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再び、雄叫びと部屋中を震わす打撃音が響き始めた。
奥の扉に群がり、大きな丸木でもって打ち鳴らす者達。ならず者だけではない。彼等の多くがきちんとした格好をしていた。使用人や門兵など屋敷の者達だ。
暴徒たちが扉破りに集中しているのを確認したゴロナンが、隠し通路に近づいてダヒルとネオを呼ぶ。
「扉はあの人らぁに壊いてもらお。壊れたら、あっしが前で火花を散らす。ネオくんは後ろから頼むで。タイミングが大事やきにゃ」
早口で言い終わるや駆け出したゴロナンは、扉に打ち付ける丸太にひらりと飛び乗り、そぉれそぉれと群衆を煽る。さらに力強くなる打撃。扉に亀裂が走り、砕けた欠片が舞う。ネオとダヒルは静かに暴徒の後ろへ回った。
打撃音が塞いだ重しを吹き飛ばすような音に変わった瞬間、ゴロナンは丸太から飛び上がる。ネオはゴロナンの動きを見逃さない。二人は隠し持っていた黄鉄とナイフを勢いよく打ち付けた。
カアン……!
パッと火花が散り、群衆へと降り注ぐ。光に触れた者は、突然動きを止めた。
黄金の鳥が欲しい。自分だけが囲っていいものだ。自分だけが眺めていいものだ。自分だけが。
手に入れなければ…。手に入れる為なら何がどうなっても構わない。
その一心で身体を動かしていたのに、彼らに巣食っていたギラついた所有欲は急に消えてしまった。扉の向こうへ駆け出そうとしていた者は前のめりに倒れ込み、丸太を打ち鳴らしていた者は手を離し、その場にへたり込む。振り上げていた腕は行き場を無くし、怒声は生まれる理由を失った。何故、こんな事をしていたのかも分からないといった様子で、言葉も発さず、ただただ呆ける事しか出来ないでいる。
「領主様も黄金の鳥もここにはおらんにゃ!下の部屋は暴れまくる人たちで一杯やき、早う行っちゃってくれ!」
静まり返った人々に向かい、ゴロナンが何度も呼びかける。ここには領主も黄金の鳥も居ない、屋敷が危ない、助けに行ってくれ。
やがて人々は理解する。ゴロナンの言葉が届き、周りの様子を飲み込めた者は、屋敷の危機を察し血の気が引いたようだった。
彼らの瞳に生気が戻っていく。大変だ。領主様のお屋敷が崩壊する。お屋敷を、領主様を守らなければ、と震える声が上がり始める。
まだまだ騒ぎの収まってない音が廊下の向こうから聞こえる。魅了が解け、意識を持った者は未だ呆けた者を起こし、声を掛け合いながら下段に向かった。
部屋から皆出たのを見届けると、ゴロナンはネオとダヒルを手招く。三人で再び扉を押すと、今度はバキバキと音を立てて開いた。
その先にいた、一羽と一人。
煌々と輝く金色。それを背に禍々しい影を伸ばし、立つ領主。
「何者だ…!貴様等…ここをどこだと思っておる…!!」
領主は吠えた。髪を振り乱し、げっそりとした土色の顔で。どうやって重い調度品を動かしたのか分からないほど痩せた身体だ。小さなナイフを振り回して喚き散らす。開いた瞳孔がググッと上がり、やがて白眼を剥いた。その目が黄金の鳥と同じようだった。
領主の後ろにある布張りの寝椅子の背に止まる鳥の目が、ぐるりとこちらを向く。瞳のない空白の目がスッと細まる。嗤っているようだった。
空白の目を見た途端、刺すような寒気が全身を這う。
蝕まれる…。その感覚を止めようと、ネオは自らの左手首を力任せに握った。




