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神殿

空が白み始める。まだ朝一番に騒ぐドンレブスイアドリが鳴く前から、二人は動き出していた。まずはケッコロ村ヘ急ぐ。ここまで頑張ってくれたマルセイユと別れるのは寂しいが、これ以上一緒に居て何かあってはトルコス達に申し訳が立たない。交易路を右手に逸れ、カグア山へ一旦背を向ける。目的地とは逆方向だが、テッキンコンよりは大分手前の村だ。そう遠いとは感じなかった。

ケッコロ村は西側に森が広がっており、村はそこまで大きくはない。だがテッキンコンの台所として重要な役割を担う、潤った土地である。農作物だけでなく、マルセイユを貸してくれた牧場のように酪農を営んでいる家も多い。大抵の牧場は、牛や山羊、ウサギといった畜産・食用目的の家畜に加え、移動手段の為の馬やラクダも飼育している。ケッコロ村で生産された農作物・畜産物はこの馬やラクダを用いて、テッキンコンを始めとした都市部に輸送されるのである。

有難いことにツカツ牧場は村に入って直ぐの場所にあった。王都出発当初予想していたよりも大分早い時刻に到着した。山羊の柵を外しているツカツにトルコス達よりマルセイユを預かり、返しにきた旨を説明する。


「やあ、ありがとう。こんなに早く帰ってきてくれるとは… トルコスさん達が、どうしてもと言うから貸したんだけど、心配だったんだ。マルセイユはちょっと気難しいからね…」

「そうですか? とっても良い子でしたよ」

「そうそう。ラクダは初めてだったんすけど、大人しいし、旅には最高っすね」

「本当かい?」


ツカツが目を見開いて手綱を受け取った瞬間。


「グケェ…ペッ!」


マルセイユは大量の唾を吐き、ツカツは頭からそれを浴びた。


「もう! マルセイユゥ!」


ツカツは情けない声を上げながら、ラクダ小屋にマルセイユを引っ張っていった。


「…懐いてないのかな」

「愛情の裏返しなのかもよ…」


先程の事は見なかったことにして、二人はそそくさとケッコロ村を立ち去った。

距離にして十尋。カグア山を頼りに、今一度星尺分儀で確認する。


「あんまりまじまじとよ、カグア山見たことなかったけどよ、ほんとでけえよな。あ、でもちゃんとした三角じゃないってか、見ろよ。右側。真ん中らへんにコブみたいにポコってとんがってんだな」

「ちょっと、今計算してるから… ああ、分かった。僕たちが目指すのはダヒルが言ってるコブの逆方向だよ」


それから二人は何も言わず、黙々と歩いた。辿り着いたのはカグア山の麓、岩が多く、背の低い木々が生える場所だった。

採石場より十二尋ほど離れている。


「この辺りなんだけど」

「よし、じゃあどこから掘り始める? 俺がこっちで… ネオがそっちか?」


ツルハシを持ち出して、早速地面を突こうとしているダヒルに対し、ネオは神妙な顔で突っ立っている。


「どうした?」

「何かまだ、大事なことを見逃してる気がするんだ。なぁ、採石場で建物跡が出てきたのって、どのくらいの深さだった?」

「そうだな… ざっと俺二人分くらいの深さ… あっ」


何かとんでもない事に気付いた顔をしたダヒル。


「掘るのめちゃくちゃ大変じゃん。掘り当てるのに何日もかかるかも…」

「そこじゃなくて」


ネオは今迄のことを考えながら言う。


「本当に地面の下なのかな」

「………は?」


何の為に持ってきたんだと、ダヒルはツルハシを突出す。


「パライアの火にはっきり書いてあったじゃん。山が火を吹いて、黄金郷が消えたって。ザキハのじいさんが教えてくれた古い方の話でも、ラストは一緒だったじゃねぇか」

「ああ。実際に建物跡も地中から出てきたし、山が吹いた火と灰に、国が飲まれたのは本当なんだと思う」

「おう。だったら…」

「知りすぎなんだよ」

「知りすぎ?」


ネオは腰帯を再び取り出す。


「この帯を作った人… 神殿を見た事があるとしか思えないんだよ」

「そうかぁ? こんな地図残すってことは、作った奴って神殿関連の生き残りだよな。司祭の一族とか。ご先祖サマはこんな神聖なことに仕えてたのよ!って、代々言い伝わってたんじゃねぇの?その場所を、後々帯に残したんじゃね?」

「…もしダヒルだったら残す? 自分で確かめてない場所の地図を。こんな手の込んだ細工で隠してまで。統一されたばかりの頃は、他民族の取り締りも今よりずっと厳しかった筈だ。万が一見付かって、その意味に気付かれでもしたら、どうなるか。考えなかったとは思えない。それを承知で、残すかな?」

「むーん… 確信がなけりゃ残さねぇってことか」


ダヒルは成る程ね、と頷いた。

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