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「神父様達、何でここに来たんだろう。また、って言ってたから最近よく来るのかな」
「教会も焦ってんじゃね? なんせ木教以外の信仰を許さないからな。
でもよ、誰もモーベロン様も神獣も見た事ないだろ。そこへ黄金に輝く鳥が現れた。しかもまだ捕まってない。神的存在かも…って思う奴がいても仕方ねえよ」
「ダヒルはここへ来るまでに鳥は見なかった?」
「おう、そうだな。噂しか聞いてねぇや」
ダヒルが黄金の鳥を見た時、どうなるか少し怖い、とネオは思った。先程争っていた男達は、どう見ても普通ではなかった。神父達の口振りから察するに、あの争いが何度も起こっているのだ。
黄金の鳥の噂を聞いて以来、ネオは何かが引っかかっていた。何となく嫌な、としか言えない予期不安がうずうずと積み上がっていく感覚が消えない。
だからダヒルと一緒に行く事を決めた。自分の刺繍が本当に必要になるかもしれない。お守りになるようなものを作ろうと、昨晩は遅くまで作業をしていた。どんな模様を刺すべきか迷ったが… 早く完成させなければ。そう思った。
亡き師・メルビルの異変を何とか元に戻せたのは、ネオの刺繍の力があったからだ。
「とにかく、鳥の動きだな。もう少しで捕まえられた、惜しくも逃したって情報は…
セカド州の森、カグア山の付近って書いてたな」
「えっ、ダヒル掲示板見てたの?あの騒ぎの中で??」
「俺の目の良さがいい仕事したぜ。つーかカグア山って、テッキンコンの近くじゃね?」
「じゃあ、ひとまずテッキンコンに向かえばいいね」
セカド州は王都の東に属する州。
工業、商業都市が発展し、商売に不可欠な他都市への交易路も整えられている一方、大きな山や広い森もある。ネオとダヒルの故郷・スタトット村も随分遠いが、ある。故郷へは王都から馬車で十日ほどだ。工業都市・テッキンコンへは馬車で二日ほどかかる。二人は食料など入用な物を揃えるため馬車の停留所に向かう道中、市場へ寄ることにした。
「馬車で行くとして往復で四日か… 黄金都市探しにはどの位かけるつもり?」
「そうだなぁ。とりあえず七日間くらいか?
でもまぁテッキンコンに着きゃ、食料も買えるし、宿のアテもあるぜ。俺の街といっても過言ではないからな」
「じゃあ、行きの準備だけでいいか。余裕を見て四日分ってとこかな」
「十分、十分。てか何だ、この市場。広過ぎ。出発前に疲れちまうぜ」
市場の広さにダヒルがげんなりした様子で言う。
「王都で一番大きな市だからね。我慢してよ。今日立つのはここしかないんだ」
各州で生産された物資が集う王都では、毎日何処かしらで市場が立つ。新鮮な野菜や屋台料理が主役だったり、乾物や油漬けなどの保存向きの品が溢れていたり、水差しやお皿、湯入れなどの焼物が並べられたりとその日その場所で色が違う。数ある市の中でも、二十の休息の日に二番街の通りを陣取って立つ市場は一番大きく、何でもありだ。通称“ごちゃ混ぜ市”。
何軒も離れていない場所に、どこが違うんだろうと思うような粒状果実入り果汁を売っている露店を五つも見付けて、ダヒルは更にげんなりとした。
「あり過ぎってのも買う気が失せるもんだな」
故郷で市場と言えば、月に一度やって来る荷馬車一つ分の行商市だった。ダヒルはテッキンコンでの週に一度の市場にもたまげたものだが、王都の市場に比べたらとっても控えめである。
「全部見てまわるようなもんじゃないよ。立ち替わる店も多いし。こっちだ」
人混みの中をネオはスイスイと進んで行く。派手な看板の美味い、絶品、新発売などとうたっている店には見向きもせず、小さな串焼の露店に並んだ。看板にはポロッポ鳥にオットシ豚、モウジュー牛の串焼きといった分かりやすい品書きが掲げられていた。煙だけでパンが進むような甘辛い匂いが漂い、誘われた人達が列を成している。
「そういや昨日お前んとこへ行く途中、すげぇ繁盛してる店があったぜ。店の名前…なんつったかな…
えーと… 忘れた。何の鳥か分かんねぇんだけど、金とか黄金とかってやたら書いてんの。食べれば良い事があるってのよ。厳つい男達がわんさか居たぜ」
「最近は黄金の鳥にあやかった商売も増えてるみたい。あ、そっちが良かった?」
「俺はゲン担ぎよりもポロッポ鳥が好きです。あと、モウジュー牛とオットシ豚も」
「…品書きの分全部じゃないか。まだ注文するまで時間がかかるだろうから、並んでて」
ネオはそう言うと喧騒に消えた。
ダヒルの後ろにも人が並び、前に並んだ客は着々と注文を終え、少しづつ前へ進む。前の者が注文を終え、自分の番がくる、とソワソワしている所へネオが戻って来た。ツルハシとシャベルを持っている。
「おお。似合わねぇな、ネオ」
「だったら、ダヒルが持っててよ」
ネオはダヒルにツルハシ達を押しつけると、売り子に注文する。
「ポロッポ鳥の串焼きとオットシ豚の燻製串を八本ずつと、モウジュー牛のステーキサンドを二つ」
「はいよ。もう少し待って下さいねぇ」
焼き上がりを待つ間、採掘道具を荷に結わえる。売り子に大声で呼ばれ、大きな葉に包まれた串とサンドイッチを受け取ると、一口いいだろと伸びてきたダヒルの手を叩き、食料保存用の革袋に押し込んだ。市場中央を通り、馬車の停留所へ向かう。
「んなわざわざ人が多い場所通らなくってもよ」
「中央には水飲み場があるから。少しでも飲み水、補充していった方がいいだろ」
王都は周辺を囲うオーケの森のお陰で、水に恵まれた土地だ。根の深いオーケの木がたっぷり水分を貯え、山中でも無いのに地下水脈が走り、いくつか湧き水が出る場所が在る。その一つが二番街のプナ広場である。湧き水の出る場所は、モーベロン様の恵みとして、御使いであるモックスプナタリオンの姿を模した噴水が設けられている。噴水の神獣像は濾過装置となっており、像の口部分から流れる水は、そのまま飲料水としても使用できるのだと、噴水の前でネオは説明した。
「王都中の水路も、湧き水を行き渡らせる設備なんだ。うちの店みたいに色んな建物にも通ってるよ。流石に全世帯じゃあないみたいだけど」
「はぁ…便利過ぎー」
喉を潤し、水の減った革袋を満たしながら、ダヒルは感心した。やたら水路の多い都市だとは思っていたが、都中に行き渡っているなど、信じられない。故郷でもテッキンコンでも、水は共同の井戸か汲上げポンプからしか得ることができなかった。




