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…光が眩しい。部屋の中では無い、若々しい緑が溢れる村の風景。故郷のスタトット村だ。ダヒルは何処かに向かって歩いていた。
先には教会の青いとんがり屋根が見える。今日は教会学校の日のようだ。教会に入ると、沢山の子ども達がいて、神父がモックス語の読み方を教えている。ダヒルが椅子に腰掛けたその時。
グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォ…
地が震えるような音…
違う。何かの叫び声だ。聞いた者の体を凍り付かせるような叫び声。子ども達は青ざめ、震え、騒ぎ出す。神父は落ち着くように言うが、混乱は治らない。
大人達が教会へやって来た。親と会えた子達は少し落ち着きを取り戻す。村全体が、不気味な叫び声を聞き、不安に包まれていた。どうやら東の森から聞こえてきたらしい。大人達は、皆教会へ集まろう、と言って、ここへ来たようだった。この場に居ない人を確認している。
ダヒルは周りを見る。母親と祖父母は居る。隣の爺さんも、友達も皆ここに居る。いや…
ネオが、居ない。
今日もネオは教会学校へ来ていない。ネオの祖母・ボンジュも居ない。
ダヒルは駆け出した。ネオの家に向かって必死に走った。思うように足が進まず、気持ちが焦る。
家が見えた。庭の畑にネオが居た。森の方を見て立っている。
「ネオ!」
ネオは呼ばれた声にハッとしたようにこちらを向き、そして森に向き直る。ダヒルは咄嗟に飛び出し、ネオの腕を掴んだ。ネオは森へ駆け出そうとしていた。
「森に…ばあちゃんが行ってるんだ」
「何…!」
ネオはボンジュを追うつもりだったのだ。しかし、子供に何ができるだろう。
「落ち着け、俺等が行ってもどうしようもできねえよ。大人達に知らせよう」
「大人だって、どうしようもできなかったら、どうしたらいいの?」
ダヒルは答えられなかった。その通りだ。不安にさせる得体の知れない何かに、どうしたら良いかなんて分からない。ネオは俯き、祈るように指を組んでいる。
ズワッっと二人の横を鋭い風が抜けた。風は森に向かい、木々がざわめく。瞬きする間に静かになったかと思うと、強い白い光が森の奥からカッと延びた。
いよいよ普通じゃ無い事が起こっていると感じた。ボンジュの事はどうすれば良いか分からなかったが、ネオを、行かせる訳にはいかない。
そう判断し、ダヒルはネオを教会へ連れて行き、大人達に伝えた。ボンジュの捜索に村の男衆何人かがあたってくれ、程なく帰還した。青い顔をしながらも、ボンジュは戻って来たのである。
「ばあちゃん!」
ネオはボンジュへ駆け寄る。
「ああ、ネオ…」
ボンジュの目は虚ろで顔色はすこぶる悪かったが、ネオの姿を見ると大きく息をついた。
「ボンジュさん、あの声は何だったのかね」
「…ワザワイノツカイさ」
「ワザワイノツカイだって!」
「ああ。でももう消え失せた。跡しか残っちゃいない。あたしにも何が何だか…」
「これもきっと、モーベロン様のご加護でしょう」
神父はそう宣い、手を合わせた。人々のざわめきの中で、ダヒルはボンジュの呟きを聞いた。
「そう… ご加護さ。神の…」
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