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全ての準備を整えると、市場近くの各都市へ向かう乗り合い馬車の集う停留所へ向かった。
「ありゃ、テッキンコン行は五日後発だって」
「馬車でも二日掛かるし、歩いた方がちょっと早いな」
「貸し切りは高いしなあ… 歩いて行くか」
「ダヒル、王都までどうやって来たんだ?」
「貨物馬車にこっそり荷物のフリして乗ってきた。でも流石に二人はバレるな」
「………」
「ん?二人でも挑戦してみるか?大胆だな、ネオ」
「…そうだ、トルコスさん達に相談してみよう。もしかしたら行商に行くタイミングがあるかも」
「トルコスさん、こんにちは」
「おや、ネオ君と… ダヒル君! なんと。王都へ来ていたのですか」
「ちはっす」
トルコス商店は兄弟夫婦で経営する行商商店だ。ふくよかな兄のフウと、ほっそりした弟のホッソ。本店が王都にあり、月の半分は各地へ行商に出ている。スタトット村に来る行商がトルコス商店であり、小さい頃からの顔なじみだ。祖母のボンジュの糸を卸したり、刺繍の注文も賜っている。ネオは王都へ来た時から世話になっている。
「トルコスさん、近々テッキンコンへ行く予定はないかな? 近くでも通る予定があれば、一緒に連れて行って貰えないかなって思って」
「そうですなあ、実は先日行商から帰ってきたばかりで… 次は半月後なんですよ。今は仕入れと行商の準備の時期でして」
「そうですか… 残念だな」
「おっと、兄さん、あの子を使ってはどうだい?」
ホッソの言葉に、そうか、とフウが閃いた顔をする。
「実は、先達ての行商でテッキンコンの荷物が多くて、フタツヤマツノラクダを借りたのですよ。早くご主人の元に帰してあげたいんですが、私らでは半月後の行商で連れていくしかなくて。君たちが連れて行ってくれませんか。馬よりは少し遅いですが、歩くよりは断然早いですよ」
店の裏に回ると、納屋には馬と並んでラクダが一頭繋がれていた。フタツヤマツノラクダだ。
フタツヤマツノラクダは足が長く、背中までの高さが大体成人男性の背丈ほどある。その名のとおり頭に毛で覆われた握りこぶし位の角を三つ頂いていて、背中に二つの山のような瘤がある。この瘤には脂肪が蓄えられており、食糧が無い時期には蓄えた脂肪をエネルギーに変えることができる。五から十頭ほどの群れで暮らし、群の中で位が高いものほど瘤が大きく成長する。比較的温厚な性格だが、気に入らない相手には大量の唾を吐きかけてくる。
荷物の運搬や移動手段として、セカド州を中心に飼育されている動物だ。
「コイツ、何食うんすか?」
「水辺に生えるモッセリが好物です。水分の多い草を好むようですので、旅の道中に食べさせてやってください」
「よっしゃあ、分かったぜ!」
「この子の名前は?」
「マルセイユですよ。フタツヤマツノラクダは群れで生活する生き物ですから、一頭でいる期間が長いとストレスが溜まってしまうそうで… 予定より早く仲間の下へ帰れるとこの子も嬉しいでしょう」
ネオはマルセイユの首を撫でた。マルセイユは瞬きもせずボウっとしている。
「二人も乗って大丈夫なんすか?」
「二人位平気ですよ。荷物も少ないですしね。乗るときは前の瘤の横を優しく二回触ってください」
ダヒルがホッソに言われたとおりにしてみると、マルセイユは膝を折って座った。これが乗れという合図の様だ。
「ありがとう、トルコスさん。これで早くテッキンコンに行けるよ」
「とんでもありません。お得意様のネオ君の為ですからね。マルセイユの飼い主はテッキンコンの東にあるケッコロ村のカツカさんという方です」
「ケッコロ村なら分かるぜ!」
二人は荷物フックに荷物を付け、王都の門前までマルセイユの手綱を引いて行く。
「マルセイユ、お家に帰ろう」
こうしてダヒルとネオはテッキンコンに向けて出発した。




