6
「貴様らァァァ… 私のォ…黄金の鳥をう、奪いに来た…ぬ、ぬ盗人だなッ!ゆゆゆ許さんッ許さんッ!許サンゾォ!全員ッ縛リ首ッ!縛リ首ダァァッアアアァァァァッ!!」
領主の声はもう普通ではなかった。ガサガサに掠れ、金属に爪を立てたような高音と地響きのような低音がドロドロと混じり合ったような声だ。真っ直ぐ飛んでこない。地面を這うように近づく声だ。気味が悪い。ネオは呪詛のように纏わり付く領主の声を払い、一歩近づき跪く。
「領主様、私たちは通りすがりの旅人でございます」
「ウッ…ウゾオォォォォヴォッッッッッバアァァァッ!…ズッグアアァァァッ!!!!!」
口から泡を吹きながら言葉になっていない叫びを上げる領主を敬うように、ネオは頭を垂れたまま、懐に仕舞っておいた手袋を取り出し素早く身に付ける。
「珍しい物をご覧にいれます」
カァン……!
立ち上がったネオは力一杯、黄鉄にナイフを打つけた。無数の火花が散ると、空かさず手袋の刺繍を撫でた。
「パライア様、力を貸して…!」
ネオが撫でたのはパライアを表す模様。散った火花は瞬く間に大きく広がり、燃え盛る炎へと姿を変えると鳥の形になった。火の粉を振りまき、まるで生きているかのように力強く羽ばたくと、黄金の鳥に向かってそれは飛んだ。
「これがパライアの火…」
ダヒルの声が、後ろで聞こえた。
「何て綺麗なんだ…」
ネオも思った。何て綺麗なのだろう。子供の頃に聞いた『パライアの火』の火の鳥は、人を殺める恐ろしいものだと教えられてきた。今、目の前にある火の鳥は清々しい力と輝きに満ち、闇を払う赤い炎は神々しかった。
ギェアアアアアアアアアアアァアアァァ……!!
火の鳥を見た黄金の鳥は雄叫びを上げ飛び上がった。竦み上がる恐怖を植え付ける恐ろしい雄叫びが部屋を震わせる。ネオもダヒルもゴロナンも思わず耳を塞いだ。腹に力を入れ、足を踏ん張り、気を確かに持つよう集中した。それでも膝をついてしまいそうだった。
もう大分正気でなかった領主は、糸が切れた操り人形のようにベシャッと床に倒れる。気を失っただけだと信じたい。
黄金の鳥は逃げ惑う。火の鳥が、何故現れたのか理解できなかった。
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。
自分を縛り付けたアレは、居なくなったはずだ。目覚め、自由になった時、力を感じなかったのだから。
不愉快な山に近づく者は、虜にしてやった。煩わしい火を向けてきた者は、我に近づけぬよう位の高そうな者を虜にしてやった。この辺りで一番大きな城に住む者達を虜にしてやったのだ。我に近づけば虜にしてやった者達に葬られる筈だ。なのに何故、葬られずに火の鳥まで連れてきたのだ…!
アレは駄目だ。何故だ。ほんのこの前に向けてきた火は煩わしいと思うだけの力しかなかったのに。
黄金の鳥は必死に逃げた。捕まる訳にはいかない。アレは火傷するだけでは済まない。恐ろしい力を感じる。大昔、我を縛り閉じ込めた火と同じ…否、それ以上の恐ろしい力。
旋回を繰り返し、追いつかれないように逃げ道を探す黄金の鳥。
窓を破れば外へ出られる。もう少し…
「パライア様。もう一度力を」
ネオは逃げようとする黄金の鳥の動きを見ていた。
逃がすものか。
もう一度黄鉄を打つ。散った火花は一瞬で火の鳥となり、真っ直ぐ上に飛ぶと黄金の鳥の正面に立ち塞がった。一瞬、黄金の鳥は動きを止めた。止めてしまった。封じられた時の太古の記憶が、あの時に感じた恐怖が、体の動きを止めてしまった。
ギエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
前と後ろから火の鳥が黄金の鳥に打つかり、燃え上がる。炎に包まれた黄金の鳥は断末魔を上げ、のたうちながら落ちてくる。
どんなに踠いても炎は全く消えない。より力強く赤々と燃え盛る。床に落ち、ほとんど動かなくなった黄金の鳥の体がカッと光った。
凄まじい光に、思わず皆、目を覆った。光が収まったころ、翳した手を下ろすと、何も無かったかのように、黄金の鳥も火の鳥の姿も無かった。
いや、艶のある木製の床に、焦げたような黒い痕があった。まるで羽ばたく鳥のような形の痕だった。




