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「こりゃひでぇや」


ダヒルがうえっと顔をしかめる。


「強盗の仕業か… 何とも大胆やにゃあ」

「それにしても外は静かですね。壊されて大分経つのか… とにかく行ってみましょう」


鉄門を抜け、誰も居ない広い敷地を直走る。美しかったであろう庭園は、酷い有様だった。

踏み荒らされた花壇や生垣、混ぜかえされた芝生に白砂利。剪定された植木はえぐられ、無残な切り株になっているものもあった。

シンとした庭園と打って代わって、屋敷は見ただけで騒がしいと感じた。近づくにつれ、ざわりざわりと耳障りな音が徐々に大きくなる。

横に長い三階建ての屋敷。ズラッと並ぶ硝子窓は、ほぼ全てが破壊されていた。

パキ。

何か踏んだ、とダヒルは足元を見る。木の欠片だ。ささくれた(ごみ)のような木片がそこいらに散らばっている。玄関の扉がないところから、正面扉の成れの果てなのだろう。風通し抜群となった屋敷からは、耳を塞ぎたくなるような怒声や奇声がわんわんと響いていた。洋灯だけが無事なのか、チラチラと揺らぐ火が、屋敷の無残な姿を浮き上がらせている。


「おうおう、凄いにゃあ…」


ゴロナンが頬をぴくりとさせて言う。ダヒルとネオはゴクリと生唾を飲み込んだ。


「…ゴロナンさん、どうするつもりです?」

「そうやにゃあ。恐らく鳥はまだ領主殿と一緒やろう。こんにゃに騒がしいき、まだ他の者には奪われちゃあせんろう。取られんように踏ん張りゆうはず」

「一人で立て籠もってるってことっすか?」

「多分にゃあ… おるのは三階やろう。あすこは領主殿の私室もあって、執務室もある。よう過ごされる部屋が集められとる階やからにゃ」

「最上階じゃねぇっすか…うえぇ…それまで呪い解きまくらなけりゃいけねぇってこと?」

「…いんにゃ。鳥に行き着くまで魔法は使わん方がえいろうにゃあ。気付かれる恐れがある」

「えぇ?なら、どうすんすか」

「出来るだけ人に会わんようにこっそり... まぁ何とかなるろう。ネオ君の刺繍もあるき、あっしらが金ピカ鳥に惑わされることはないろうし。鳥のとこへ行くまで、魔法は隠いちょった方がえいにゃあ」


そう言ってゴロナンは、ネオが差し出した手袋の片方だけを受け取り、懐に隠した。パライアの模様が刺されているものだ。両手分をネオは渡そうとしたが「あっしとダヒル君が片方づつ、ネオ君は両手分を持っちょきなさい」と返された。


「よしよし。ほんにゃら、そろそろ行こか。屋敷の構造も、まぁ大体は分かる。二人とも離れんようににゃ。裏口にまわるで」


裏口は裏口で酷い有様だった。扉が壊されているのは勿論のこと、未だ小競り合いをする男達で溢れている。屋根下に積み上げられた筈の薪が散らばり、罵り合いながらそれを投げ合っている。


「ううん…ここもうるさいにゃあ…」


ゴロナンは更に奥へ進む。壊れた窓に近づき、人影がないのを見定めて、そこからサッと飛び入った。二人も後に続く。裏手の廊下だからか、正面口や裏口のような洋灯も灯されておらず、暗い。

暗がりでも分かる程に派手な壁紙が貼られた壁に、これまた大きく派手な扉が沢山並んでいる。裂けた扉の隙間から、漏れる明かりに怒鳴り声。何人もの足音が直ぐ近くで聞こえた。

ダヒルとネオは気配を殺して、ハラハラしていた。ゴロナンは猫が匂いを嗅ぐように、(しばら)く鼻を動かしていたが、急にピタリと止まると扉を一つ開けた。

その扉は他の扉より随分小さかった。


「早う、こっちこっち…」


二人が扉を潜ると、ゴロナンは扉を素早く閉め、近くに転がっていた箒の柄をつっかえた。

扉を抜けた先は部屋だと思ったが、ここもまた廊下だった。先程までのような豪華さはなく、簡素な造りの廊下だった。


「使用人用の通路よ。音と匂いがありすぎてちっと迷うたが… 各階に続いとる筈。急げ」

「何でもよく知ってんな…」


ダヒルがネオにぼそりと言う。ネオも頷いた。ゴロナンは魔法に精通する人物として、方々に顔が利く。国王とも面識がある程だ。それにしても屋敷の裏側まで把握しているとは、と舌を巻いた。


「ううん。音がせんと思ったが…こっちはやけにガランとしとるにゃあ」

「…でも荒れようは同じですね」

「皆で領主のとこに殺到してんじゃね」


通路に損傷はなかったが、とにかく物が散乱している。通路には掃除用具やシーツやクロスなどを置く為の空間があり、カーテンで仕切られていた。それらが飛び出し、散らばっている。中には燭台や頑丈そうなモップなど凶器となり得る物もある。

通路の突き当たりは折り返しの階段だった。駆け上がったが、階段は二階までしかない。この通路では三階へは行けないようだ。階段の先の扉をそっと開けて覗いてみると、大騒ぎする輩たちが見えた。


「っと…ここまでか…」

「あ、ゴロナンさん?」


扉をすうっと閉めると、ゴロナンは通路を引き返した。時折立ち止まり、壁に耳を当てては探るような手付きで壁を押している。


「どしたんすか、いきなり… 壁に何か… うおっ」


ダヒルが真似ると、ガコンと壁が落ち込み、ダヒルの姿が壁の向こうに消えた。

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