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夜に灯を、魔法に祈りを  作者: 佐藤飴子
第一章 花に露を
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外出、枯れそうな苗

 外出が嫌いだ。


 __いや、自室から一歩も出ずにそこで朝から晩まで過ごしたいわけではない。

 正確に言うと、街に出るのが好きではない。さらに正確に言うと、おれじゃ解決できないことを頼まれることが苦手だ。

 おれはまだ学院に通い出してから三年すら経ってないし、あと成績は下から数えた方が早いんだ。一応動物言語を専門にするつもりだが、会話を試みたところで犬には下に見られ猫には無視される。わかっただろう、いくらおれが世の麒麟児が集うと言われる(別に自分が天才だと思ってるわけではない、決して)唯一の国営学院で日々学んでいると言ってもできることには限りがあるんだ。

 だから、折れてしまった骨を今すぐ元通りにしてほしいとか、前の地震で崩れてしまった小屋を今すぐ建て直してほしいとか言われても困る。だってできないから。

 そう伝えているにも関わらず、どうかと頼まれるとさらに困る。できないって言ってるだろ。


 そんな目に遭うのはいつも決まって街へ出かけた時だ。この街の人々は、近くの学院で学ぶ賢者の卵である証__右の太ももで結ばれた赤や青、または黄、緑といった長いリボンのことだ__を目ざとく見つけては己の頼み事困り事を何とかしてもらおうとする。

 国に認められた天才(おれは別にそうじゃない)ならば、自分たちの悩みなど一瞬で解決できると思っているのだ。何度も言っているがそんなわけないだろう。おれは読み書きと四則演算と基本の魔法に毛が生えた程度のことしかできない。


 ここまで長々と述べたが、おれはそんなことになるのがそこそこ、いやかなり、結構、嫌いというか苦手だ。


「そこを何とか頼むよ〜!あの『賢者の学び舎』で勉強しているんだろう!?な!?」


 つまり今の状況のことである。



「ですから……そう言われてもできないことはできないんです、今にも枯れそうな苗木たちを何とかしてと言われても……」

「いやそんな大層なことしなくていいんだよ、お前さんの魔法でちょちょッと元気にしてくれるだけでいいからさあ、頼むよ〜!」


 その”ちょちょッと”ができないって言ってるだろう。

 グレゴールは相手に気づかれないように考えるふりをしてため息をついた。自身の太ももで存在を主張する鮮やかな赤いリボンが憎らしい。今にも外してしまいたいが、学院の規則のせいでそれが叶うことは永劫無い。グレゴールはまたため息をついた。


「ホント今すぐ枯れちまいそうだけどさ!賢者サマの魔法があれば何とかできるだろう!?飲み水をちょっとしか出せない俺たちと違ってさあ」

 そう言って目の前の男性は自身の後ろの苗木を指差した。本来であればこの春の季節には青々と葉を繁らせ、色とりどりの小さく甘い花を咲かせるであろう苗木は、全身から色が無くなり今にも折れそうなほど細い茎で何とか植物としての体裁を保っている。

 枯れかけというか、ほぼ枯れているじゃないか……ちゃんと水をやっていればこんなことにならなかっただろうに。


「そう言われても……そんな簡単じゃ無いんです、あとおれは賢者じゃ無いです」

 心の中で”まだ”と付け加える。いや別に卒業できるほど自分が天才だとは微塵も思っていない、決して。


「そんな冷たいこと言うなよお!な!?ちょっとだけ、ほんのちょっとだけでいいんだ。ちょっとだけお前さんの力を借りたいだけなんだよお」

 埒が明かない。段々腹立たしく思えてきた。

 ”ほんのちょっとだけ”と軽々しく言ってくれるが、そこに至るまでの長く困難な道のりをこの目の前の人は少しでも想像したことがあるのだろうか。少しでもあればそんなこと口が裂けても言えないはずだ。

 ですから、と少し語気を強めた時、急に後ろから声がした。


「こんにちは、おじさん。何か困ったことでも?」

「私たちで良ければ、話をお聞かせ願えませんか?」


 青色のリボンと、黄色のリボンが柔らかな風で揺れている。見上げると見知った顔。

 __アリとセーラだ。

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