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はっと我に返り、ダヒルはネオの方を向く。
階段を下りた先に広がる、黄金色に溢れた空間。人一人が通れる狭っ苦しい階段に比べ、かなりの広さ、奥行きがあった。スタトット村で一番大きかった教会の講堂くらい広い。俺の家より広いなあ、とダヒルは思った。
空間の中央に、一つ高くなった台のような石が見える。その石の上に、何かが乗っていた。鳥…いや、鳥そのものではない。近付くと骨のようだった。黄金に光る、鳥の骨。
「ワザワイノツカイ…じゃないな」
一瞬、ワザワイノツカイかと思い警戒したが、目が眩むような輝きも威圧感もない。不気味な寒気も感じない。
よくよく見ると、大きさも形も黄金の鳥とは違う様だ。昨日の夜見た黄金の鳥よりも一回り大きい。足も長く、嘴もツンと鋭い。
「オオプナドリの骨に似てんな。足はこんな長くねぇけど」
「そうだな… 黄金の鳥とは全然関係ないのかも。あったら、こんな風に飾る筈ないだろうし」
「これ…金でできてんのかな?すげえな。どうやって作ってんだ?」
「分らない… 肋骨とか見てよ。本物みたい。細かすぎてため息が出る」
古の民族には本物と見紛う、精巧な模型を作る技があり、作り手が居たのだろうか。今のオーキー国で同じものを作り出せる職人を、少なくともネオもダヒルも知らない。失われた技術ならば、実に惜しい、と思った。
上から下までじっくりと見ていると、鳥の足下に文字が彫られているのに気がついた。これもモックス語だった。
異国の神が我らを奪う。
私は真実を隠す。
残す為に。
奪わせぬ為に。
同胞にも祖先にも私は許されぬだろう。
今、誰からも理解されずとも
後世の誰かが知る事を願って。
永遠なれ、我らがパライア様。
我が憂いは忌まわしい黄金の鳥…
パライア様がお与え下さる火の光を浴びせなければ、魅入られた呪いは解けない。
きっと神が与えし戒めの鳥の骨が役に立つだろう。
ダヒルはウッと唸った。
「やべえよ。パライアの火って、山が吹く火だろ?そんなの浴びたら死ぬってば。死ななきゃ呪いが解けねえってことじゃん」
「………」
ネオはダヒルに答えもせず、壁を凝視していた。鳥の骨が飾られている後ろの壁を。
「あ… おい、ネオ」
ネオは壁に近付き、目を凝らした。黄金色と鳥の骨の鈍い光だけの空間は全体が良く見えるほど明るくない。「神が与えし戒めの鳥の骨」… 誰かが残した言葉の意味を理解しようと顔を上げ、ネオは気付いた。骨の後ろの壁にも何か描かれている。
文字ではない。絵だった。
平らに均された壁に、横に長く、描かれた絵。ネオは始まりであろう所へ顔を近付けた。見てみたい気持ちが強く湧いた。目を細め、壁に触れた。すると空洞内の光は、いきなり強く輝きだした。
それに伴い、増す怠さ。どうやら空洞内を光らせるのは魔法の力が必要なのだと気付く。
「何だよ、いきなり明るくなったな。 …ん? おわっ、何だこれ」
ダヒルも絵を見て、驚嘆の声を上げた。
始まりにあったのは山。そしてその天辺で燃える赤い火。山の麓に人々が並び、豪華な衣服を纏った人物を崇めるように両手を上げている。きっとこれが王なのだろう。王の左隣には、髪の長い薄紫色の服を纏った人が居る。右手に眩く輝く石を、左手にかぎ針のような物を持ち、その下には黄色い角張った岩のような物が描かれている。
「一番偉そうなのが王様なら、手に色々持ってるのは誰なんだろうな」
「ばあちゃんに聞いたことがある。昔は不思議な力を持つ者が皆を守ってたんだって。この人は不思議な力を持つ…巫なんじゃないかな」
「あー… 力があったから、王と並んで立ってんのね。じゃ、この紫の人が山の操縦者か」
次の場面には、鳥の骨とそっくりの形をした金色に光る凹みがあった。凹みの腕部分に羽が描き足されている。そして、争い、群がるように描かれた王と民達。
「これって黄金の鳥だよな」
「そうしたら、これ… リブア族が伝承で伝えてきた『パライアの火』の話なんじゃ…」
「でも何で黄金の鳥、骨の姿なんだ?羽だけ絵なんですけど。全部描けばいいのに」
「骨を置いてる石の下に『神が与えし戒めの鳥の骨』って書かれてた。…もしかして、あの金色の骨は作られた物じゃなくて、この壁に埋まっていた物なんじゃないかな」
「は?鳥の骨が岩に埋まってることなんてある??」
「大昔の生き物の骨は石みたいになることがあるみたい。掘り出した跡を、絵の一部にしたのかな」
「じゃあよ、埋まってたままの方が立体的で良くない?何でわざわざ骨、取り出したんだろうな。手間じゃないの」
「さぁ… 絵とは別に他の目的があったのかも。骨の下にも、きっと役に立つって書いてるし」
「どうやって役に立てんの?」
「それは分かんないけど…」
そう言いながら、目線は次の絵を追う。そして、ネオは体がざわりと熱くなった。
巫が一人、四角い石のようなものを動かしている。次の絵だけが上から見たように描かれていた。巫が動かした石が、沢山の四角が集まった中の隙間にはまり、ある形を作っていた。
「この四角がいっぱい集まった絵ってもしかして街なのか…?」
ネオは四角が街なのか、ということより、その四角同士の隙間の形に気を注いでいた。まるで左斜めを指す矢印。そして次の絵は、そこから飛び立つ赤い鳥。




