ネオの秘密
早朝、ネオに揺り起こされダヒルは目覚めた。全然寝た気がしない。節々が痛いし、怠い。
ボウッとする頭と強張る体を無理やり動かし、顔を洗いに小川に向かう。朝の冷気でグンと冷たくなった水を当てれば、一瞬で眠気が吹き飛んだ。
寝た気がしなくても、これで体力を回復しないと宝探しなんてできない。
固くて気乗りのしない朝餉を水で流し込み、野営の後始末をしながらそう思った。
「なあ、帯の謎、考えた?」
マルセイユに揺られ、前方のダヒルが問う。
「うーん… 罪深いっていうので思ったのは『知りすぎた男』の話なんだけど」
「え?『知りすぎた男』って教会学校で聞いたやつじゃん。えーと何か…百年以上昔によ、めちゃくちゃ物知りなおっさんが居て、処刑されるやつだろ?」
「物語の最初と最後しか覚えてないじゃないか」
ネオは昨晩思い出した話に、腰帯の謎に繋がる手掛かりがないか考えていた。
「何でも知っていた男が、知識に溺れて自分が世界で一番偉いって言い出して… 初代王のモーゼル様が男を試す謎を出すんだよ。正解なら好きにしていいけど、答えられなければ斬首だって」
「そうだそうだ、『この世で最も尊く清く、また愚かで罪深い者は誰か』ってやつ。
何答えても不正解!って言われて処刑されるんだよな。王様意地悪だぜ」
「それでさ、答えが『この世の命全て』だったでしょ?帯の謎も同じ答えじゃないかな」
「そうだな… でもよ、この話、オーキー国の話だろ?」
「『パライアの火』みたいに本当は他の国発祥の可能性はないかな?」
「可能性、全くないってこたあないんだろうけど、分かんねえな。それで、帯の謎と同じならよ、禊ぎ贖うのは斬首ってことになるんじゃね?」
その点はネオも思った所だった。禊ぎ贖うのに首を切るというのなら、たどり着けるのは死人だけだ。
「んー… じゃあ… この話でさ、神父様は余計な知識は危険で、世の中に混乱を招くって説いてただろう?だから、何かを知ってしまうってことが罪深いっていうことにならないかな?」
「オーキー国でなら罪人なんだろうけど、腰帯の謎作ったのってリブア族って奴なんだろ?その国でも知識は罪!ってなってたのかね」
「そうだよね… 結局そこなんだよ」
「ザキハの爺さんに聞けりゃいいんだけどよ。あ、あの爺さんも謎分かんねって言ってたっけ」
謎が解けないことを除けば、旅は順調に進んだ。マルセイユが頑張ってくれたお陰で、その日の夕方には森の出口まで進むことができた。木々の切れ目から、東にカグア山の黒い山肌が見える。その更に奥に小さく見えるのはテッキンコンを囲む壁だ。
「お~!早かったな!」
ダヒルが嬉しそうな声を上げる。
テッキンコンは鉱物の発掘・加工で発展した工業都市だ。特に硝子の生産が有名で、街中に製造所や細工所が乱立している。それぞれの工場は技術が漏れてしまわないように、高い壁を築いている所が多い。そんな壁だらけの都市は、遠目からは城壁に囲まれた要塞の様に映った。
「カグア山の向こうに連山があんだろ。あの、テッキンコンの東の。あれが、鉱物組合所有の鉱山でよ。こっからは見えづれぇけど、その連山の麓が例の採石場よ」
「テッキンコンとは割と離れてるんだね」
ダヒルの指す山々は、カグア山の更に奥、テッキンコンの東方面に広がり、山肌は白っぽい色をしていた。ダヒルの言う採石場はカグア山に隠れ、ここからはよく見えない。カグア山の周りには他に山と呼べるような高さのものは無く、一番近い山がその白い連山のようだった。
「頑張ったな、マルセイユ」
ネオは労うようにマルセイユの首を撫でた。焦し飴みたいな毛色のマルセイユは終始口をムグムグと動かし、何かを食んでいる。さっき口に入れていたエノコロウ草だろう。
「無理して進むより、一晩この辺で明かした方がいいな。今から行くとケッコロ村に着くころには真っ暗になる」
ケッコロ村はカグア山の南西、交易路を右手に逸れた先にある農村である。テッキンコンよりも大分手前の村なので、明日の朝出発すれば、午前中にはマルセイユを主人の元へ帰すことが出来るだろう。




