ!!」


「捕まえろ!!」


あ、やっぱそうなるよね。

俺でもそう言う。


リリアが小さく息を吐く。

そして会場を見回した。


その目は、さっきまでの戦闘の目だ。


「……長居はできませんね」

そう言って、指を軽く振る。


――斬。


次の瞬間。

会場の壁が、無音で裂けた。

石壁が真っ二つに割れる。

夜風が吹き込んだ。


え?壁ってこんな簡単に切れるの?


リリアが俺を見る。

「失礼します」


その言葉の意味を理解する前に。

俺の体がふわりと浮いた。


「え、ちょ――」


次の瞬間。


俺たちは夜の街へと飛び出していた。



―――



只今、俺はメイドさんにお姫様抱っこで夜の街を駆けられています。

さて、今日は事が起こり過ぎで整理しなければ頭がパンクしてしまいます。


一つ目。

俺は弱い。雑魚そうな相手にもボコボコにされる。


二つ目。

サキという女の子に会った。その子はスラム出身。

俺より先に貴族にオークションで買われていた。


三つ目。

リリアは帝級魔術師だった。ただのかわいいメイドさんだと思っていたのに強くて、人も殺せる。


四つ目。

俺ではないセラフィマに会った。狂気的で美しく、全て知っているようだった。


……こんなもんか。


俺はリリアを見た。

月夜に照らされたリリアの横顔は、静かだった。

さっきまで人を斬っていたとは思えない。

むしろ

――どこか幻想的で、妖艶だった。


ふと、思う。

この人は、俺をどこへ連れていくんだろう。


王宮か。

逃亡か。


それとも――

俺の知らない世界へか。



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