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花と散るならこの場所で〜王都に散った花は、再び咲く〜  作者: ヒトガタナリ
第二章 五歳・スラム編
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第十二話 ゴミ箱の中

俺はいつのまにか走り出していた。

見ず知らずの子供を助けるために。


「やめなさい!」

俺が男たちを牽制するように言う。


だが男たちは、

「へっ、肉付きも良くてこいつの方がいいんじゃねぇか?」


「ああ、そうだな。これで美味いメシが食えそうだぜ」

下卑た笑みを浮かべながら相談していた。


『――しまった。』

俺は反射的に魔力が指先に集まる。

だが、ここで魔術を使えば子供の細い腕など消し炭の如くなってしまうだろう。

使えない。


「リリア!魔法は使わないでください!」

俺はリリアを止めた。

リリアの魔法を使えばこの状況は解決するだろうが、俺以外の三人は少なくとも死ぬだろう。

大惨事だ。それだけは避けたい。


「……っ」

リリアの手に魔力が集まるが、止まる。


「おい、お前。黙れ」

男が俺の腕を掴む。もう片方の男は俺の口を布切れで塞ぐ。

薬品の嫌な匂いが鼻をつんざく。


「やめ……て」

俺は子供らしく、懇願してみた。

だが、やめてはくれないだろう。

意識が遠のいてきた。


意識が遠のく中、俺は冷徹に現状を分析する。

誘拐犯の目的は「商品」だ。ならば、すぐには殺されない。

リリアとデズモンドなら、必ず俺を追える。


「いい子だ、お嬢ちゃん。大人しくしてれば痛い目は見せねぇよ」

俺の体は乱暴に袋へ押し込まれた。

鼻に残るのは薬品と腐臭。


視界が真っ暗になる。


――ゴミ箱の中の、さらに奥。


俺の「社会科見学」は、どうやらここからが本番らしい。



―――



俺はジメジメとした暗い部屋の中で目が覚めた。


「ここはどこなんだ」


「ここは"控え室"だよ」

隣から声が聞こえてくる。

独り言のつもりで言ったため意表を突かれた。

暗くてよく見えないが10歳前後の女児だろう。


「控え室って…随分と内装にこだわりのないようで…」

俺は痛む頭を押さえながら、皮肉混じりに答えた。


暗闇に目が慣れてくると、そこがただの「部屋」ではなく、頑丈な鉄格子で仕切られた「檻」であることが分かった。前世で見たどんなブラック企業のタコ部屋よりも劣悪な環境だ。


「……変な喋り方。あんた、いいとこの子?」

声の主が少しだけ身を乗り出した。

ボロボロの布を纏った少女だ。汚れで顔はよく見えないが、瞳だけがやけに鋭く光っている。


「セラフィマです。以後お見知り置きを。先輩の名前は?」

最低限の礼儀で会釈をした。

幼子がこんな喋り方をしていれば不気味だろうが、今は「無知な子供」を演じる余裕もない。

まぁ、事が終われば有耶無耶になるだろう。


「私はサキ。ここに来たってことは、あんたも『商品』だよ。明日には競りに出されて、どっかの貴族の家で一生こき使われるか、それとも――」

サキは言葉を切った。その先にある「最悪」を口にするのを躊躇った。


「……運が良ければ働き口だよ。」


「ま、食えるだけまだマシだよ」

サキは乾いた笑みを浮かべた。


「サキさん、ここには他に何人くらいいるのですか?」


「……何よ、その落ち着き。全部で十人くらいかな。みんな、あいつらに拾われたり、親に売られたりした奴らだよ」

俺は檻の隅々に視線を走らせる。

暗がりに丸まっている小さな影。啜り泣く声。

この檻には、デズモンドの言っていた"この国のゴミ箱"の底が凝縮されていた。



―――



さて、本日訪問させていただいたお宅はここ。全く見当もつかないジメジメとした地下室です。匠の他の人に見せないと言う配慮が感じられます。

いやーそれにしても小汚さと実用性に特化したいいお家ですね!

周りには少女達。前世だったらウハウハでしたが現在は女児。何も思う事はございません。

少女の話によると食事までついているようです。独身男性からするととても嬉しいですね!

労働基準法も人権も、この世界には実装されていないようですね。この国を管理する我が一族ながらそこは悔やまれます。



いかんいかん現実から逃げていた。

さて、どうしようかリリア達が助けに来るのを待つのが定石だが…


俺は自分の小さな手のひらを見つめた。

魔力は十分に残っている。

いける。


あの「全自動迎撃」は、周囲を巻き込む範囲攻撃だから使えない。だが、今の俺には精密な魔力制御がある。一点に集中させ、鉄格子の分子結合をピンポイントで焼き切るくらいは造作もない。


ただ、俺一人だけが逃げ出せば、在庫管理に厳しいあいつらは、穴を埋めるためにまた外の子供を狩りに行くだろう。


俺は小さくため息をつき、サキに問いかけた。

「サキさん。ここの見張りの人数と、武器の有無を教えていただけますか?」



「え……? あんた、何言ってるの?」

サキは困惑している。


「言っとくけど無理だよ。あたしも試したけどさ、この檻…たぶん吸魔鉱石だ」


「……吸魔鉱石、ですか」

俺は改めて、目の前の鉄格子を凝視した。

魔力を吸収し、術の発動を阻害する特殊な鉱石だ。


「無理だよ。魔法使いの大人だって、これに閉じ込められたらおしまいなんだから」

サキが諦めを含んだ声で言う。


だが、俺はそっと鉄格子に手を触れた。

確かに、魔力が吸い取られる感覚がある。

だが――それだけだ。


吸い取るって事は言い換えれば、『容量がある』と言う事だ。

それに、こいつは『吸収』はしても『無効化』はしていない。

なら、こいつをパンクさせればいい事だ。


「サキさん。見張りが来たら言ってください」


「は?何を―――」

サキは困惑していたがすぐにわかったようで首を縦に振った。


俺はそれをみて目を閉じた。

体内の魔力を、針の先ほどの一点に凝縮させる。


俺の小さな指先が触れている箇所が、キィィィィンと耳鳴りのような高音を立て始めた。

黒ずんでいた金属が、一瞬で白熱化し、眩い光を放つ。


「な、何……!? まぶしっ!」

サキが腕で顔を覆う。



――パキィッ!!



乾いた音と共に、吸魔鉱石で作られたはずの鉄格子が、まるであめ細工のようにボロボロと崩れ落ちた。

吸収の限界を超えた魔力が、鉱石の分子構造を内側から焼き切ったのだ。


「……ふぅ。よかった。」

俺は安堵の声を漏らした。


「――嘘でしょ。あんた、なんであれで魔力切れにならないの……」


サキは続けた。


「――あたしは天才だと思ってた。5歳で初めて魔法を使えて、魔力切れにもほぼなった事ない。のに、あなたの方が優れてる。あんた何者なの……」

サキは震えた声で尋ねる。


「何者、と言われましても……」

俺は崩れ落ちた鉄格子の残骸を跨ぎ、外へと踏み出した。

まさか、前世で限られた予算と人員でデスマーチを乗り切ってきた経験がこんなところで役に立つとは。


「さて、サキさん。感傷に浸っている時間はありません。先を急ぎましょう」


その時だった。


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