第十三話 ゴミ箱の商品
「おい、嬢ちゃんたち元気して……」
扉が開き、見張りの男が部屋に入ってきた。
そして次の瞬間、男の言葉が止まる。
「……は?」
男の視線の先。
そこにあるはずの鉄格子が――消えていた。
「――ちょ、なんでお前ら出てきてんの」
男は尋ねたが、誰も答えない。
数秒の沈黙。
次の瞬間、男の口元が歪んだ。
「あー……そういう感じか。じゃーしゃーないか」
男は指を鳴らしながら言う。
「嬢ちゃんたち今戻ったら痛い事しねぇから…な?」
そう言いつつ、男は腰の剣に手を置いた。
動きに一切の無駄がない。
素人ではない。
少なくとも、そこらのゴロツキよりは遥かに訓練されている。
「申し訳ございませんが、檻の中なぞ戻る気など毛頭ございません!」
俺は強く言ってやった。
大丈夫だ。
俺たちは『商品』だ。
……少なくとも、簡単には殺されないはずだ。
「ふっ、そうかよっ」
男は剣を抜いてこちらへ走ってくる。
――避けられん。
俺は残り少ない魔力を掻き集め、防御魔法を展開する。
次の瞬間――
ガンッッ!!!
凄まじい衝撃が腕を通して体に伝わった。
「おっ、嬢ちゃん強いじゃん。もしかしてなんかやってた?」
男は嘲笑しつつも聞いてきた。
男は剣を軽く振った。
ヒュン、と空気を裂く音。
軽い素振りのはずなのに、
刃の軌道が全く見えない。
俺は一歩下がった。
距離は数歩。
子供の足では逃げ切れない距離だ。
男が笑う。
「いい目してるな」
次の瞬間だった。
床を蹴る音。
――速い。
剣が横薙ぎに振られる。
俺は反射的に防御魔法を展開した。
ガァン!!
凄まじい衝撃が腕を通して全身に伝わった。
膝が勝手に折れそうになる。
「っ……!」
息が詰まる。
一発一発が重たすぎるだろ
魔力の膜は防げている。
だが衝撃までは殺せない。
子供の体が耐えきれない。
男が少し驚いた顔をする。
「へぇ」
剣を引きながら言った。
「今の防ぐか普通」
次の瞬間。
二撃目。
今度は縦。
ガキン!!
防御魔法がきしむ。
まずいな。
魔力の消費が早すぎる。
男が笑った。
「魔法使いか」
三撃目。
――バキッ。
防御が砕けた。
衝撃がそのまま体に叩き込まれる。
床が近づいた。
肺の空気が全部吐き出された。
「が……っ」
息が出来ない。
視界が揺れる。
足音。
男がゆっくり近づいてくる。
「惜しかったな」
腹に重い蹴りが入る。
体が浮いた。
壁に叩きつけられる。
鈍い音。
意識が白くなる。
「セラフィマ!」
サキの声が聞こえた。
サキが俺の前に立つ。
小さな背中が震えている。
だが逃げない。
「……やめろ」
絶え絶えな声で俺は言った。
男はサキを見下ろす。
「勇敢だな」
そして――
ドンッ。
鈍い音。
サキの声にならない吃音が響く。
サキの体が壁に叩きつけられた。
崩れ落ちる。
「さて」
男がしゃがみ込む。
俺の顔を覗き込む。
「商品が勝手に歩き回るなよ」
腹にもう一度蹴り。
視界が暗くなる。
「でもまぁ」
男は立ち上がった。
「これ以上壊すと怒られるからな」
その時だった。
扉が開く。
「何やってんだお前」
別の男が入ってくる。
「商品に傷つけんなって言ったろ」
「ちょっと暴れただけだ」
新しく来た男が手をかざす。
淡い光が広がる。
治癒魔術。ただ、精度は悪い。
だが、折れていた肋骨の痛みが消える。
裂けていた皮膚が閉じる。
「ほら、直った」
男は面倒そうに言った。
「明日競りだ」
「顔は綺麗にしとけ」
意識が遠のく。
最後に聞こえたのは――
「最近はガキでも高く売れるからな」
――俺の意識は完全に落ちた。




