ザキハの正体
一番街から二番街を抜ける間、通りの人々から聞こえるのは黄金の鳥の話ばかりだった。火の鳥に黄金の鳥が襲われた事、セカド州の領主は必死に守ったがどうしようもできなかった事、後に残ったのが黄金に輝く骨だった事、領主は屋敷をボロボロにされても誰も罰しなかった事… 全く、噂が早い。
「お披露目隊の人達にあれこれ話して、噂流させたのゴロナンさんでしょ」
ネオの問いかけにゴロナンは答えない。鼻を鳴らし、ふふふ…と笑っている。
表通りから外れ狭い路地裏へ入る。以前来た時と同じで全く人気がない。相変わらず暗いし、埃っぽい。
陰気な裏通りに佇む重そうな扉。そこは以前と違い、しっかりと閉まっていた。ゴロナンが戸に手をかけると、ダヒルは後ろから扉の中に向かってフッと風が吹いた気がした。
「これさぁ、何て書いてあんの?」
ダヒルは読めない字が書かれた看板を見上げて聞いた。ネオはダヒルを中に引き込んで素早く戸を閉める。
「〝選り好みする扉〟だよ」
建物の中はやはり暗かった。ほとんど暗闇だ。積み上がった本がそこかしこにあるもんだから、少しでも動けば当って崩してしまいそうで、何だか動くのが躊躇われた。
「ザキじぃ!居るろう?来ちゃったぞ!」
ゴロナンが呼びながら、壁のハンドルを回す。ギカギカと音がして、少しずつお互いの姿が見えてくる。
「そんな大声を出さんでも聞こえるわいッ。耳は良いんだッ」
本の闇の中からザキハがコツコツと現われた。眼光の鋭さは健在である。ギロリと睨まれて、ダヒルは思わず唾を飲んだ。あの帯…謎を解いたのだから、焦がしたことは帳消しになると、信じている。
「ザキハさん、遅くなりました。これのお陰で神殿まで辿り着きました」
薄暗い灯りの下、ネオはザキハから借りた腰帯を広げた。糸を解いた内側に浮かぶ、以前とは違う記号と文字。
「何と…これは… 隠された暗号か…ッ」
ザキハの手は震えていた。本に埋もれて解けなかった謎の答えが目の前にあるのだ。
「どうやって出した」
「『知りすぎた男』です、ザキハさん」
「…そうか…!王の出した謎、罪人…そして火あぶりというワケか… リブア族の伝承とオーキー国の教訓話… わしとしたことがそこに気付かなんだ」
それから、ネオは黄金の鳥の顛末について話した。ザキハの理解力は凄まじく、成る程と一言だけ返した。
「すみません、汚すなと言われたのに、大切な腰帯を焦がしてしまって…」
「そうせんと謎が解けなかったんだろうが。気にするな」
「あの黄鉄の鳥の骨は何だったのでしょう。『神が与えし戒めの鳥の骨』と神殿にはありましたが…」
「大昔の生き物の骨が石の様になって地面や山の中から出てくる事があると、前に小僧には言った事があったが、覚えておるか?」
「あ… 骨の石化…」
「骨の石化は条件がある。何でもかんでもなるわけではない。沼や池、川なんかの水辺で死んだ生き物の骨は、その上に砂や泥、土が積もる。長い年月をかけて地面や土の中の成分が骨に染み込み石化するのだ。
ここでだ、お前たちも知っておると思うが、土の中には多種多様な成分がある。テッキンコンの産業も地面から掘り起こしたもので作っとるだろう。その地面に多く含まれる成分に石化も関係するのだ。
黄鉄に溢れた場所で石化した鳥の骨は黄鉄が染み込んで出来上がったということだ。よほど運がいい鳥だな」
「リブア族は骨の石化のことなんて分からなかったから、黄金の鳥のことを忘れないように、神様が戒めとして与えた、と考えた訳ですか」
「だろうな。しかし…カグア山が黄金郷の神殿か… 山岳信仰は古の民族には珍しくないが、それも想定できんかったとは… 聖域の入り口はどうした」
「とりあえず、大きい石を被せて、オオヤマネコにもあの辺をしばらく縄張りにしてもらうよう頼んだけんどにゃあ… 閉め方が分からんかったがやき、仕方がないろう。ザキじぃがどうやって閉めたらいいか考えてや」
「知らなければ、簡単に見付かるような場所じゃあないとは思いますが」
「それにしても、聖域の中はすごかったにゃあ… 黄鉄に溢れてキラキラ、壁画も見事やったで。ザキじぃも見たかったやろう」
「見んでも、事実さえ分かればいい。記録を作るから詳しく図を描け。ほら、ちゃんと描けよ」
「えええ〜 もうしょうがないにゃあ…」
積まれた箱の中から、ザキハはくるくると棒に巻かれた紙を引っ張り出し、ゴロナンを引っ張って聖域について壁画や地図を描かせている。一方で自分は紐で閉じた紙束に凄まじい速さで文字を綴っている。
伝説の地を見なくていいと思う人なんているものか、とダヒルは思った。ザキハの足では、今回の旅は難しかっただろう。知りたいであろうに、残る他なかったのではないかと思うと、ダヒルは何となく申し訳ない気持ちになった。
だがそんな態度を取れば、お前も手伝えと言い付けられそうな気がしたので、ダヒルはそそとネオの側に寄った。




