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…カツンッ
ダヒルの荷物に結わえてあったツルハシの先がにょきにょきと突き出した黄金に輝く石に当たり、小気味よい音がした。ふと、ツルハシの先を見て、ネオはハッとする。
急いでナイフを取り出し、ネオは近くの輝く石に、その背を力いっぱい打ち付ける。ツルハシが当たった時より鋭い音が響き、チカチカと火花が飛び散った。
「うわ、何してんだ、ネオ」
「ダヒル、これ…」
ネオはナイフの背をじっと見て言った。
「金じゃない」
「…は?」
ネオの言葉にポカンとするダヒル。
一瞬の間の後、そんなバカな、という顔でかぶりを振った。
「何言ってんだよ。だって、ここ何処よ?伝説の黄金都市の神殿だぜ?溢れるこの黄金の輝きが、ニセモノな訳ないだろ」
「ニセモノ、ってわけじゃない。ただ、金じゃないんだ。
金だと、柔らかいから火花は出ない。それにほら、ナイフの背を見て。打ち付けた痕が黒っぽいだろ?金なら本当に金色が付くんだよ。これは黄鉄… 愚か者の金だよ」
「愚か者の金?」
「見た目は金そっくりだけど、火で炙ったり水につけると黒くなって二度と輝かない。固くて装飾品は作れないし、昔は火打ち石に使われたりしていたみたいだけど、今はもっと便利な火付け棒があるから、全く使い道がない。価値はないよ。両手一杯持っていたって銅貨一枚分にもならないかも。でも知らない者は騙される。だから愚か者の金」
「この四角いやつ全部…」
「黄鉄」
「祭壇も…」
「黄鉄かな」
「鳥の骨も…」
「黄鉄かも」
「信じない… 信じないぞ!」
「......」
祭壇の上、金色の固まりをネオは手に取った。それにナイフの背を当ててみる。今後はそっと。
キン!と金属の触れ合う音が鳴る。
「ダヒル、見て」
ネオはナイフの背をダヒルに見せる。
「ほら、金色の跡が付いてるだろ。この固まりは金だ」
「マジかよ... まさか金はこれだけ...?」
「よかったね。金が少しでもあって。はい、どうぞ」
手のひらに余る大きさの金の塊をネオは差し出した。ズンと重い。かなりの価値があるだろう。
「いやいや、お前も壁画見ただろ。巫が持ってたやつじゃん。流石に過去の文明の神具は売り捌けねぇよ。
それより、たくさんある黄鉄を金だ、って捌けねぇかな」
ダヒルは荷物からツルハシを外し、ぎゅうと握った。
「バレた後、どうなっても知らないよ」
「冗談ですよ。伝説の場所を見付けた証拠に、一欠片持って帰る。ザキハの爺さんの土産にはなんだろ」
コツコツと岩を削るダヒルを眺めながらネオは言う。
「…なぁ、ダヒル。これが全部黄鉄なら、なんでこんな所が聖域なんだと思う?」
「あ?そりゃ、キレイだからじゃね? …お、取れた取れた」
ダヒルは砕いた岩の欠片を拾い上げ、ほら、と言ってネオに見せた。黒っぽい岩には四角い姿の鈍く輝く黄鉄がポコポコと付いている。確かに綺麗だ。
だが、ネオは解せない。
「黄金都市の伝説があった都の神殿だよ? 金鉱山の中ならまだ分かるけど」
「黄金なんてハナから無かったんだろ。全く、ひでぇデマだよな」
「いや、黄金もあった筈だ。…ほら、壁画見てよ」
ネオは巫の右手の上の、光を放つように描かれた物体を指した。
「特別な感じで輝くように描かれているのはこれだけだ。巫の左に積み上げられた物体が黄鉄だろう。ここの黄鉄の形と同じだからね。
左手に描かれたかぎ針みたいなのは、黄鉄に打ち付ける神具。輝く右手の石は、金塊だ。
…確かに黄金もあった。なのになぜ、黄鉄が溢れるこの洞窟を聖域に選んだんだろう」
「金と区別がついてなかったんじゃね?黄鉄も見栄えはいいしな。古の人々もまた愚か者…」
「壁画を見るに、描き分けてるし、金を大事にしていたことも分かる。金と黄鉄の区別はついてたんだよ。なのに何でだ…」
「黄鉄の方が好きだっだんじゃね?」
「………」
「何よぉ。今だってそうじゃん。銅より銀、銀より金が好きだから値打ちがあるのであって…」
「ダヒル、君ってやっぱり凄い男だよ」
「ん?お、おぅ」
急な褒め言葉にダヒルは曖昧な相槌を打つ。
「恐れ敬う神、パライア様が住まうのがカグア山。黄鉄はそのカグア山の麓で生れ、打てば火を与えてくれるもの。色褪せない金は不変の象徴だけど、それを自在に変化させるのは火だ。その火を産む黄鉄の方が尊ばれたなら、ここを聖域とした、ということは納得だよ。ああ、僕は今の常識に囚われ過ぎだったんだ。昔の当たり前が、今の当たり前と同じとは限らないのに」
「じゃあ、鳥の魅了の呪いを解くパライア様が与える火ってのは…」
ネオは再び、ナイフの背を近くの黄鉄に打ち付けた。かち合った衝動で火花が飛ぶ。瞬く間に消える黄金の光。眩く、幽玄な輝きに見えた。
ダヒルは思い出す。
そうだ。火ではなかった。骨の足元に書いてあったのは『パライア様がお与えくださる火の光』。
「黄鉄から産まれる火花だ」




