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ネオは壁の町らしき絵に触れた。指先に伝わる確かな熱。思わず離してしまいそうな程に熱い。帯に触れた時のぼんやりとした暖かさではない、燃える様な熱さだった。
「この…帯の地図と同じ模様が、パライア様を現す文字なんだ。町の形を文字そのものにして魔法を使って、黄金の鳥を封じたんだ」
壁から手を離し、赤い鳥が黄金の鳥を岩に沈めている絵を見ながらネオはそう呟いた。
「黄金の鳥は退治できなかったのか?封印じゃなくてよ」
「ワザワイノツカイの退治は神様の名前、人の魔法の力、自然の力が必要なんだ。この絵の通りだと、巫は封印することを選んだみたいだね。退治に…何かが欠けていたのかも」
「欠けてた?何が? パライア様って名前も文字もあって、魔法の力があったから巫が務まっていた訳だろ?そんで自然の力代表みたいなカグア山があって、まだ何が足んねぇんだよ?」
「民族の魔法はそれぞれで発展してきたんだ。民族の数だけやり方がある。憶測でしか言えないけど…自然の力が取り入れられてなかったんじゃないかな。大昔の魔法なんだ。封印しかできなかったと考えてもおかしくない」
「うーん。なるほどね」
「それよりも、次の絵だ」
壁画はこれで終わりではなかった。まだ二つ、続きがある。
化け物の様に変わり果てた恐ろしい形相の王。そして斧を手にし、巫に向ける人々。
「黄金の鳥が封印されても、王達の目は覚めなかった… 鳥を封じた怒りを巫に向けて…」
二人は最後の絵を見る。巫の魂が黒い山に吸い込まれ、それを糧にして燃え上がる山の火。中腹から放たれる無数の火が、王や民達を焼いている。
「…これが結末か。怖ぇ絵だな。人間だけに火が当たってんぞ」
「黄金の鳥の封印後の絵なんだ。町を壊さないように、人だけを…。 この後、カグア山から灰が降って町は黄金の鳥と共に眠りについた」
「待て待て、じゃあ、黄金の鳥が目覚めたのって、まさか…」
「採石場で建物跡が出てきた時、一部を壊して、封印である町の形…パライア様の模様が崩れたから…」
「目覚めさせたの俺じゃん!」
ダヒルはギョッとして叫んだ。
「…仕方ないよ。誰も建物跡を崩したらワザワイノツカイが目覚める、なんて知らなかったんだから」
「知らなかったで済むような話かよ…」
ネオは答えなかった。これからどうすればいいかを考え、骨の下に掘られた文字を思い出していた。
『パライア様がお与え下さる火の光を浴びせなければ、魅入られた呪いは解けない。』
「…これってよ、もし黄金の鳥をどうにかできても、魅了された人はこの絵と同じにしなきゃいけねぇっつーことなんかな。死ななきゃ解けねえって…」
ダヒルも同じようにあの文字を思い出していたのか、ボソリと言った。
その声色を聞き、まずいと思った。見ると、流石のダヒルも青ざめている。ワザワイノツカイを解放してしまった、という責任を感じているのかもしれない。
「ダヒル、これはあくまで歴史の結末だよ。壁画を描いたのは、大昔に生き残ったリブア族じゃないかな。滅亡しかけたんだ。戒めの為にも、歴史を残そうとしただけだよ。壁画通りにやれって意味じゃない」
「でもよ… 骨の下にも火を浴びせなきゃ呪いは解けねえって書いてあっただろ…」
「探そう、方法を。他にも手掛かりが隠されてるかも。それに、魅了されたけど、ダヒルは死んでないだろ」
「…そうか。そうだよな!よし、謎解きまくってここまで来たんだしな!もう一つ謎を解いてやろうぜ!」
二人は希望を探すように、洞窟内を調べ始めた。ここで立ち止まってはいけない。
階段より一番離れた所に設けられた、四角い黄金色の石を組み合わせて造られた台の様なもの。その上に、先端がかぎ針の様になった金属の棒と、手の平に余るくらいの大きさの黄金色の塊が置かれていた。そして、前の壁には見たことのない記号がたくさん刻まれている。きっとリブア族の言葉なのだろう。
「ここが祭壇なのかな」
「このかぎ針みたいなやつ… 壁画で巫が持ってたやつじゃね? じゃあ、この金の塊も巫が持ってたやつか」
黄金に輝く塊を撫でながら、ダヒルは溜息をついた。
「こうも金だらけだと感覚が麻痺しそうだな。でも、何でこの塊だけ祭壇に置かれてんだ?
リブア族の文字なんて読めねえし。何でもかんでも禁じてくれた我が国のお陰だよな。はぁ。全くオーキー国には困ったもんだぜ」
ダヒルはやれやれと、背負ったままだった荷物をドカッと下に置いた。




