パライアの火
『パライアの火』
まだオーキー国統一が成されていなかった遠い遠い昔、欲に塗れたある国がありました。王様はとても気性が荒く、どんなことも戦で決着をつけていました。黄金が大好きで、お気に入りの玉座は黄金で出来ていましたし、城は黄金で満ちていました。王様は今日は昨日より、明日は今日よりもっと多くの黄金を手に入れるために、他の国を攻めて攻めて、戦ばかりしていました。
さて、王様には息子が一人おりました。王子様は大変美しい姿をしていましたが、気が弱く、何もご自分で決めることが出来ない、頼りない方でした。
ある時、王様は海の向こうの国に、黄金の鳥がいるという話をお聞きになりました。王様はその鳥が欲しくてたまりません。しかし、自ら海の向こうへ行って戦をするには、王様は歳を取り過ぎていました。そこで、王様は王子様に黄金の鳥を手に入れてくるように命じました。
王子様は困りました。海を渡ることも、ご自分が兵を率いて国を攻めることも、鳥を手に入れることも、どうしていいか分らなかったからです。王様の命令に背くこともできません。
お城には賢い侍女のパライアがおりました。パライアは母の母のそのまた母の時代から、お城に仕えてきた家の者でした。パライアは賢いだけでなく、不思議な力も持っていましたが、その事を知るものはおりませんでした。
パライアは王子様がお困りになっているのを知り、こう言いました。
「親愛なる王子様。王子様の悲しみはわたくしの悲しみ。お困りの姿を目にするのはとても辛ろうございます。金色の鳥のことならば、わたくしにお任せを。その代わりに、金色の鳥を手に入れた暁には、わたくしを王子様の妻にして下さいませ」
王子様は他に良い案が浮かばなかったものですから、パライアの言う通りにすると約束しました。
パライアは鳥の形の焼き印を入れた酒樽を沢山用意させました。その一つだけに葡萄酒を入れて大きな商船に積み込むと、王子様や兵士達を乗せ、共に出発しました。船は海の流れに乗ってすいすいと進み、あっという間に目的の国に着きました。港に入る前に、パライアは兵士達に軽装をさせ、一人ずつ空の酒樽に入れ、海に投げ入れました。そして王子には商人の格好をさせ、パライアは老婆の姿になりました。
港の関所で兵士に何をしに来たか聞かれたパライアは答えました。
「私は息子と葡萄酒を売りに北の国へ行くところでした。しかし、荷を入れていた壁が壊れ、大事な酒樽が海に落ちてしまいました。私達の酒樽がこの国の海岸に流れ着いております。それを持ち帰るために、この国へ入れて頂きたいのです。今年の葡萄酒はとてもよい出来でございまして… よろしければこちらをお納め下さい」
パライアは葡萄酒の入った酒樽を兵士に渡しました。話を聞いた兵士は、確かに、街の向こうの海岸に同じ鳥の印が入った酒樽が沢山流れ着いているのを確認しましたので、パライアと王子様に入国して持って帰るように言いました。
パライアと王子様は酒樽を岸から近くの森へ運び兵士達を外に出すと、バラバラになり街へ紛れておくように言いました。
「火柱が見えたら、皆で城へ来るのです」
商人を装ったパライアと王子様は城の前へ来ると、王様に珍しいものをご覧に入れますと門番へ言いました。
「珍しいものとは何だ」
「火の鳥にございます」
パライアと王子様は謁見の間へ通されました。王様の御前でパライアは布をかけた篭を取り出すと、何かぶつぶつと呟きました。するとどうでしょう。布は燃え上がり、一羽の赤い鳥がザッと出て来たではありませんか。鳥は炎を吐きながら美しく輝きました。
「見事だ。しかし、我が黄金の鳥に比べるとやや劣るではないか」
「もちろんにございます。眉目は噂に高き黄金の鳥には及びませぬ。ですがこの火の鳥、ひとつとっておきの術がございます」
パライアはピィーっと口笛を吹くと、火の鳥は篭の上に帰ってきました。
「術とは笛の合図で戻ってくることではなかろうな」
「とんでもございません。王様」
パライアが立ち上がると、火の鳥は彼女の体の周りをぐるりと飛びました。あんまり近かったため、パライアの体は燃え上がりましたが、炎は一瞬のうちに静まり、その姿を見た人々は息を飲みました。
「若返りの術にございます」
そこには老婆の姿を解いたパライアが立っておりました。皆の目にはそれが、火の鳥が若返らせたかのように映りました。若く美しいパライアの姿を見て、王様は火の鳥が欲しくて欲しくて堪らなくなりました。
「幾らでも出そう。火の鳥を余にくれんか」
「幾ら金子を積まれてもお譲りすることはできません。ですが、黄金の鳥をほんのひととき、わたくしの手にとまらせて下されば、お譲りしましょう」
王様は喜んで黄金の鳥を手にとまらせることを許しました。そしてパライアに火の鳥の若返りの術を自分にするように命じました。パライアはまた口笛を吹きますと、火の鳥は王様の周りをくるりと回りました。しかし、鳥はそのまま大きな火柱となり、お城の天井を燃やし尽くしてしまいました。もちろん、火の中に居た王様も燃えてしまいました。
お城の兵士達は慌ててパライアと王子様を捕えようとしましたが、火柱を合図に集った大勢の敵がお城に入ってきたものですから、あっという間に負けてしまいました。
こうして海の向こうの国を滅ぼし、黄金の鳥を持ち帰った王子様を、強欲な王様は大変喜んで迎えました。
パライアは王子様に、お約束通り妻にして下さいませ、といいましたが、王子様はパライアの不思議な力が怖くなり、王様がまだ結婚は許して下さらないと嘘をつきました。
すると、パライアは海の向こうの王様と同じく、火の鳥をけしかけ、強欲な王様を殺してしまいました。
王子様はパライアの行いに大いに驚き、震えました。強欲な王様が亡くなったので、王子様が新しい王様となりましたが、パライアとの約束を大変後悔されておりました。新王はパライアが恐ろしかったので、どうすれば結婚しなくていいだろうか、と悩みました。
すると、家臣達が「国の為に他国の姫と結婚するべきです。パライアは前王を手にかけた罪で火あぶりにしましょう」といいました。新王は家臣達の言う通りにしました。
縛られ、火を付けられる瞬間、パライアは叫びました。
「愚かな国。愚かな者ども。私一人が燃え尽きるなど、許すものか!」
パライアが炎に包まれた時、大きく地面が揺れたかと思うと、山が震え、火を噴き出しました。山が吐き出した真っ赤な火が沢山、沢山飛んできて街は燃えました。畑も家も教会もお城も人も、何もかも燃えてしまいました。そして黄金に満たされた国は、消えてしまいました。




