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夜に灯を、魔法に祈りを  作者: 佐藤飴子
第一章 花に露を
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昼下がり、突風

 そよそよと揺れる草を眺めながら小道を歩く。先ほどまで建物の中にいたからか、より強く感じる欠伸の気配を何とかやり過ごす。

「校舎の中を歩くよりこの道の方が近道なんだ。雨の日は使えないけどね」

 隣を見ると自分より背の低い先輩は目を細めながら後輩である自分に色々と教えてくれているようだ。建物の中では緑色に見えた髪も、午後の太陽の黄色い光に照らされると朗らかな萌黄色になって、こちらもそよそよと風に吹かれている。初めて会った時は少し面倒な先輩かと構えていたが、どうやら初対面の印象は当てにならないようだ。

「君が迷っていたところは本当に端っこの方でね、あのあたりは薬学の授業で使うことが多いんだ」

 へえ、と返事になるのかわからないような返事をする。にしても、いい天気だなあ。風が強くなってきたけど。視界を邪魔する赤い髪を耳に掛け直そう、としたその時。


「しゃがんで!!!」


 瞬間、頭上で何かがぶつかって砕けたような音がした。グレゴールは目と鼻の先にある土から顔をあげた。意外と反射反応ってできるんだな。近くの木に勢いよくぶつかったものと思われる何かの残骸が散らばっていた。何が起こった?


「ごめんなさい!怪我はなかったかい!?」

 遠くから声がした。そちらを見てみると黒髪の少女が帽子を片手に大急ぎでこちらに向かっていた。あれは、見覚えがある。ジルフ寮の、名前は確か。


「ドロシー!!何だい今のは!」

「ぎゃーっ!グリム先輩だ、ごめんなさい!!

 ドロシーは顔を青くしながらグリムに謝り続けている。地面に散らばっている何かは、木の破片やネジが使われているのはわかるが、原型が全く想像できそうにない。よほどの速さでこちらに飛んできたのだろう。グレゴールは破片を一つ手にとる。現状の有り様に気づいたドロシーはさらに顔を真っ青にさせた。

「ああー!!!ボクのグライダーがあ!」

「グライダー?」

 何だそれは。南の鳥のようにそのまま聞き返したグレゴールにドロシーは先ほどとは打って変わって得意そうな顔で説明しだした。

「魔力を使わないで空を飛ぶ滑空機のことさ!すごいだろう、あの一番高い木の上のてっぺんからここまで飛んだんだ!魔法を使わずに!!」

 ドロシーは学び舎裏の林の遠くの木を指差した。どおりで木っ端微塵になるわけだ。グレゴールは納得しつつも、ある点が気になった。

「なんで魔法を使わないんだ?便利なのに」

 ドロシーは良くぞ聞いてくれましたと言わんばかりに顔を輝かせた。腰に手を当て、先ほどとは反対の空を指差した。

「それはだねっ、遠く旅をするためさ!海の向こうに!!」

 この破片が海の向こうに?なぜ海の外?国内じゃダメなのか?広い島なのに。小さな子どもでも見ないような夢に次々と疑問が湧いてくる。

「船でも渡れないような海を超えてどうするんだ?何があるのかわからないのに」

「わかってないなあ!何があるかわからないからこそ行くのさ!ロマンだよロマン」

 元気だなあ。魔力に変わる新たな力だとか、少ない資源で動く仕組みだとか息巻いて説明するドロシーを見て思う。初めて見た時は何も考えてなさそうだと思い込んでいたが、うん、初対面の印象は当てにならないな。


「こほん。楽しそうなのはいいけれど、ドロシー?君、今日追試だって言ってなかったかい?」

 遊んでいる子犬のように楽しげだったドロシーの顔がグリムの言葉でみるみるうちに青ざめていく。あんなにぱくぱく動いていた口が引き攣っている。指先がわなわなと震えている。

「う、わ、そうだ、あ。うわ。間に合う?いや、今、うん、何時だ……」

「残念だけど、放課後になってからだいぶ経ってるよ」

「なんで知ってたならもっと早く言ってくれないのさ!!!」

「自分のことだろう?むしろなぜ忘れていたんだい」

 グリム先輩の意地悪ー!!と叫びながらドロシーは大急ぎで道を走って行った。小さくなっていく彼女の背中に町を駆け抜けていく小さなつむじ風を重ねながらグレゴールは髪を耳に掛け直した。

 おれの知らないことばかり喋るから勝手に頭がいいのかと思っていた。これから印象をあてにするのはやめよう。

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