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「最近の目撃情報は… ふーん… 東の方か」
「鳥の動きに何か法則が無いか、今迄の目撃情報をまとめ…」
「おい。お前等も黄金の鳥を狙ってんのか」
二人で掲示板を見ていると、ガラの悪そうなヒゲもじゃの男がこちらに近付いて来た。
「いや、狙ってるわけじゃねえっす」
探ってはいるけど、と思いながらダヒルは反射的に言った。
「嘘吐くな! 鳥の事を調べてんだろ! 捕まえるのは俺…」
「何を言っている!捕まえるのはオレだ!」
ヒゲもじゃの男が大声を出すと、何故か近くの大柄な男が割って入ってきた。そして連鎖するかの様に周りの男達が俺だ俺だと騒ぎ出し、小競り合いが始まった。体や腕をつかみ合い、一人、また一人とどんどん騒ぎの塊が大きくなっていく。皆、目が血走り、暴力的で、黄金の鳥への執着が尋常でない。
ネオは男達と似た目を見た事があった。思い出して身を震わせる。ネオが王都へ出てきた時の奉公先の店の主、メルビルがそうだった。仕事へ異質な拘りをみせ、偏った考えを曲げず、他人を怒鳴り散らしていた。濁った川の様な色の目は、相手を見ているようで、見ていない。焦点が定らず、ギラギラとしていた。
あの時のメルビルさんに似ている…
冷や汗が、背筋に伝う。早く出なければ、とネオは思った。咄嗟にダヒルの手を掴み、男達の波に逆らう。騒ぎを止めようと、組合の職員は大わらわだ。総出で鎮めようとするも騒乱は静まらず、とうとう怪我人が出た。
「何の騒ぎです… ああ、また鳥の方達ですか」
屋舎へ入ってきたのは王都の教会の神父達だった。
王都には木教の総本山がある。千人余りの神に仕える者が籍を置き、各村・都市の神父達はここから派遣されている。その為、実際に王都に在住しているのは三百人程だ。故郷の教会は質素だが、白石を用いた重厚な造りの王都の教会は、王宮に勝るとも劣らない程荘厳である。
「落ち着きなさい。あまり暴れると暴行罪で咎を受けますよ」
歩み寄る一人の神父の手が青く光る。その手が男達に触れると、水をぶっかけた火のように、凶暴な熱が急速に引いていく。腕が下がり膝をつき、目はぼんやりと半開きになる男達。先程までの騒ぎが嘘のように、建物の中はしゅんと静かになる。
「さあ、怪我をされた方は並んで… どなたも魔療法所へお連れする必要は無いですね」
神父達は怪我人の治療を始めた。まるで周りに見せ付けるように。
「どんな方も等しく治癒の魔法を受ける権利がありますよ」
「有難うございます、神父様。本当に助かりました」
恐縮する組合職員に、神父様は重々しく頷く。
「等しく施すのが、モーベロン様の御使い・神獣モックスプナタリオンから聖なる力を与えられた者の役目…ですからね」
神父となれるのは、爵位のある家に生れ、かつ聖なる力を得て、王立魔法学院で課程を収めた者。必然、社会的地位が高い。
「全く… 最近は黄金の鳥を神聖化している者もいるとか… 嘆かわしい事です」
「不遜! 反逆! 木教だけを信じていればいい。この素晴らしい力を与えたもうモーベロン様こそ全て!」
「鳥は鳥。何も不思議な力はありません。黄金の鳥が何者であるかなど、どうでもよい事です。何でも知りたがるのは、最も愚かな行為。過度な知識は他人より自分が上だと思い上がる根源になる。そんな者は処罰される事になりますよ… 『知りすぎた男』の様にね」
ネオはとても嫌な気分になった。神父達こそ態度が尊大だ。きっと自分達が高い身分の出の、特別な力を授かった選ばれし人間であると思っているに違いない。忙しない展開に呆気に取られているダヒルの袖を引き、何食わぬ顔で外に出た。




