外出、助け舟
「まさか、お前さんたちも賢者サマかい!?いやあこれは運がいい!ちょっと来てくれ、ほら、この枯れかけの苗木どもを何とかしてほしいんだよ」
「これは……かなり危ない状態ですが、何とかできるかもしれません」
セーラとしつこいおっさんが苗木のそばで何か話しているところを、呆気に取られてみているとアリが手を肩に置いてきた。
「グレゴール、大丈夫か?かなり粘られてみたいだな」
彼の耳飾りが揺れる音がする。どうやら二人は困りごとに直面していた後輩を助けてくれたようだ。
「あ、ありがとう、助かった……」
「たまにいるんだよ、こういう”困った”人。ま、あとは俺とセーラに任せてくれ」
そう言ってアリはセーラの隣に向かった。本当に助かった、あと少しで手が出るところだった。
解放されたといってそのままこの場を離れるわけにもいかず、話の邪魔にならないよう二人の近くに立っていることにした。おじさんはいきなり現れた明らかに頼りになりそうなしっかりとした若者二人にことの経緯を話しているようだった。
二人は嫌な顔せず話に耳を傾け、それならばあの肥料が必要だとか、これから使う魔法に必要なものの用意だとかを話し合っていた。どうして見ただけでわかるのだろうか。そう疑問に思っているうちに苗木はすっかり、まではいかないものの、先ほどよりかは明らかに元気になっていた。__あまりにも早すぎる。おれが迫られてた時間よりも短いのでは無いだろうか。
二人って専門は植物とかじゃなかったよな?確かアリは占星術でセーラは史学じゃなかったか?
五年生ともなると専門外のことも詳しくなれるのか、それとも真の天才しか高学年まで残れないのか__
__やっぱり、おれなんかじゃ……
そうグレゴールが俯いている横で、苗木の持ち主は大層ご機嫌になっていた。
「いやあありがとうよ心優しい賢者サマ方よ!これで薬に必要な葉を育てることができる!」
「いえ、私たちはできることをしたまでです。あとは日に三度、他の植物よりも多めに水をやってください」
「わかった!ホントに感謝してるさ!いやあ、本当さすが賢者サマ!」
問題は解決した。苗木は生気を取り戻し、その主人は感謝した。これで終わりかと思った、が。二人は一歩も去ろうとしない。何かあったのかと思ったが、顔色も何も変わってないのでわからない。この場に四人もいるのに誰も話さないから変に静かになった。
おじさんもさすがに場の異変に気付いたのか、段々笑顔が陰ってきた。
「あ、あの、賢者サマ。何か……あるのかい?」
「いやあ?無いと言ったら無いし……あると言ったらあるかなあ。な、セーラ」
「まあ、私たちが苗木に関してこれ以上お伝えすることはありません。ありませんが……」
また沈黙が場を包む。二人は目の前の男性から目を離さない。見つめられた彼はあまりの気まずさに変に作ったような笑顔になってしまっていた。
あまりにも静かだ。静かすぎて遠くの音がはっきりと聞こえる。遊ぶ子どもの声と商売をする露天の声。あ、遠くで風の吹く音が聞こえる、風見鶏の回る音。その音々を遮ったのは申し訳なさそうに発せられたセーラの声だった。
「私たちの立場から申し上げるのは大変心苦しいのですが……今回の私たちの働きに応じた報酬をいただけませんか」
「そういう法令があること、知ってるだろ?もらえるまで俺たちここから動けないんだ。な、おじさん。」
目を丸くした男性は、口をはくはくさせながら行き場の無い手を忙しなく閉じたり開いたりしていた。
最近下された法令らしい。要約すると”働いた分は必ず見合った報酬を受け取れ、特に学院関係の者はしっかり受け取れ”__そんな決まりがあったのか。知らなかった。世の中には知らないことの方が圧倒的に多い、改めて実感した。
「悪いが……今は手持ちが無くってな……」
「それでは困ります。賢者を志し国のためにと日々学ぶ者として、陛下によって下された法令を無視することはできません」
「いやあそう言われても……ほら、俺たちお前さんらのために高い税金払ってるんだし……今回は多めにみてくねえかな、ってな……ははは……」
「残念だが、税金とこの法令は関係ないんだ。別に有金全部よこせって言ってるわけじゃないんだしさ。時間ももったいないし、”ちょちょッと”払ってくれよ」
二人は物腰こそ穏やかではあるが、絶対に動かないという固い意志を感じる。てこでも動きそうにないぞこれ。男性の方を見ると、本当にお金が無いのか顔を真っ青にしていた。たぶん、この人も法令のこと知らなかったんだろうな。
「い、いったい、俺はどれぐらいお前さんらに払えばいいんだ……?」
「そうですね……法令に基づいて考えられる報酬と先ほど私たちの手持ちから使った材料の価値を考慮すると……」
そうセーラが提示した値段は、男性の顔からさらに生気を奪っていった。先ほどまでの苗木とそっくりだ。そんなに金が惜しい状況なのか……というか結構貰えるんだな、腕のいい職人が作った頑丈な靴を一足買ってもお釣りが来るくらいだ。
「おじさん、悪いことは言わないからさ。ここで払ってもらわないと俺たちもおじさんも困るんだ」
そう言って二人はどんどん青白くなっていくおじさんをじりじりと追い詰めていく……
かわいそうに、とは感じたものの、先ほどまで彼の態度を思い出すともっとやったれという気持ちにもなる。あんなにしつこく必死に頼んできたくせに、無賃でやらせる気だったのか。全く。
しなしなとくたびれていくおじさんから目を逸らし、元気になった苗木をそっと撫でる。
ま、対価無くして成果得られず、ってことだな。うん。




