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ハッとして、ダヒルの意識は覚醒する。暗い部屋の中だった。
さっきのは夢だ。
十年前、夏の始まりにスタトット村で起こった、ワザワイノツカイ騒動の時の記憶だ。友人が、大切な人を失うかもしれないという場面に初めて直面し、何もできなかった苦い記憶だ。うっすらと手に汗が滲んでいた。
喉が渇いた。部屋の隣に水屋があったはずだ。水を貰おうと、ダヒルは手探りで壁を伝いながら暗い部屋を出た。
廊下の中程でうっすらと光が線を引いている。店のカウンターへ繋がる扉の方からだ。
何だろう。
光は扉の隙間から漏れていた。隙間をそっと覗くと、針仕事をしているネオが居た。
小さな蝋燭と店の硝子戸から入る月明かりの下、素早く手を動かしている。廊下へ漏れているのは蝋燭の明りと月の光だけではなかった。
ネオの体が、ぼんやりと光っている。
その様子は村で神父が怪我や病を直す時に、手が淡く光る姿に似ていた。ただ、神父が光を発していたのは手の平だけだった。ネオは体全体が光っている。
ネオの抱える秘密が、とても大きなものなのではないか、とダヒルは感じた。そして、その秘密に触れてはいけない。気付いてはいけない。今は…。そんな気がした。
ダヒルは音を立てないようにゆっくりと扉から離れ、忍び足で水屋へと向かった。




