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「…こんなんだったっけ」
「この後に、神父様が『過ぎた欲や力はその身を滅ぼし、周りを不幸にする』って戒めてたよ」
「よく覚えてるな。俺の方が教会学校行ってたのに」
「………」
教会学校へダヒルが行く目的は、専らその後友達と遊ぶことであった。
「そんな事より坊主、お前の言う建物跡とやらはどんな形をしとったんだ」
「どんなって… えーっと、四角い部屋みたいなのが二つ、三つぽつぽつと… 大きさは…こう、大人二人が両手広げたくらいっすかねぇ」
ダヒルは見たものを伝えようと、大きく腕を広げた。
「分かっとるとは思うがな、出て来た場所が家のようだったなら、それは民家の一部だろうな。そんなところに黄金はないぞ。あるなら王族の住居か、神殿の祭壇のような場所だろうな。パライアの火の通りだとすれば、都市一つが飲み込まれておるのだぞ。どうやって黄金のある場所を探し当てるのだ。地面をほじくり返すのに何年かかると思う」
「………」
言葉に詰まるダヒル。何も考えていなかったのだろう。指摘されて気が付いた、という顔をしていた。
ザキハはダヒルの様子を分かっていたのか、二人に背を向けて本の山をガサゴソやっている。
「赤毛の坊主の考えは案外的外れではない。伝承の中には、事実が混ぜられている場合がある。
テッキンコンで作っておるのは硝子だろう。硝子を作るにはいくつかの石が必要だが、多くは火山の出す灰や溶岩が固まった岩だ。それらが積もった地面を今掘り起こしておるのだろうな。だから、火を噴く山はある。
もう一つは、伝承の発祥地だ。統一前、リブア族という民族が住んでいた場所が、『パライアの火』伝承発祥の地とされておる。今のセカド州のテッキンコンの辺りだ」
「それ、もう黄金都市確定じゃないっすか」
ダヒルの顔がパアァと輝く。
「阿呆。何が確定なもんか。これだけでは何の答えにもならん。黙って聞いとれ。
黄金の鳥が騒がれはじめてから、わしは文献を漁ってみた。『パライアの火』伝承に関係あると踏んでな。
赤毛の坊主と別の憶測でだが」
ザキハは先程置いた二冊の本の隣に、バサバサと数冊の書物を置いた。豪華な装丁のものもあれば、古び萎びた匂いがするものもある。本とは呼べないような、走り書きのメモを綴った紙束まであった。
「伝承や昔話というやつは、時代の中で変わっていくもんだ。その時の人間が、話の内容を都合の良いように解釈するんだろうな。勝手に短くするし、余計な話をくっつける。碌でもない教会が使ってるのならばなおさらだ」
台に積み上げた書物をバンバンと叩きながらザキハが言った。
「これらに書かれている内容は、出てくる人物に違いは殆どないがな、違うのは黄金の鳥の最後だ。
お前達、おかしいと思わんか?連れ帰った黄金の鳥はどうなった」
「そういや…」
「強欲な王様の手に渡ってから出てこないですね。いつの間にか居なくなってる」
「国と一緒に地面に埋まったんじゃね?」
「鳥なのに?」
「飛んでいけるか…鳥だもんな」
「少し古い時代の話では、黄金の鳥が持ち帰られ、王は鳥の美しさの虜となる、とある。周りも皆。無論王子も例外でなはく、パライアの話を聞く者は居なくなる。パライアは皆を元に戻そうと躍起になるが上手くいかず、黄金の鳥を逃す。怒り狂った王達によってパライアは捕えられ、鳥を逃した咎で火あぶりにされる。処刑の間際、パライアの怒りで山が火を噴き、国は滅びる」
「最後は同じですね。ザキハさん、僕は『パライアの火』はお伽話だと思っていたのですが」
ザキハは初めに置いた二冊のうち、古ぼけた方を手に取って捲りはじめた。
「この本はわしが持っとる中で一番古い、色んな伝承をまとめとる本だ。載っとるのはオーキー国に都合のいい話ばかりだがな。時の流れの中で内容も変わっておるし、今では大抵の者はこれらの伝承がオーキー国に伝わるお伽話だと思うのだろうな」
捲る手を止め、ザキハは指で文字をなぞる。誰かの手で書かれたオーキー国の言語、モックス語の文字が並んでいる。
「パライアの火については、リブア族の者から聞いたとの記述がある」
「だから伝承の発祥地が分かるんですね」
ザキハは台の上の開いたページを指でコツコツと叩く。
「伝承で黄金の鳥はパライアが追い払うか、うやむやになるかだが、この本に書かれているものだけ、違う」
「どうなるんですか?」
「隠したのだ」
「隠した?」
「隠して、火あぶりにされても隠し場所を明かさんかった… それに、パライアも侍女ではなく、王家へ助言する者となっておる。国の中に隠したのならば、一緒に地面の下に埋まったのかもしれん」
「意外と俺の推理が冴えてる」
「今の鳥騒ぎは伝承の中の王たちが鳥に夢中な状態に似ておる。非常にまずい。滅びの道まではいかずとも、大きな争いになるだろう。止めるには伝承を読み解く必要がある…」




