表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花と散るならこの場所で〜王都に散った花は、再び咲く〜  作者: ヒトガタナリ
第二章 五歳・スラム編
12/29

第十一話 ゴミ箱の覚悟

路地を歩き続けた。

曲がり角をいくつも抜け、気がつけばどこを歩いているのかも分からない。

一歩踏み締めるたびに、闇に触れていくような感覚だった。


俺はリリアを見た。


「フィーマ様、どうなさいましたか?」

リリアが俺の目線を感じとり、声を発した。


「正直言って私は、世の中を知ってるふりして知らなすぎていました。いや、王宮の中がこの国の全てだと思ってしまっていました。憎まれるべきことだと私は思います」


俺は感情に任せ続ける。

「私はまだ幼いです。しかし、王族です。やるべきことはたくさんあります。この街を変えたいです。みんなが幸せに、何もないと思えるようなそんな街に……」

本心だ。計算など全くしていない。


リリアは少しだけ目を伏せた。


「……フィーマ様」

その声はいつもと変わらず静かだった。


「その言葉を、この街の人々は何度も聞いてきました」

俺は思わず足を止めた。


リリアは続ける。

「貴族も、役人も、皆同じことを言うのです。

“この国を良くする”と」


風が吹く。

どこかで板戸が軋む音がした。


「ですが――」


リリアは顔を上げた。


「実際に変わったことは、ほとんどありません」

言葉は穏やかだった。

だが、重かった。


その時だった。


「はっ」

短い笑い声が聞こえた。


デズモンドだ。


男は壁に寄りかかりながら、こちらを見ている。

「王女様よ」


少しだけ目を細めた。


「いいこと言うじゃねぇか」

だが次の瞬間、その表情はすぐに消えた。


「でもな」

デズモンドはゆっくりと歩き出す。


「この街を変えるなんて言葉はよ」

路地の奥を顎で示した。


「命を懸ける覚悟がある奴しか言っちゃいけねぇ」

その言葉に、俺は黙った。

デズモンドの声から、さっきまでの軽さは消えていた。


命。


その言葉はあまりにも重かった。


だが。


それでも――。


「……あります」


自分でも驚くほど静かな声だった。


デズモンドが振り返る。

「覚悟があるなら」


俺は続けた。

「私は、この街から目を逸らしません」


しばらく沈黙が続いた。


やがてデズモンドは、小さく笑った。


「……そうかよ」


そして背を向ける。


「なら」

路地の奥へ歩きながら言った。


「もっと見ていけ」


振り返らないまま続ける。


「この街の現実を」


その声は、どこか試すようだった。


「王女様」


隣を歩くリリアは動じていない。俺だけが震えていた。




―――




俺たちは深淵へ、深淵へとさらに歩を進める。


さっきまでは若い男もかろうじていたが、歩を進めるにつれて老人、障害者などの働けない者ばかりになってきた。


……なるほど。

この場所は、王都の裏側。


言ってしまえば、この街――

いや、この国のゴミ箱だ。


「お前はこれを見てどう思う?」


「悲しいか?切ないか?それともどうも思わないか?」

「なぁ?王女様よぉ」

デズモンドはそう俺に問う。


「……分かりません」

俺は正直に答えた。


悲しい。

そう思う。


だが――


それ以上に、理解できない。

いや、理解できないとはなんなのだろうか?

自分は怠惰だ。鈍感だ。そして強欲だ。

俺が俺であった時から――そうだ。


だからこそ――


この光景を前にして、どう感情を抱けばいいのか分からない。


「そうかい」

デズモンドはその一言だけだった。



―――



「お腹減った。食べ物欲しい……」

どこからともなく声が聞こえてきた。


子供だ。


痩せ細った腕で、壊れた木箱を漁っている。

食べ物を探しているのだろう。


「……」

俺が足を止めると、デズモンドが小さく舌打ちした。


「見るな」


「助けても意味ねぇ」

そう言いながらも、デズモンドの目は路地の奥を睨んでいた。


次の瞬間。


路地の奥から、二人の男が現れた。

薄汚れた外套。

そして――

子供を見る目。

それは、


獲物を見る目だった。


「デズモンドさん。なぜ助けないのです!」

 

「助けてもしょうがねえ。競りに掛けられるまでは飯が食える。逆にここで助けたら飯が食えねぇ。いずれ死ぬ。だから攫われた方が生き永らえるんだよ……」

俺は理解した。


"俺"がここでは異端なのだと。


だが、無理だ。あんな小さな子供を放っておくだなんて。

どうせ、ロリコンのエロ貴族どもに金に変えられるだけだ。

自由などはないだろう。

俺はいつのまにか走り出してしまっていた。


「フィーマ様!!!」

リリアが叫ぶ。だが、俺は止まらない。


男たちが、ゆっくりとこちらを振り向いた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ