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そのあと、薪を組んだキャンプファイヤーで簡単なフォークダンスをした。ちなみに僕が斧で割ったもので、鋸の縞目を薄く残している。ただ、ぴたりと締まって落ち着くような仕掛けになっているのはロボットの数学的計算というたぐいで、僕なら、積木の玩具の親戚のようなジェンガよろしく崩落する。
たぬきが、「ソープランドソープランド、ヤッホッホー」と変なことを言っていた。それは眠いのを我慢しているうちにシモネタに走ってしまう十代の先走りのようなものを想起させた。
あらいぐまが、「スケベだよ、この人は」と言ったりした。
昭和の物言いだった。しかし、サラのカレーが美味しくてなんだかんだ二皿をぺろりとしてしまった僕は、若干の眠気を覚えているせいか、どうしてか、「頭の中がガラパゴス諸島だよ、この人は」と言っているように思えた。誰かに言ったら、本気で笑われる類いの妄言だろう。
焔は明るいオレンジ色に輝いている。なお、煙は無音の吸引式の装置が頭上で稼働しているらしく、変な煙の巻き上がり方をしている。蒼茫の瓦斯帯から宇宙が生まれたことを考えるのは、何も照明が『夜間モード』になったからというだけではなく、既にプラネタリウムが贋物の星空展を始めているからだ。
僕はその時に高村光太郎の『あどけない話』という詩を思い出した。
さて演出家がシーンの説明を始め、カットが出れば演出家や他のスタッフがモニタで演技をチェックし、OKかNGかを出すだろう。
アダージョ、最初は落ち着いて、ゆっくりと―――。
しかし、―――これは致命的にであるが、フォークダンスとかいう優雅な代物ではない。実はこの筋のプロだと言うたぬきとあらいぐまとレッサーパンダーがお手本してくれたが、基本、蟹歩きである。またちょっと他に想像がつかないぐらい気の毒なダンスである。ただ、勘違いしてはいけないのは、『人間』ではなく『動物』ということである。
いわば、それは猫の肉球の香りのハンドクリームのようなものであり、さもなければ、猫のおでこの香りのファブリックウォーターである。どんなに僕が優秀な再現をしようが、土台、それは救急車ではなく霊柩車。
格が違うんだよ―――格が。
黒い三連星の狙いはよくはわからないが、僕に、フォークダンスの切なさや悲しさみたいなものを叩きこんだ。より精密な被害届の作成をするためにあえて語るが、僕はサラの背中越しに手を掴み、左へテクテク二歩ほど歩く。この時、たぬきは言った。レッドキングが尻尾を揺するように、と。注文に応じているだけ、駆け引きというものさえないのに、乱暴なそのダンス。そして右へやはり二歩ほどテクテク戻る。この時、バルタン星人のちょきちょき感を思い出して、とあらいぐまが言った。本当に言ったのだ。それから波の打ち寄せのように、左へ一歩、それから右へ一歩、最後にサラがターンして、右足に重心をかける変なポーズを決めて終了となる。デュア、とレッサーパンダが言った。もうそれ全然関係ないだろう、というかウルトラマンやたら詳しいけど、マニアなの、君達?
腑に落ちないことはたくさんあったが、練習に熱がこもっているのは確かな思いやりを感じた。問題は、すさまじくぎこちない上、なにか気色悪い蟹踊りであり、ウルトラマンは結局関係ないんじゃないかという見逃せない疑問点だった。
争点はしかし何をしたところで結局この『羞恥』は消えてゆかないだろうということである。途中から僕とサラそれぞれ単独で踊っている方が痛みは少ないんじゃないかと思ったが、後の祭り。でもこんなに笑ったのは記憶の中でもちょっと思い出せない。
そして、黒い三連星はといえば、ずっと変な踊りをし続けた。
もしマリワナ海溝の深海生物から着想を受けたというなら―――そうだろう。
「フォークダンスからの自由形―――」とたぬき。
「クロール+バタフライ感をフレーバーにして、」とあらいぐま。
そしてレッサーパンダは詩的にそのダンスのイメージを捉える。
動力伝達装置―――あるいはそのクラッチ機構。
「おぼろげから次第に鮮明になってゆくかき氷食べたい―――」
それは盆踊りのようにも見えた。あるいは、ある宗教的な舞踊を模倣している稀に見る兇暴な破壊力を持ったギャグで、可愛らしくなければ、一切の意味が成立しえない危険なわざだった。
手をつないで「ヒヤー」とか「イエー」とか、もう趣旨を無視したように三匹がいよいよ昂奮、絶頂、マキシマムスクリームして回転し終えたあたりで、おひらきになった。でも、火というものに不思議と心惹かれる心理はわかる気がした。それが知性というものの正体のような気もした。
ハンドグレネードを投擲したあの日―――。
*
ロボットがキャンプファイヤーの後片付けをしているあいだ、僕とサラは天体観測していた。ちなみにハンドマイクで星空の解説をしたのは三匹で、鰐が木登りするようなちょっと変な解説だったけど。
「ベガ―――ベガと言っても、ストリートファイターのボスキャラじゃなくてね」とか、そんな感じだ。社会科の教師が無駄話の行き過ぎの果てにラップを始めてしまうようなものだった。
それからやたらと美味しいコーヒーをロボットが淹れてくれたあたりで、黒い三連星は帰るよと言った。楽しかったよ、また誘ってくれよと言って帰って行った。印象がよかったせいで、名残惜しかった。そんなタイミングで「そろそろ行きましょうか」と肝試しが始まった。
もちろん、サラとロボットはあらかじめ仕込んでいた。
夜のおどろおどろしい闇が巨大な蜘蛛の巣に思える校舎に。
そして帰ったはずのレッサーパンダに似たあの人に、教室の天井から猛烈に飛びかかられました。言い訳を聞いてみると、「むささびとこうもりの違いについて哲学的に考察してみたかった」と言ったそうです。
だから僕も言った。「元気かい? もう随分会っていない気がするな」
ボウリングレーンにペンギン飾るような感じでね―――言った。
あとには何も残らないことってある気がする。孔明の罠。ドヤ顔セット。
アフターケアは付かない、当たり前のことだ。
[天井飛行型たぬき]を仲間にしました。
冒険を続けますか。
―――【YES】
そして帰ったはずのあらいぐまに似たあの人に、廊下の暗がりでこんにゃくを投げられました。言い訳を聞いてみると、「豆腐とこんにゃくの違いについて哲学的に考察してみたかった」と言ったそうです。というか、哲学好きだな。
そんなわけで僕も言った。「予告付きの映画みたいにステレオタイプだね」
そして、僕とあらいぐまは、警察官のように敬礼をし合った。
「イベントラッシュなんだ、猫が歩道橋から落ちる、妊婦うまれそう」
「そして真夜中の校舎にあらいぐまに似たあの人とすれちがう」
何をボヤいてやがる、しっかりしろよ。
むずかしいことは何も考えるな、感じるままに任せろ―――青春。
訛ってることなんてどうでもよかった。
わかるだろう、そんなことなんてどうでもよかったんだ。
[豆腐とこんにゃくの違いがわかるあらいぐま]を仲間にしました。
冒険を続けますか。
―――【YES】
もう言うまでもないことだけど、そして、帰ったはずのたぬきに似たあの人に、音楽室でピアノを鳴らしながら、変な奇声を上げ続けられました。言い訳を聞いてみると、「鳴き声とピアノの音の違いについて哲学的に考察してみたかった」と言ったそうです。
*
「絵筆から感性シュールに飛び出しちゃってんだよ派閥」もあれば、
「脳味噌じゅくじゅくなんだよ、ヘイ、ロックするぜ派閥」もある。
*
イギリスでは食べた分を消費するのに必要な運動量がその場でわかるラベルである、「Activity equivalent labeling」というのがあります。これは結構便利なもので、何カロリーで、歩いて何分、走って何分と表示してくれます。
*
わかるよ―――わかる・・・。
どうして『りんごジュース』と『トマトジュース』を割ってみようと思ったのか、それはわからない。色んな衝動が僕等の人生の場面を形作ってゆく。様々な時代の二流や三流の才能が氾濫している。
だから僕は言わずにはいられない。「これから君はどうするの?」と。
[离奇的想法たぬき]を仲間にしました。
冒険を続けますか。
いや、三匹出た時点でこのロールプレイングゲームは続けられない。世の中には依存関係があり、連携があり、それぞれ持ちつ持たれつでやっていこうとする向きがある。ベンチャー企業は飛ぶ鳥落とす勢いですごいけど、銀行は出資を渋る、親族会社に尻尾を振るみたいなもの。
『マネーの虎』の社長が自己破産ラッシュしてたのは関係ない。
何度も言うけど、続けられないのさ。
たぬきと、あらいぐまと、レッサーパンダたちは、僕の身体に巻きついてきた。それが、友情というものなのかどうかはわからない。ただ、もこもこして、ちょっと鬱陶しい感じで、けれどなにかの作用で快かった。僕等は肝試しを終える。そしてロボットが、壁にホラー映画のガチでヤバイ一場面を投影する。何だよ、それと言った。みんな震え上がった。そしてサラが、ものの五分の特殊メイクをして振り返る。学校の怪談。僕等には表情なんていうものがない。UFOに載せられた記憶を消されたみたいな話。のっぺらぼう。僕等はいつから、顔をなくしてしまったんだ。消えてしまったんだ。全部。
[真夜中のハードホラーロボット]を仲間にしました。
[特殊メイクで顔面えぐれたサラ]を仲間にしました。
冒険を続けますか。
冒険を続けますか。
―――【YES】
*
昔のドラマみたいに外国へ旅立っちゃうよ、俺、という終わりで納得できるリアリティの作用なんだろうか。ぐす(?)・・。
え、泣いたの、泣いたの―――。
ぐすっ(?)
*
たぬきが、「ホラビデ禁止、特殊メイク禁止」と言った。
あらいぐまが、「やめろやめろやめろ」と連呼した。
レッサーパンダが「漏らすところだったぜ、―――少し出たけど」と言った。
*
そんなこんなで校舎の屋上でテントをすることになった。ちなみに僕が農業見学をしに行っている間に、ロボットが設置済みだった。テントの中には何故か布団が敷かれており、まむしドリンクが置かれていた。色んなことを間違えているが、指摘するのに疲れた。たぬきとあらいぐまとレッサーパンダは、ロボットが僕の布団といった場所に猛烈な勢いで潜り込んだ。
サラは屋上に何故かある、給湯設備のシャワーで汗を流すと言う。そしてサラが普通に「ユウト、バスタオル持ってきて」というので、シャワー室の前まで持っていくと、一糸まとわぬ姿で当たり前のように立っていた。ユウト、と呼び捨てにした時点で既にそのお色気シナリオは始まっていた。
フルオープンだった。包み隠さず、だった。生まれた頃の姿だった。サラは、見ないでHと言ったりしたが、そんなのが常識的に通用するような場面ではなかった。手慣れた手法だった。女性が痴漢なんてするわけがないという迷宮入りの問題が残されていた。
でも、せめてシャワーをかけっぱなしで急をつかれた、ぐらいの演出は欲しかった。本当にまったく何をしているかわからない頭から蛆でもわいてきそうな、楽しい一日。僕もシャワーを浴びて就寝する。苺柄のパジャマだけど気にしない。サラとロボットの目論見は成功したのだろう。
*
―――大体、女の子を口説きたいのは、相手が好きなんだから、よっぽど鈍感なメス豚じゃなけりゃ、そんなの相手だってとっくにわかってるわけですよ。だべ? ハーレクイン百冊読んでから出直さなくちゃ駄目ね。少女漫画でまず勉強して。歩道を歩いたら道路側に立つ、欲しい物がないか聞く、洗濯も料理もする、男って忍耐だよ、言っておくけど。女だってほっといたら井戸端会議よ、あれも仕事なんですよ。そんな亭主関白とかさだまさしのそれ、無理だよ、言っておくけど。こんな下らなくてどうしようもない男でよかったらいかがでしょうかならわかるけど。だべ?
*
そして、レッサーパンダやあらいぐまやたぬきは、僕と一緒に寝た。やたらと進歩的な性格で、ビール飲もうぜとか、オザキユタカみたいにマドガラスわりに行こうぜ、バンジージャンプしに行こうぜ、極めつけは、眠っているサラを夜這いに行こうぜ、とか言った。最終的にビールだけ許可できた。装飾的な避雷針の一種といえるかも知れない。
ちなみに僕がシャワーに行っている間に、ビールは用意していた。
変な言い方だけど、彼等と接しながら僕は若い時分のことを思い出した。キラキラしているのを見て、空気が違うなと思った。澄んでるな、と思った。僕も十代―――思春期の時には、こういう空気感を持っていたのかな、とひそかに考えてしまった。生涯雇用に対する考え方もいくらか不景気で見直されたけど、アルバイトやニート、海外で暮らすというみたいに様々なライフスタイルが存在する。
もしあのまま世界が終わらなかったら、もし僕がこの施設で目覚めるようなことがなかったとしたら、どんな風に生きていたんだろうと思った。歩くスマホ野郎よろしく、自分の世界が可愛い自己肥大型人間たちの世界。動物たちは知識を持つことでどんなことを思ったり、考えたりしたのだろう。
(自殺とか)
(―――生きる希望をなくしたり、とか・・・)
ぷっはぁああ―――っつ・・と美味そうに飲む三匹はすぐに酔っ払った。ミニ缶にしておくべきだった、と思う。そして何故か僕の顔をべろべろ舐めてきた。閑雅な喪失者。直流発電機から交流発電機・・。何か他愛のない話をしたのだと思うが、記憶に残っていない。ただ、オタク、イケる口だね、と三匹に言われたのは覚えている。シネマな午後のオアシスの水というのかな―――しょっぱいものが唇を濡らしているわけじゃないのにね・・。
*
サラが言う、誰よ、ユウトさんにお酒を飲ませたの?
腕組みしているサラに、正座させられている三匹の図。
三匹もチラリと目配せして逃走経路を確保しようとするが―――。
隙というのがない・・・・・・・。
*
>こいつ、とたぬき、あらいぐまを指す。
>こいつ、とあらいぐま、レッサーパンダを指す。
>こいつ、とレッサーパンダ、たぬきを指す。
―――犯人がわかったわ、とサラが言った。
世界中ではこういうことを『自白う』と言うのかも知れない。
「みんな、ね」
「みんな、悪いから、ユウトもうしゃべるな」
「ぐへへ・・・・・・」
「みんな、悪すぎるから、ユウト、ビールの話やめろ」
「ビール?」
「みんな、悪かったと思うから、ユウト、しっかりして」
「―――さかな?」
*
ビール廃人は喋り続ける―――。
*
でもそういう一杯が、ある。お疲れ様、と言われたい夜がね・・。そりゃもうね、薀蓄こねても、ビールの種類ならべても、そんなのちっとも『酒』じゃない―――湯上りの火照りじゃない・・。牛丼屋で、何故か言い間違って、頼んでもいないのに、ビールがやってきて、これも人生かと牛丼食べてビールで流しこんでやった。あれが、そう、僕の究極のビールだった。あれほど、美味い牛丼もなけりゃ、ビールもなかった―――ね。
冷蔵庫でうんとよく冷やしたやつを、栓抜きでくい、パカッと開けるでしょ、あれいい音だね、それを、コップ使わない、コップ使うと美味しいという人もいるけどここはコカコーラスタイルでいきましょ、手が冷たいよね、それに瓶っていうのはこの握った感触がいいんだ、ぐっと、眼をつむりながら、一思いに、ゴクーッと呷るわけです・・・。
―――くふうぅぅぅ。
(ユーチューバ的ノリ見たか、ハローミライ、とロボットボイスきめたいぜ。)
[酔っ払いの主人公]を仲間にしま―――てん!
冒険を続けますか。
冒険を続けますか。
―――【NOOOOOOOO】
*
ビール廃人は喋り続ける―――。
永遠に・・・・・・。




