熱
私に声をかけてきたのは一条くんだった。
だらしない顔をしていたのを見られていたと思うと少し恥ずかしくなる。
「前からかわいい子が歩いてくるなと思ったらやっぱりゆかちゃんだったよ」
そう一条くんは恥ずかしげもなく微笑みながら言った。
こんな普通の人なら言えないようなセリフをさらりと言えちゃうなんてさすが一条くんだ。女の子に慣れているんだろうな〜なんて感心してしまった。
自分があまりコミュニケーションが得意ではないからこんな風に異性とでも話せる一条くんはすごい。
もし自分が一条くんみたいだったらなんて思ったけれど、その様子を想像してみたらおかしくて笑ってしまう。
一条くんだからこそできる気遣いの仕方やコミュニケーションのとり方なんだなと改めて実感する。
「ゆかちゃん?まーた楽しそうにしちゃって」
「あ、つい...」
わたしはすっかり自分の世界に入ってしまっていた。
「それで?さっきはなんで楽しそうだったの?」
「さっきは家族から連絡がきてて嬉しかったの」
私はようやく一条くんの質問に答えた。
「へ〜いいね。例の弟くん?」
「ま、まぁね」
そういえば瞬と一条くんは同じ陸上部の先輩と後輩だ。
1度部活を見に行った時のことを思い出す。私に手を振っている一条くんを阻止する瞬の姿を。
瞬は一条くんに敵対視しているようだったけど、私的には2人は仲良くなれそうなところがあると思う。
瞬には一条くんみたいにぐいぐい来てくれる人が合うだろう。
「そういえば一条くんは何してたの?」
さっき部屋にいなかったから少し気になってたんだよね。私は思いきって聞いてみた。
すると一条くんは、にこっと微笑んで
「修学旅行の夜ならではのイベントだよ」
と自分の人差し指を口にあてながらいった。
私はその様子を見て一条くんが何をしていたのか察した。たぶん告白をされていたのだろう。
さすが一条くんだ。琴葉ちゃんもモテるって言ってたもんね。
「まぁそういうことだよ。ゆかちゃんはなかった?」
私がその答えをわかったのを見てそう聞いてきた。
「まさか、あるわけないよ。」
私に告白なんてイベントあるわけが無い。実際今日話したのも普段から話しかけてくれる人たちばかりだ。
恋したいと意気込んでしばらく経つけどあまり進めていないような気がしてくる...
いや、少しずつ男の子(主に聖くんと一条くん)と話せるようになってるし成長してるはず!たぶん。なんて自分を励まして情けない気持ちになる。
「ふーん。みんな勇気ないんだなー。じゃあ俺が告白しちゃおうかな」
「え!?」
「じょーだん、もう1回振られてるしね!さすがにゆかちゃん困らせることはしないよ」
びっくりした...。
冗談でもどきっとしちゃった。
でも1度一条くんに告白されたんだよね。初めての体験すぎてあの時は頭が真っ白になっていたけど自分の決断した答えは今でも正しいと思っている。
自分のわがままだけど友達として普通に接してくれる一条くんには本当に感謝しかない。
「まぁまだ諦めてないから、それだけは忘れないでよね」
真剣な表情でそう言いながら私の肩をぽんっと叩いて「じゃあおやすみ」と言って部屋に戻っていってしまった。
「え」
その場に取り残された私の心臓はどきどきとうるさく、全身に熱をまいたような感覚がはしった。




