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知りすぎた男

今から百年以上も昔、とても物知りな男がいました。男は何でも知っていましたし、何でも知りたがりました。凄まじい知識を覚えておくだけの底なしの記憶力、尽きることのない探究心に、男に助言を求める者が大勢いました。月日が流れ、男の知らない事を知っている者がいなくなりました。しかし、行き過ぎた力には、争いの火種があるものです。


知識に溺れた男は、自分こそが世界で一番偉い、と言うようになりました。国王よりも…神よりも。

それを聞いた人々は、次第に男を恐れるようになりました。男は簡単に人を殺せる方法を沢山知っている、ということに気が付いたからです。毒のある草、病気になる水、炎を急に出す方法、何でも知っていました。人々は恐れました。男に逆らうとどうなるか、簡単に分かったからです。

そこで、賢明なるオーキー国初代王・モーゼル様は男を諭しました。その知識を国のため、人々のために使い、国に仕えるよう言いました。


しかし、男は何故自分より知識の無い者に従わなければならないのか、と聞き入れませんでした。そこで、モーゼル様は男に自分の問いに答えられなければ刑を受けよ、答えられたならば好きにするがいいと言いました。男は承知しました。自分に答えられない事などないと思っていたからです。


「では、答えよ。この世で最も尊く清く、また愚かで罪深い者は誰か」

「その答えは赤子だ。何も知らないため罪を知らず、また何も出来ぬからだ」

「その答えは違う。約束通り刑を受けよ。二日後に斬首とする。だが、猶予をやろう。刑の執行までに問いに正しい答えを示す事ができれば、命を助けよう」


男は自分の答えが違う事に納得しませんでした。何故違うか分からなかったからです。王は答えました。赤子は無垢で尊く、親の手が無ければ何も出来ぬが、何も出来ぬのは愚かさではなく、何者にもなれる器があると言う事である、と。

鎖に繋がれた男は沢山の答えを示しました。老人、若者、子供、男、女、病人、健やかな者、富める者、貧しい者… しかし、王は全ての答えを誤りだと言いました。

そしてついに刑の執行の日となりました。男は処刑台へと連れて行かれ、その間も答えを言い続けましたが、それも全て誤りだと王は言いました。

刀が振り下ろされる前に、男は答えました。


「答えは『私』だ」


王は言いました。


「その答えは違う」


刀は振り下ろされ、男は息絶えました。


「答えは『この世の命全て』だ。私もお前も、皆がこの世で最も尊く、また愚かだ。清らかであっても他の命を頂かなくては生きてはいけぬ罪を負っている。誰が上で誰が下かという事はない。お前が今まで示した答えを合わせれば助かったものを」

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