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ネオとダヒルと黄金の鳥と薄ベージュおじさん

二人は聖域を出た。鳥の骨はとりあえずそのまま置いておくことにした。担いで山を下りる自信が無かったし、呪いを解くのに上手く使う自信も無かった。


「鳥の骨さぁ、魅了の呪いを解くのに役に立つだろうってさぁ、あれで火花を散らしてってことだよな」

「視線は集めそうだよね。骨だけど、見た目は黄金の鳥だもの。呪いを解くのに効率はいいかも」

「勿体無くない? ナイフとか打ち付けると折れそうなんですけど。それに、なんだこの黄金の鳥の骨は!って誰かに問い詰められたとき、上手く誤魔化す方法が全然思い浮かばん」


そして聖域の入り口を閉じる方法も思い浮かばなかった。取り敢えず、大きめの石を運んで被せておいた。そのままにするよりはマシなはずだ。

洞窟を出る。午後四ツ刻頃だろう。黄鉄のぼやっとした光に慣れた目に、西日が眩しい。

登ってきたのだから、もちろん下らなければならないが、足場を確かめながらの下山はどうしても慎重になってしまう。変な所に力が入るのか、足が震え、二人とも無意識に息を詰める。下り終え、山麓の小さな林に着いてようやく、ダヒルはホッと一息吐き付いた。


「ふぅ。下る時の方が何か神経使うな。…もうしばらく山登りはいいぜ。

なぁ、鳥をどうやって倒すよ?」

「そうだ、刺繍。パライア様の文字を刺さなきゃ」


ネオは荷物から革袋に入った刺繍道具と手袋二双を取り出した。黒茶色の布手袋には、片方づつ、甲の部分に茜色の羽が刺繍されている。


「その手袋どうしたんだ?」

「夜、起きてた時に仕立てておいたんだよ。神様の文字が分かったら片方に刺そうと思って…

分からなかった時は羽の模様で対応するつもりだった。昨日の夜、ワザワイノツカイを追い払う位はできたからね。あの時の布は焦げちゃって使い物にならなくなったけど…」


針に同じ茜色の糸を通すと、ネオは迷いのない手つきで手袋の甲に模様を刺していく。何も飾りのない方の甲に、矢印に似た模様を。ぼんやり光るネオの身体。


「黄金の鳥、俺たちを追ってこなかったな。神殿を見付けられるのが嫌な筈なのに」


何もできず、ネオを見ていたダヒルがポツリと言った。


「カグア山に近づきたくなかったのかも。山自体が神殿なんだから。

なぁ、ダヒルが黄金の鳥ならどうする?」


二つ目の手袋に刺繍を刺し終え、糸を切りながら答えた。


「そうだなあ… 天敵を倒したいけど、近付きたくはない… それならもっと力の強いヤツに守って貰うかな」

「………」

「何よ。ちっとも卑怯じゃない戦法だぜ。敵にはより強い敵を作る。動物には普通に…」

「そうだよ。それだ。僕達かなり危険な状態かも…」


ネオの表情がサッと曇った。


「僕達が近付けない… 手出し出来ない相手を魅了されたら、終りだ。もし上手く鳥を倒せたとしても、魅了された人達から恨まれて命を狙われる… 魅了を解かない限り、伝承のパライア… 巫の最後みたいに」


ダヒルは生唾を飲み込んだ。恐らくネオの言う通りだろう。鳥は大昔にやったように、自分達を排除しようとしている。見えていなかった現実が近寄ってきていることを感じ、汗が額を流れた。

その時、ガサガサと後ろの茂みが音を立てた。ビクッとして振り向くと、飛び出て来たのは飴色の馬…

いや、馬ほどの大きさの山猫だった。


「「……!」」


完全に不意打ちな猛獣の登場に、叫び声も出ず、ダヒルは白目を剥いた。

一方でネオは気付く。山猫の上に跨がる、丸々とした薄ベージュ色のおじさん。


挿絵(By みてみん)


「間に合うたにゃあ」

「ゴロナンさん!」


ネオが驚いて声を掛ける。

おじさんは丸っこい体に似合わぬ軽々とした身のこなしで、山猫の上からひょいと飛び降りた。


「ザキじぃに聞いたら、ネオ君がお友達と黄金都市探しに出掛けたって言うじゃにゃいか。厄介事の匂いがプンプンやったきにゃあ。まだ無事で良かった良かった」

「誰このおっさん… わっ」


薄ベージュおじさんはダヒルに近付き、鼻をスンスンとひくつかせた。

体にぴったりした薄ベージュの服を着て、とんがった耳のような飾りがついた丸く大きな帽子を被り、低い鼻をヒコヒコと動かして匂いを嗅ぐ様子は、太った猫の様だった。


「ダヒル、この人はね、僕の魔法の先生だよ。ゴロナンさん、この男は僕の同郷のダヒルって奴です」


ネオは淡々と、手短に紹介を済ます。ダヒルはいきなり匂いを嗅がれてギョッとしたが、魔法界隈では挨拶程度のことなのかもと思い、黙ってじっとしていた。


「フンフン… 魔法の力の匂いはせんにゃあ… 魔法の事は?」

「はい。説明してあります」

「全く、あっしが戻るまで待ちよりゃえいのに。ザキじぃも自分が動けんのに、無責任に行かいて…

金ピカ鳥、ワザワイノツカイやったがやろ?」

「ゴロナンさんも分かってたんですね」

「残り香だけで胸焼けする、ギットギトの匂いやったきにゃあ… さあて、リブア族の神の名は分かったかえ?」

「はい。神殿も見付けることができました」


ネオはこれまでの事を説明し、ダヒルが神殿から持って来た黄鉄の欠片を見せた。


「こりゃあ… 愚か者の金…!」

「どうせ俺は愚か者ですよ」

「いやいや、よく持って来たにゃ」


そう言って、今度はゴロナンが説明を始めた。


「金ピカ鳥は今、セカド州の領主の所におる。でもって、領主は王へ鳥を献上すると言いよった。王の所へ渡りゃあ、ちぃと厄介やにゃあ。手が出せんなるかもしれん」

「領主の所でカタをつけるってことですね」

「でもよ、簡単に手放せるかな。俺は経験者ですからね、思うんだけどよ… かなり優遇を受けたって、他人に譲るなんて考えられねぇぜ。むしろ、建物の中に鳥が居たら、見た人皆が争ってえらい事になってんじゃ…」

「確かに」

「そうやにゃあ」

「それによ、呪われた奴まみれの中、入っていけんのかよ。呪い解く前にやられてしまいませんかね。ちょっと無謀じゃね?」

「そこであっしの出番よ」


ゴロナンはドーンと胸を張った。


「火花を散らせ。あっしの力がありゃ、眩んだ目くらいは覚まさせられる」

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